クラウド環境のセキュリティとコンプライアンス
パブリッククラウドを選択できない企業、クラウドが越えなければならない壁
企業は不安が解消されるまで社内クラウドを自社で展開することを選ぶのだろうか。
クラウドコンピューティングへの関心が高まっているが、導入の大きな障害が依然として残っている。一部の業界観測筋は、データのプライバシーとセキュリティに対する企業の懸念を踏まえ、企業がパブリッククラウドを選択するかどうかは疑問だとしている。企業のIT部門は、不安が解消されるまで社内クラウドを自社で展開することを選ぶのだろうか。
クラウド導入の障害は、2010年9月に米国ラスベガスで開催された年次カンファレンスHosting & Cloud Transformation Summitの重要なテーマだった。2つのパネルディスカッションで、専門家がクラウドのセキュリティ、プライバシー、導入上の問題を正面から取り上げ、プロバイダーとユーザーのクラウドへの取り組みが今後どのように進んでいくかを展望した。
相変わらず厄介なセキュリティ問題
米Tier1 Researchの調査によると、ここ数年、データのセキュリティ、プライバシー、コンプライアンスに関する企業の懸念が高まっており、この傾向は企業のIT支出に反映されている。2007年から2010年までの間に、IT予算全体のうちセキュリティやコンプライアンス対策に振り向けられる割合は、4%から13%以上に上昇している。
しかし、セキュリティ関連支出は増加しているものの、クラウドモデルにおけるデータのセキュリティとコンプライアンスの実現は、企業にとって相変わらず悩ましい課題だ。クラウドコンピューティングがまだ成熟していないことや、業界標準の欠如、頻発するデータセキュリティ侵害は、この課題の達成を困難にしている。
Hosting & Cloud Transformation Summitのセキュリティに関するパネルディスカッションで、Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)プラットフォームを利用すると、企業はPCI基準に準拠できないと専門家は指摘した。EC2ではSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証契約)やセキュリティが保証されていないからだ。つまりこのケースでは、従来の企業データセンターがハードウェア上で実現していたサービスを抽象化し、外部クラウドに移行することで、企業はそのサービスについてコンプライアンスを証明できなくなるわけだ。これはパブリッククラウドモデルへの移行の重大なネックになる。
さまざまな国や地域にある施設にデータを保存することの法的な影響も大きいと、Tier1のアナリスト、レイチェル・チャーマーズ氏は語った。英国のスポーツギャンブルサイトBetfair.comは、Amazon EC2を利用しないことを選択した。ギャンブル委員会が定める要件と、Amazonがデータセンターを置くさまざまな国におけるギャンブルの合法性を考慮してのことだ。Amazonがデータの保存場所を保証できなかったことから、Betfair.comは法令を順守できるめどが立たず、コンプライアンスを維持するために、EC2の導入による大幅なコスト削減を断念した。
クラウド業界では、企業のコンプライアンスに役立つ標準やフレームワークがないことも、大きな課題となってきた。新しいフレームワーク「CloudAudit」は、APIによって監査、アサーション、評価、保証を自動化するという考え方に基づいている。2010年1月にワーキンググループが正式に発足したCloudAuditは注目を集めており、フレームワークの空白を埋め、クラウドコンピューティングがニッチから主流になるのに貢献するかもしれない。
また、パネリストは、企業は手をこまねいて状況の改善を待っていてはいけないと強調した。保険の購入を検討し、セキュリティ侵害の影響を最小限に抑えなければならないという。パネリストのアンディ・エリス氏は、大企業が被害に遭った場合に、企業価値の下落や営業停止による多大な金銭的負担を回避するには、保険が極めて重要だと述べた。
企業はパブリッククラウドに移行するか
クラウド市場では、パブリッククラウドが企業に選択されるかどうかも大きな問題だ。
Hosting & Cloud Transformation Summitで行われたクラウド導入の障害に関するパネルディスカッションでは、パブリッククラウドに移行するまでの間、企業が代わりに社内クラウドを自社で構築することを選ぶかどうかが検討された。
システムのイメージングおよびポータビリティ管理を手掛ける米Racemiのプロダクトマネジャー、パトリック・ブライアント氏は次のような見通しを示した。「企業がパブリッククラウドに移行するのは、こんなソリューションが登場してからだろう。つまり、それは既存のワークロードをクラウドに移し、スケールアップとスケールダウンに柔軟に対応し、企業を管理の負担から解放するとともに、企業が求めるSLAとセキュリティを提供するソリューションだ」
こうしたソリューションが実現され、既存のワークロードをケアや管理が不要なセルフサービス型の安全なオンデマンドインフラに移行できるようになるまで、企業は代替策として既存インフラをプライベートクラウドモデルで利用するかもしれない。自らコントロールできない不安な外部プロバイダー環境への移行に踏み切ることは、企業には難しそうだ。
本稿筆者のジョゼフ・フォラン氏は米FSWのITディレクターで、米Foran Mediaの代表も務める。1995年からITに携わり、専門はインフラで2002年から仮想化とクラウドコンピューティングを手掛けている。
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