オープンクラウドの潮流【第1回】
【技術動向】中立性を保つOpenStackと商用実績のCloudStack
オープンソースの2大クラウド基盤である「OpenStack」と「CloudStack」。その変遷と最新動向を振り返るとともに、それぞれの戦略と指針を確認する。
※ 本連載は、『オープンクラウド入門 CloudStack、OpenStack、OpenFlow、激化するクラウドの覇権争い』のダイジェスト版として、2回にわたってオープンクラウドの技術動向をお伝えします。
クラウドコンピューティング(以下、クラウド)の普及に伴い「オープンクラウド」というキーワードが注目されている。以下は、オープンクラウドの実現に向けた5つの要素だ。
- オープンAPIを実装していること
- オープンソースベースのクラウド基盤やプラットフォーム環境が開発コミュニティーによって共同で開発されていること
- オープンソースプロジェクトの豊富な運用経験を持つ組織や団体、人材に支援されていること
- ユーザーは、ユーザー自身のアプリケーションやデータを複数のオープンなクラウド環境で利用できること
- 複数の事業者がサービスをアドオンできる、オープンで全体の最適化が図れるアーキテクチャと運用環境であること
上記を踏まえ、オープンクラウドを構成する技術には大きく3つのカテゴリがある。「オープンネットワーク」「オープンIaaS」「オープンPaaS」だ。
本連載ではその中のオープンIaaSとオープンPaaSについて扱う。第1回の今回は、オープンソースの2大クラウド基盤である「OpenStack」と「CloudStack」を中心に、オープンソースベースのクラウド基盤ソフトウェアの進展について解説する。そして第2回ではCloud FoundryやOpenShiftに代表されるオープンPaaSの技術動向を解説する。
オープンIaaS台頭の背景
2006年のAWS(Amazon Web Services)によるAmazon EC2/S3のリリースは、IT業界に大きな影響を与えた。そして2007年、米国カルフォルニア大学サンタバーバラ校でAWSと同様のクラウド環境を大学内でも構築することを目的とした研究プロジェクトとして、Amazon EC2 APIと互換性のあるソフトウェア「Eucalyptus」が登場。これを機に、OpenStackやCloudStackの他、「CloudForms」「OpenQRM」「Abiquo」など多くのオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアが登場した。日本国内では2009年4月にあくしゅが開発した日本初のプロジェクト「Wakame-vdc」などがある。
OpenStackプロジェクトの変遷
2010年7月19日、米Rackspaceと米NASA(アメリカ航空宇宙局)が中心となりOpenStackプロジェクトが開始された。OpenStackは、IaaS(Amazon EC2相当)やオブジェクトストレージ(Amazon S3およびEBS(Elastic Block Store)相当)などを構築できるオープンソースベースのクラウド基盤ソフトウェアで、KVM、XenServer、VMware vSphereなど多様なハイパーバイザーをサポートしている(OpenStackについて詳しくは:OSSクラウド基盤 OpenStackの全て)。
2010年3月、Rackspaceは自社でクラウドストレージサービスとして提供している「Cloud Files」のコードを「Swift」という名称で公開。また2010年5月にNASAはIaaS機能を備える「Nebula」をベースに仮想マシンの管理を行う「Nova」を公開した。これがOpenStackプロジェクトの始まりとなっている。OpenStackプロジェクトは、米Dell、米RightScale、米Intel、米AMD、NTT、NTTデータなどが参加し、既に180社以上、3300人を超える開発者がプロジェクトに参加している。
2012年4月12日には、米Rackspace、米AT&T、米Hewlett-Packard、米Red Hat、米IBMなど19社の企業や団体の参加による非営利団体「OpenStack Foundation」が設立され、IBM、Red Hatなどがプラチナメンバーとなっている。それ以前のOpenStackプロジェクトの任務は、開発やコミュニティー活動の緩やかな管理だったが、今回のベンダー中立の立場を取る財団「OpenStack Foundation」の設立によって、ガバナンス体系を採り、技術や財務での支援を行っている。
OpenStackでは、Apache License, Version 2.0を通して開発したソースコードを完全なオープンソースとして公開している。標準開発言語はPython、標準外部APIはOpenStack APIの独自APIで、REST API(HTTPベース)とAmazon EC2/S3互換API、標準OSはUbuntuとなっている。OpenStackは、大規模システムにも対応するスケーラビリティーを備え、特定のベンダーにロックインされない業界標準仕様のクラウド基盤を開発し、クラウド技術のイノベーションを促進することなどを指針としている。今後も無償のオープンソース版と有償のエンタープライズ版といった機能やサポートの異なるエディションを提供するOpen Core戦略は採らず、商用版のようなクローズエディションを作らないことを明言して中立性・透明性の確保を徹底している。
OpenStackプロジェクトの開発体制はコミュニティーベースとなっており、メーリングリストをベースに、意思決定のプロセスや開発プロセスは全てオープンに公開されている。OpenStackに取り込む機能項目の決定に当たっては、リリースとリリースの間の約半年ごとに世界中から開発者が集まる「Design Summit」を開催する。開発者から提案された方針・仕様・設計・実装などをオープンに議論し開発項目を決定している。技術的な面での意思決定においては、Architecture Boardの承認が必要となる。承認後のプロジェクト管理やソースコード管理は、開発者コミュニティーのためのポータルサイト「Launchpad」上で管理され、ソースコードはGitHubで公開されている。
アジアにおいてもOpenStackへの関心が高まっている。2012年8月10日~11日に、「2012 OpenStack APAC Conference」が北京、上海で開催された。アジア太平洋地域を対象としたカンファレンスで、アジア地域からはロシア、中国、韓国、台湾、オーストラリア、日本など、総勢2千数百人が参加した。各プログラムでは、韓国コリアテレコム(KT)のSwift採用事例や上海交通大学のOpenStackを取り巻く仮想ネットワークの動向など、活発な議論が行われた。
日本においては、2010年10月21日のOpenStack 第1版(Austin)のリリースに合わせ、NTTデータ、NTTデータ先端技術、クラウド利用促進機構、クリエーションライン、国立情報学研究所などにより「日本OpenStackユーザ会(JOSUG:Japan OpenStack User Group)」の設立が発表された。JOSUGでは、日本語によるマニュアルや解説文書の公開などOpenStackに関する情報発信、情報共有を行うなど、コミュニティーを通じて日本国内でのOpenStackの普及推進活動が行われている。
OpenStackを構成するコンポーネントの動向
OpenStackは、以下の通り、単独でも利用可能なコンポーネントから構成されている。コンポーネントの詳しい解説は「機能を徹底比較! ~Eucalyptus、CloudStack、OpenStack」をご覧いただきたい。
- Compute(開発コード:Nova)
- Object Storage(開発コード:Swift)
- Image Service(開発コード:Glance)
- Dashboard(開発コード:Horizon)
- Identity(開発コード:Keystone)
- Virtual Network Service(開発コード:Quantum)
- Block Storage(開発コード:Cinder)
OpenStackプロジェクトでは2012年4月5日、OpenStack5回目となるメジャーリリースとなる最新版「OpenStack 2012.1」(コード名:Essex)を公開した。OpenStackプロジェクトはこれまでに、リリースコード名「Austin」(2010年10月)、「Bexar」(2011年2月)、「Cactus」(2011年4月)、「Diablo」(2011年9月)、そして「Essex」(2012年4月)と機能面での進化を続けており、6カ月ごとのメジャーリリースを予定している。
6回目のリリースとなる2012年9月27日の「Folsom」では、Virtual Network ServiceのQuantumとCinderがCompute(Nova)から独立し、コアコンポーネントとして追加される。2013年4月には7回目のリリース「Grizzly」が予定されており、2012年10月15~18日の「Design Summit」で追加機能が決定された。
国内外で進むOpenStackの採用
OpenStackの採用は国内外でも進んでいる。
HPは2012年7月にOpenStackを採用したパブリッククラウド「HP Cloud Services」のパブリックβ版を発表している。Rackspaceは2012年8月に、OpenStackのEssexベースを採用したパブリッククラウドサービス「Rackspace Open Cloud」をβ版で提供開始すると発表している。米Red Hatは2012年8月、エンタープライズ向け製品として「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」上で動作するOpenStackを2013年初旬をめどにリリースする計画を明らかにしている。
国内では、GMOインターネット、サイバーエージェントによる採用がある。その他、海外では、米eBayが自社開発環境での採用、米Piston Computingがプライベートクラウド用の「Piston Enterprise OpenStack」の無償版「Airframe」をリリース、米Attachmate傘下のSUSEがOpenStackとSUSE Linuxを統合した商用サポート付きの製品「SUSE Cloud」をリリースしている。また、AT&Tやドイツテレコム、DellなどもOpenStackを採用したクラウドサービスやクラウドソリューションの提供を予定しており、2012年は商用サービスとして採用する事業者が多く登場することが予想されている。
お詫びと訂正(2012年11月21日)
【修正前】
国内では、ビットアイル、サイバーエージェントによる採用がある。
【修正後】
国内では、GMOインターネット、サイバーエージェントによる採用がある。
Apache CloudStackプロジェクトの変遷
OpenStackと人気を二分しているのがCloudStackである。CloudStackは、Amazon EC2に相当する機能を備えたオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアで、社内などのプライベートクラウドやパブリッククラウドのIaaS環境を構築するのに必要な機能と安定性を備えている。OpenStackと同様に、KVM、XenServer、VMware vSphereなど、マルチハイパーバイザーに対応している。標準開発言語はJava。標準外部APIはCloudStack APIの独自APIで、REST(HTTPベース)とAmazon EC2互換ツールを利用してAmazon EC2接続できるようになっている。ソースコードはGitHubで公開されている(CloudStackについて詳しくは:Citrixの仮想化技術と連携しクラウドポータルを実現するCloudStack)。
CloudStackの前身は、旧サン・マイクロシステムズの開発責任者が設立したベンチャー企業の米VMOpsが開発したVM Instance Managerだ。2010年5月にCloud.comのドメイン取得に合わせて社名をCloud.comに変更し、バージョン2.0をCloudStackのコミュニティーエディションとしてオープンソース化し、リリースしたという経緯がある。
2011年7月12日には、米Citrix Systems(以下、Citrix)がCloud.comを買収し、無償のオープソース版のコミュニティーエディションと商用版の有償エンタープライズエディションが統合され、完全なオープンソースとして提供された。
2012年4月3日にはCitrixが、オープンソースソフトウェアの開発や普及を推進する非営利団体「Apache Software Foundation(ASF)」にOpenStackの寄贈を発表。それにより、CloudStack 3.01以降のライセンス形態は、GPLv3からApache License, Version 2.0に移行した。Citrixは、同時期にASFのプラチナスポンサーにもなっている。ASFの重要なプロジェクトには、Apache HTTP ServerやApache Tomcat、Hadoop、Cassandraなどがある。
CitrixはASF寄贈時、CloudStackに3万人以上のコミュニティーメンバーや、数千もの認定アプリケーション、数百社のクラウドでの採用実績、合計10億ドル以上の売上実績があることを明らかにしている。CloudStackは、ASFのインキュベーションプロジェクトとして開発されることになる。
日本においては、「日本CloudStackユーザ会」「Japan CloudStack User Group(JCSUG)」が設立され、開発者やCloudStackを採用するベンダーや情報システム担当者などが参加し、活発な情報交換が行われている。
Citrixは2012年5月9日、米国で開催されたCitrix主催のカンファレンス「Citrix Synergy」にて、Apache CloudStackをベースにした商用版「Citrix CloudPlatform, powered by Apache CloudStack」(以下、Citrix CloudPlatform)(コードネーム、Bonita)を新たにリリースしている。
CloudStackを構成するコンポーネントの動向
CloudStackは、以下の通りのコンポーネントから構成されている。コンポーネントの詳しい解説は「機能を徹底比較! ~Eucalyptus、CloudStack、OpenStack」をご覧いただきたい。
- Management Server
- Computing Node
- Primary Storage
- Secondary Storage
- Cluster
- Pod
- Zone(Availability Zone)
CloudStackは、2012年3月にCloudStack 3.0(Acton)、2012年5月にBonita、8月にBurbankをリリースしている。また、Apache CloudStackプロジェクトは2012年11月6日、CloudStack 4.0.0をリリースした。2012年4月3日にCitrixからASFに移管されて以来、初のリリースとなる。CloudStack 4.0.0では、Amazon EC2 APIとEC2互換ツールを使わずに接続でき、vApps 2.0のフル機能をサポートする。アーキテクチャのモジュラー化が進み、ユーザーインタフェースやネットワークやストレージのコントローラーをプラグインできるようになる。SDNを実現するOpenFlowにフル対応し、CloudStackがコントローラーとなり仮想ネットワークの設定変更や運用管理が行えるようになる。
国内外で商用実績の多いCloudStack
CloudStackはオープンソース基盤ソフトウェアの中で商用実績が最も多く、国内においても導入が進んでいる。
インドのタタグループのタタコミュニケーションは、パブリッククラウド「InstaCompute」の提供でCloudStack、課金システムなどユーザー管理の一元化でCloudPortalを採用している。KTは、新たなパブリッククラウドサービスの「KT ucloud」と大規模なプライベートクラウドの構築において、ClouStackを採用している。世界最大級のソーシャルゲーム会社の米Zyngaは、CloudStackでプライベートクラウド「zCloud」を構築し、Amazon EC2と併用している(関連記事:CloudStackを導入したZyngaの事例と北米クラウド最新動向)。
日本では北海道大学が2011年11月、「北海道大学アカデミッククラウド」にCloudStackを採用している。その他、IDCフロンティア、NTTコミュニケーションズ、KDDIなどがパブリッククラウドサービスとしてCloudStackを採用。SCSKの「Cloud System Enabler」、ユニアデックスの「U-Cloud クラウド環境構築サービス」、日立製作所の「日立クラウド基盤導入ソリューションPowered by Apache CloudStack」、日商エレクトロニクスの「Nissho-Blocks IaaS」、クリエーションラインなどがCloudStackを利用したプライベートクラウドソリューションを提供している。
OpenStackはプレビュー版などが多く商用版が少ないのに対して、CloudStackは既に多くの商用実績があり、Apache License, Version 2.0への移行に伴い、開発の自由度が高まり、今後もさらに採用する事業者は増加することが予想される。
林 雅之(はやし まさゆき)
国際大学GLOCOM客員研究員
2007年より主に政府のクラウド関連プロジェクトや情報通信政策の調査分析、中堅企業のクラウド案件等を担当。
2011年6月よりクラウドサービスの開発企画やマーケティング等を担当。
国際大学GLOCOM客員研究員、社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。オープンクラウド実証実験タスクフォース OpenPaaS研究会チェア。
※ 本連載は、『オープンクラウド入門 CloudStack、OpenStack、OpenFlow、激化するクラウドの覇権争い』のダイジェスト版として、2回にわたってオープンクラウドの技術動向をお伝えします。
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