Webブラウザでビル設備を管理
モノのインターネット(IoT)が実現する“スマートビルディング”とは
IT企業は、統合型ビルディングオートメーションシステムの導入や、設備管理の分野におけるモノのインターネット(IoT:Internet of Things)の採用が進めば、ビジネスチャンスが拡大すると期待しているようだ。
暖房、換気、空調(HVAC:Heating/Ventilation/Air Conditioning)、セキュリティ、冷蔵および照明は従来、個別のシステムとして運用されてきた。またその多くは、独自方式に基づくニッチ市場を形成し、主流のITシステムや標準とは切り離された存在だった。だがこうした孤立は終わりを告げ、より統合的な環境の時代が訪れようとしている。ビルディングオートメーションを手掛けるシステムインテグレーターやリセラーは、顧客の各種既存システムの間に存在する溝を埋めたいと考えている。
ビルの新築・改築プロジェクトは、ビルディングオートメーション分野の企業にビジネスチャンスを提供する。ビル管理者にとって、統合型ビルディングオートメーションの導入を促す要因は幾つかある。まず、統合化がエネルギーコストの節約になるからだ。また、単一のコンソールから全てのシステムを管理できるので、管理コストの節約にもつながる。
システムの陳腐化に対する懸念も、ビルの所有者が新たな視点からオートメーションを注目するようになった理由の1つだ。時代遅れの独自方式のコントローラー(コンピュータがビル環境のデータを受信して機器に指令を送信するシステム)はいずれ、ベンダーのサポートが切れる。
「ビル所有者たちは、これまで手を付けることがなかったインフラ部分の改造にも関心を示すようになった」と話すのは、ビル管理システムの構築・統合を手掛ける米Optimized Building Solutionsのディレクターを務めるデイブ・クリー氏だ。
ITベンダーがこの分野に参入する一方で、今後、IT企業とビル管理システム企業との融合が進むだろう。米Googleが2014年1月に米Nest Labsを32億ドルで買収したのも、その一例だ。Nest Labsは、携帯端末からアクセス可能なサーモスタットや煙感知器を開発しているメーカーだ。
コスト削減圧力
ビル所有者および施設管理業者が統合型ビルディングオートメーションシステムに関心を示している背景にはコスト削減圧力がある。
ビル管理システムの統合を専門とする米Building System Solutionsの顧客担当重役ブラッド・ロイヤル氏は「今日、多くのビル管理者が省エネ推進の必要性を強く感じている。これは変化を促す原動力となる」と話す。
ビル管理者たちは、1つのWebポータルサイトから複数のシステムを管理する機能も求めている。ロイヤル氏によると、ある企業では複数のビルで3種類のセキュリティシステムと数種類のHVACシステムを運用しているという。
異種システムを運用する複雑さ、そして統合による運用効率改善の可能性も、企業に統合システムの導入を促す要因になるだろう。
「人材の問題も導入の動機になる。数種類のビル管理システムの運用を担当している熟練スタッフが辞めると、その企業は窮地に陥る」とロイヤル氏は話す。
同氏によると、Building System Solutionsのビルディングオートメーション事業は、独自方式の従来型システムのアップグレードや統合プロジェクトの推進といった改造業務が中心だという。「15~20年も前の旧式システムが使われているケースにお目にかかったこともある」と同氏は話す。
ビルを新築する場合、ビル管理者は最初から統合システムを計画に含めるようだ。前出Optimized Building Solutionsのクリー氏によると、ビル所有者が関心を示すのは、設備の設置段階ではなく、構想・設計段階においてだという。統合システムの採用をいち早く決断すれば、設備のデザインを最適化できるというメリットがあるからだ。
「ビル所有者らは、構想段階からわれわれが参加するのを望んでいる」とクリー氏は語る。
だが全てのビル所有者と管理者が、ビル管理システムの統合を進めようとしているわけではない。
コンサルティング・市場調査会社の米Frost & Sullivanでエネルギー・環境市場の業界アナリストを務めるプラモッド・ディブル氏によると、従来型のビルディングオートメーションシステムと比べると、その自然な延長としての「スマートシステム」はビル環境の最適化手段としてはるかに優れているという。だが導入のハードルは低くないようだ。
「多くの商用ビルにスマートシステムの採用を促すだけの魅力がまだ十分ではないかもしれない。たとえ十分な魅力があるとしても、ビル所有者や管理者は価値提案を理解できるようにもっと学ぶ必要がある」とディブル氏は指摘する。
一方、ソリューションプロバイダーも時流に乗り遅れないようにしなければならない。
「プロバイダーのスキルと熟練度をさらに高めなければ、『スマートシステム』の広範な普及は望めない」とディブル氏は話す。
ディブル氏は「スマートシステムの導入で商用ビルの分野が占める割合は、導入件数10件に対して2件くらいだろう」と話す。より大きな比率を占めるのが政府分野と教育分野だという。
「統合システムを導入すべきかどうかという問題の背景には、もっと大きな議論がある。初期コスト、すなわちビル建設に掛かる初期投資と運用コストのどちらを重視するかという議論だ。ビル所有者は従来、初期投資と運用経費を別立てで管理してきた。だが両者を総括的に捉えるようにすれば、ビル所有者は長期的な運用コストを削減するために、初期投資にもっとお金を掛けてもよいと考えるようになるかもしれない」とクリー氏は説明する。
例えば、統合型ビルディングオートメーションシステムを構造設計に組み込めば、長期的な省エネと運用コストの削減を実現できるという議論もある。
統合戦略
統合化に向けたソリューションプロバイダーのアプローチの1つは、ビル管理システムのスマート化を容易にするというものだ。異なる種類の自動化システムを全て変更してまで統合ソリューションを採用したいというビル所有者は少ないからだ。
「コスト的な問題を考えれば、従来システムを一度に全部入れ替えるような全面的刷新をするというのは一般的ではない」とディブル氏は語る。
前出Building System Solutionsのロイヤル氏の会社では、統合メカニズムとして「NiagaraAX」を使っている。ソフトウェア/サービス企業の米Tridiumが開発したソフトウェアフレームワークであるNiagaraAXは、各種のビル管理システムを集約して各機器のデータを一元的に表示する。ビル管理者はWebブラウザを使ってインターネット経由で各システムを管理できる。Tridiumによると、このフレームワークは各システムが使用する通信プロトコルにかかわらずシステムを連係できるという。
NiagaraAXは従来型システムのフロントエンドのインタフェースを置き換えるだけなので、全てのシステムを直ちにお払い箱にする必要はない。
「基盤に置かれているシステムはそのまま使い続けられる」とロイヤル氏は話す。
旧式の技術が故障で使えなくなった時点で、ビル管理者は独自方式のコントローラーから、オープンな通信プロトコルを採用するものに切り替えればいい。従来方式とオープンプロトコル方式のビルディングオートメーションシステムが同一のネットワーク上で共存できるのだ。
「NiagaraAXは優れた移行パスを従来型システムに提供する」とロイヤル氏は言う。
一方ディブル氏は、もう1つの連係手段としてデータ通信プロトコルの「BACnet」を挙げる。BACnetを利用すれば、マルチベンダーに対応したビルディングオートメーションネットワークを構築できる。
「BACnetは事実上の標準として採用されている。これはスマートシステムの統一化に向けた前進だ」とディブル氏は語る。
融合
ビル管理分野では今後、ITとビル管理システムの融合が進むものとみられる。モノのインターネット(IoT:Internet of Things)のコンセプトは、広範な機器とセンサー、そしてユーザーにIPアドレスが与えられ、インターネットを通じて無線で通信を行うというものだ。
「IoTは、スマートビルディングシステムの真価において重要な役割を果たすだろう」とディブル氏は予測する。「ビルの中とその周辺に存在する全てのモノと人を総合的に把握することにより、ビルは個々の時点で求められる状態に応じてその環境を最適化できるようになる」
ロイヤル氏も、IoTがビルディングオートメーションに影響を与えると考えている。同氏によると、例えば、ビル管理者がIoT技術を利用して、ビル管理ネットワークにスマートメーターを組み込むといった応用が考えられるという。スマートメーターは電力供給網に接続され、エネルギー消費量を正確に把握することが可能になる。
クリー氏によると、IoTのトレンドは将来的にビルのインテリジェンスの再配置をもたらすという。従来はビルディングオートメーションシステム自体がインテリジェンス機能を担っていた。「だが、最終的にビルディングオートメーションシステムのインテリジェンス機能の大部分をデバイスレベルおよびクラウドに移行させる、というのが現在の方向性だ」と同氏は語る。
「スマートデバイスは自律性とインテリジェンスをさらに高め、ビルディングオートメーションシステムとデータを共有し、将来はクラウドともデータを共有するようになるだろう。クラウドは管理用のユーザーインタフェースとデータアナリティクス機能を提供する。アナリティクス機能は、ビルのデータ、天気予報、電気・ガス・水道のデータ、過去の冷暖房負荷などを分析する」とクリー氏は説明する。データ分析の結果は、ビル管理者がエネルギー消費と運用コストを削減する方法を検討するときの参考になるという。
クリー氏によると、従来のビルディングオートメーションシステムは今後も生き残るだろうが、主としてビル内の機器の機能を協調させる役割(スイッチのオン/オフ、ダイヤル調節など)を果たすようになるという。
こうした状況が出現するのは恐らく10年以上先だろう。それまでの間、ITベンダーは、既存のビル管理システムの連係やアップグレードをビジネスチャンスとして追求すればよいのだ。
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