「相互接続性」「データ活用」が発展の肝に
火災報知器とパジャマが連係――「モノのインターネット」進化の条件
身の回りのあらゆる機器がネットワークへつながる「モノのインターネット」。市場規模は14兆ドル以上に達するとの見方もあるが、現状は発展途上だ。成長の鍵とは何か?
自宅や職場、自動車の中にある全ての機器がネットワークに接続されている世界を想像してみてほしい。車が自宅に近づくと照明が自動的に点灯し、朝の目覚まし時計が鳴るとコーヒーが入り始め、家族の一員が玄関のドアに近づけば鍵が自動的に開く。ただし、家族以外の人が玄関に立っても鍵は開かない。「モノのインターネット: Internet of Things」(以下IoT)が生み出せるのは、こういった世界だ。
今のところ、IoTは第2のインターネットではない。むしろ、Google検索や画像のアップロード、友人とのつながりなどに日々使われている、インターネットに接続された機器のネットワークだ。すなわち、機器はそれぞれIPアドレスを持ち、相互に接続して単純なタスクを自動化できる。
IoTはまだ幼年期だ。まだ完全には発達しておらず、断片化されている。IoTの開発促進に向けて企業間の連携を強化する目的で結成された団体「Internet of Things Consortium」のディレクター、ルイス・ガルベス氏は、IoTの現在の状況をコンピュータの誕生当初になぞらえ、次のように語る。「企業や一般消費者は、こうした機器がインターネットへ接続できることを理解し始めたところである。そろそろ、この技術をどう活用するかを考えるべきときだ」
ガルベス氏によれば、IoTは現状ではひどく断片化されており、「さまざまな企業や組織がそれぞれ、自分たちの顧客や自身のニーズに合わせて、独自にプラットフォームを構築している状態にある」という。
IoTの発展
IoTを完全に実現するためには、製品のメーカーや、企業間の取引関係にかかわらず、全ての機器が相互に接続できるようになる必要がある。
実際にIoTが使われている事例を1つ紹介しよう。新興メーカーの米Rest Devicesは、乳幼児突然死症候群(SIDS)の早期発見を目的に、「Peeko Monitor」というセンサー付きのベビー用パジャマを開発した。睡眠中の赤ちゃんの呼吸数が警戒レベルに達した場合、メールか電話で親へ連絡するか、911番(米国の緊急電話番号)へ通報する仕組みだ。
Peeko Monitorは、Rest Devicesが完全に制御しており、柔軟性には欠ける。例えば、Peeko Monitorのセンサーを目覚まし時計や家の照明と連動させて警戒を強化する、といったことはできない。センサーと連動する機器もRest Devicesが製造するか、あるいはメーカーと連携する必要がある。
「真のIoTといえるのは、火災報知器とベビー用パジャマを購入したユーザーが、この2つをいとも簡単に連係させられる状態だ」。リモートアクセス技術を専門とする米LogMeInのIoT部門Xivelyで製品戦略担当副社長を務めるチャド・ジョーンズ氏は、こう語る。
まずは、機器同士が直接接続できるプラットフォームが必要だ。企業の中には、1社が製造した機器同士を接続するためのプラットフォームを構築し、特定の問題を解決するためのクローズドなソリューションを開発しているところもある。だが、こうしたクローズドなソリューションは、成長中かつ既に混雑しているIoT業界の分断化を助長する。ネットワークへ接続している全ての機器が互いにデータをやりとりできるようにするには、全ての機器を同一のプラットフォームで接続しなければならない。
独自のインターネット網は、この問題を理解するための格好の例となる。米Appleの端末が全て、サイトやサービスも含めて独自のインターネット網を持ち、韓国Samsung Electronicsや台湾ASUSTeK Computerといった企業もそれぞれ独自にインターネット網を展開していたとしたらどうだろう。その結果は、有益とは程遠いはずだ。われわれが現在享受している堅牢で唯一のWebも恐らく存在しなくなってしまうだろう。
そこで登場するのが米LogMeInの「Xively」だ。Xivelyは9カ月間のβ版運用を経て、2013年5月14日(米国時間)に世界各地で提供開始されたIoT用のクラウドプラットフォームであり、各種機器のデータをやりとりできる。Xivelyは、LogMeInが自社のサービスに利用しているクラウドプラットフォーム「Gravity」を基盤とする。Gravityは、世界の10カ所のデータセンターで稼働し、2億5500万人のユーザーが利用している。
Xivelyを利用する製品は、メーカーや企業間の取引関係などにかかわらず、Xivelyを利用するどの機器とも簡単に接続できる。ジョーンズ氏によれば、Xivelyを介してインターネットに接続している機器は現在、世界の240カ国以上に広がっているという。
ただし、IoTを完全に実現するためには、必要なことがまだある。例えば企業は、ネットワークへ接続している機器をユーザーが見つけられるようにしなければならない。通信のセキュリティを確保し、機器の登録や制御、非アクティブ化により収集したデータを保存する必要もある。
ジョーンズ氏によれば、Xivelyは「通信にとってのスイス」だという。つまり、Xivelyは世の中のほとんど全てのプロトコルとさまざまな標準をサポートすることで、機器の相互接続を可能にする存在であるということだ。「今後のXivelyの開発では、より多くのプラットフォームをサポートし、より多くのプロトコルと連係するための機能を追加していく方針だ」と同氏は語る。
IoTの価値
IoTの価値は、「自宅に車が近づくと照明が点灯すること」にあるのではなく、「ネットワーク接続機器がユーザーに関して収集するデータ」にある。ネットワーク接続機器を導入している病院を想像してみてほしい。こうした機器が収集したデータから患者の病状に関する情報をアウトプットし、監視機器でアナリティクスをすることは、できる限り最適な状態で病院を運営するのに役立つ。
機器から収集したデータによって、一般消費者や企業、ネットワークに接続された都市全体までもが、より効率的に機能できることになる。ただし、大量のデータ収集には課題も伴う。
「今後解決すべきなのは、データを処理して、そこから何か価値あるものをユーザーへ提供するためのアルゴリズムに関わる課題だ。大量のデータをただ収集するのではなく、そこから果たして何を得ることができるかが重要になる」とガルベス氏は語る。
データの収集には、ユーザーのプライバシーとセキュリティに関する大きな懸念が伴う。ガルベス氏とジョーンズ氏はどちらも、「ユーザーのデータを守るのは製品メーカーの責任」との考えだ。
「データの保護に極力努め、ユーザーの情報を確実に守ることは、製品を作る個別の企業の責任だ」とガルベス氏は語る。
セキュリティの懸念はあるが、データ収集はIoTを実現する上で鍵となる要素であり、IoTの最終目標の一部でもある。
「目標は、こうした機器全てが相互にデータをやりとりできるようにすること。そしてデータをどう活用できるかに応じて、人々がそうした情報にアクセスできるようにすることだ」とガルベス氏は語る。
収集したデータから引き出せる価値は、「照明を数秒素早く点灯できること」から、「乳幼児の命を救うこと」「ネットワークに接続された都市の大幅なコスト削減」まで多岐にわたる。「IoTによって世界に関するより多くの情報を収集できるようになれば、人々は常に変化する環境との間で情報をやりとりし、適宜に反応して、莫大な経済的影響を引き起こすことができる」とガルベス氏は語る。
IoTがもたらす経済効果の試算は、専門家によってまちまちだ。ジョーンズ氏によると、IoTの経済効果は2025年までに1兆2000億ドルに達すると試算する専門家がいる。一方で米Cisco Systemsは、同じく2025年までにIoT市場は14兆4000億ドル規模に拡大すると予想しているという。
「IoT環境の潜在的経済力は、インターネットとモバイルの組み合わせなどかすんでしまうほど大きなものになるだろう」とジョーンズ氏は予想している。
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