ホワイトペーパーレビュー
ERPのグローバル展開、どこから手を付ければいい?
中堅・中小企業でもグローバル展開が必須の時代。ITシステムではERPをどう対応させるかを考える必要がある。ERPのグローバル対応を解説するホワイトペーパーを紹介する。
日本企業におけるERPの課題とはコスト低減とグローバル展開だ(参考記事:より小規模向けERPへと向かう中堅・中小企業、その先を解説する)。コスト低減のトレンドは10年ほど前から見られたが、グローバル展開は新しいトレンド。これまでグローバル展開が当然だった大企業だけでなく、中堅・中小規模の企業にとってもグローバル展開が必須になりつつある。取引先が海外に拡大、もしくは生き残りのために海外戦略を本格化させたことが要因だ。ビジネスがグローバル化すれば、基幹システムのERPも当然、グローバル化が求められる。
本稿では、TechTargetジャパンのホワイトペーパーダウンロードセンターに登録されているホワイトペーパーの中から、ERPをグローバル展開させるために参考となる3つのホワイトペーパーを紹介する。
経営層が真っ先に考えるべきこととは
調査会社のアイ・ティ・アールが執筆したホワイトペーパー。ERPのグローバル展開について「規模の大小を問わず、自社の製品やサービスの海外展開を重視している企業では、基本的なシステム要件」になっていると指摘し、その考え方やアプローチ方法を解説する。
ERPのグローバル展開で難しいのはシステム導入だ。ERPパッケージ自体は多言語、多通貨など基本的なグローバル対応機能を持つ製品が多い。だが、日本国内で既に導入しているERPの業務プロセスやシステム構成、運用管理手法などをそのまま他国の拠点に展開できるかというと、ビジネス慣習が違うために難しいと考えられる。
一方で国内と海外のERPを分断し、それぞれが最適化された環境で運用することは避けたい。全体最適が難しくなり、全社レベルでの業務の効率性が低下する。日本の本社から海外のERPを管理できないというITガバナンスの問題も発生する。
ホワイトペーパーでは「『業務要件ありき』で、これを確定してから設計に着手するといった手法、つまり従来型のコミュニケーションに依存したやり方だけでは、多国・多拠点間を横断するシステムを設計するのは難しい」と指摘する。つまり、海外の個別の事情に合わせてERPを作り込んでいたのでは、上記のITガバナンスの問題に加えて、ERPがカットオーバーするまで時間がかかったり、システムの品質に問題が発生する可能性があるということだ。
アイ・ティ・アールはこれらの問題に対する解決策として、ERPのグローバル展開で先行する欧米企業のポリシーを紹介する。それは「実装を進めるうえでのアプローチ方法や方法論はほぼ同一であり、パッケージをベースとするか、補完的に利用するかといった実装方針の違いはあるものの経営資源、業務プロセス、システムをどう配置していくかが骨格となっている」という内容だ。ITシステムのグローバル展開に責任を持つ経営層ではまず、経営資源、業務プロセス、システムという3つのレイヤーで考える必要がある。この3つをいかに集中させるか、もしくは分散させるかを考えることで、ERPをグローバル展開するための手順が見えてくる。
このような作業を経て具体的なERPのグローバル展開を検討できるようになる。検討で重要なのは、システム的に何が可能、もしくは不可能という議論ではなく、ビジネスの目標を達成できるかどうかだ。このホワイトペーパーでは「具体的には、どの事業をどの程度成長させていくことを前提とするのか、それを実現するための組織、機能、人的資源をどのように配置するのか、販売、生産、物流拠点はどうするのか、そして、そういった活動から取得すべき経営レベルの情報要求をどのように定義するのかといったラフスケッチの検討」の重要性を訴えている。
競争力強化と業務効率化の両立目指す
ERPで全体最適を目指すのか、それとも個別最適を残すのかはグローバル展開を考えても重要な課題だ。ERPで業務プロセスやITシステム環境を統一すれば業務を標準化でき、運用管理の効率や品質が一定になる。既にERPによる業務プロセスが固まっているのであれば、仮に新しい国でビジネスを始めることになってもそのERPと標準の業務プロセスを移植するだけで業務を始めることが可能だ。これがERPによる全体最適のメリットだ。
一方で全体最適を目指すと、個別の要件に応えられなくなる。例えば国民の消費が急成長している国で新規ビジネスを始める際、その国特有のビジネス慣習があり、ERPに改修が必要になることがある。全体最適を進めたERPではこのような個別の改修が難しいが、個別最適を許すシステムであれば改修が可能で、その国のビジネスにERPを最適化できる。しかし、個別最適が各国のERPで進めば、企業グループ全体でのITシステムの統合性や透明性が低下し、運用管理にコストが掛かるようになったり、アップグレードが難しいなどの問題が出る。
ここで紹介するホワイトペーパーでは、多くのERPが多国籍の言語、通貨、法律などに対応できる機能を用意しているため、グローバル展開で利便性が高いと説明する。その上で、全体最適・個別最適の問題について、「企業の競争力の根源、コアコンピタンスを支える業務とそれ以外の業務とに分類すること」を勧める。企業の競争力を高めるコアコンピタンスについてはERPによる業務標準化ではなく、カスタムアプリケーションで作り込む。一方、それ以外の業務(ノンコアビジネス)についてはERPで業務を標準化し、効率性を高めるという考え方だ。ホワイトペーパーによると、一般的な企業の業務では85%がノンコアビジネスで、コアコンピタンスにつながる業務は15%ということだ。
ホワイトペーパーではこの上で、ERPとカスタムアプリケーションの構成例3つを示している。重要なのはERPとカスタムアプリケーションを柔軟に組み合わせるハイブリッド開発で、企業の競争力と効率性のバランスを取ることだ。技術的にはSOAによる開発の標準化やコンポーネントの再利用、独自開発の容易さなどについて解説している。
グローバル企業のERP導入事例
自動車部品製造最大手のValeoのグローバルERP導入事例を紹介するホワイトペーパー。同社は各国に121拠点の製造工場と61拠点の研究開発センターを持ち、10種の製品ファミリーを設計、製造。主要大手自動車メーカーに対して部品を供給しているグローバル企業だ。ERPのグローバル展開に関する全体最適・個別最適の課題をERPパッケージ+専門の業務アプリケーションという構成で解決したという。
同社はERPプラットフォームとして「SAP ERP」を採用。さらに企業内の全てのロジスティクス業務の実行管理を含む、製造オペレーション管理(MOM)のプラットフォームとしてアプリソの「FlexNet」を採用した。SAP ERPだけでは製造オペレーションとの連携が難しく、膨大なカスタマイズが必要だった。それをFlexNetで補ったという形だ。FlexNetとSAPはSOA技術を活用することでシームレスに連携させることが可能で、「社内のERP資産を最大限に活用」できると同社のCIOは述べている。
FlexNetはValeoの82拠点で導入され、在庫のトラッキング、資材フローの可視化、荷造り、ラベルの規定順守などに利用しているという。同社がMOMソリューションを重視する理由は、さまざまな国の工場で開発された部品であっても、同一品質を維持することが求められるからだ。そのため、業務の標準化は極めて重要だ。これは多くのグローバル企業に共通する課題だろう。
同社には、各工場から挙がってきた新しいシステム要件の優先順位を決定したり、定義されたベストプラクティスが、工場固有の要件とグローバル環境の両方に対応しているかどうかを判定するチームが存在するという。このチームの判定をクリアした要件と対応する業務プロセスやシステムだけが、ベストプラクティスとして認められ、社内に配布される。このように厳密に要件を精査することで、同社は品質や業務プロセスを管理している。グローバル企業がどのようにERPを活用して業務の標準化と競争力の向上に努めているのかが分かるホワイトペーパーだ。
今回紹介したホワイトペーパー以外にも、ホワイトペーパーダウンロードセンターでは、技術文書や製品資料、事例紹介などERPのグローバル展開に関するホワイトペーパーを掲載している。ぜひダウンロードしてご活用いただきたい。
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