ERP Now!【第6回】
基幹系クラウドの期待と現実、調査結果で赤裸々に
企業のIT部門はクラウドコンピューティングをどう見ているのでしょうか。JUASの調査結果からはベンダー発の情報からは分からない基幹系システムのクラウド化への期待と現実が伺えます。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が3月24日に発表した「第17回 企業IT動向調査2011」が興味深い内容です。ITベンダーなどが押し進めるクラウドコンピューティングに対して、IT部門の現場では期待と同時に不信感が高まっていることが分かるからです。IT部門の現状を伝える調査結果を紹介しましょう。
調査は2010年11月に実施。ユーザー企業のIT部門1144社と経営企画部門1075社に聞きました。さらに45社のIT部門長には個別インタビューを行い、分析したということです。
売上高1兆円企業の半数がSaaSを利用
企業のクラウドについての関心は増大しています。IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)とも「導入・検討中」とした企業の比率は2009年調査から2倍以上に増加し、IaaS、PaaSともに29%の企業が「導入・検討中」です。SaaS(Software as a Service)についても「導入・検討中」は2009年の27%から2010年は44%となりました。特に売上高が1兆円以上の大企業では49%がSaaSを導入済み、もしくは試験導入中です。
JUASはIaaS、PaaSについて「2011年度は先行的な導入事例が増えるとともに、成功と失敗の教訓がより明確になり、その実行性について一定の評価が下される年になるだろう」と指摘しています。また、SaaSについては「適用領域を限定して堅調に普及の途上にあり、パブリッククラウドの中では最も早く成熟期を迎える」と予想しています。
ただ、基幹系システムにおけるSaaS/ASPの利用は発展途上です。基幹系システムでSaaS/ASPを使っている企業は3%にとどまります。例えば300人未満の企業では3%の企業が受発注や仕入れ・在庫管理システムなどでSaaS/ASPを利用しています。従業員が1000人以上の大企業ではこれらの比率は1%程度で、現状では中小企業が基幹系システムのSaaS/ASPを使っていることが分かります。
しかし、大企業でも15%の企業が今後は顧客管理のSaaS/ASPを使いたいという意向を示すなど注目は高まっています。人事・総務のSaaS/ASPについても大企業の10%が関心を示しています。企業間で共通の処理が多い業務分野からSaaSの利用が広がっていくと見られます。
経営層の理解をどう高めるか
今後、クラウドが普及するには2つの課題をクリアする必要があるようです。1つは経営層の理解です。調査によるとIT部門の8割はクラウドについて「経営層の理解度は低い」と回答しています。IT部門自体では74%が「クラウドの定義・本質を理解している」と答えていて、対照的です。一方で、売上高1兆円以上の企業の4分の1では、クラウドの導入を検討するように経営層からプレッシャーを受けていると回答しています。クラウドに関心を持つ経営層は増えているが、その理解度には疑問というのがIT部門の実感のようです。
また、IT部門の9割弱は「ベンダーはクラウドの定義・本質をもっと明確にすべきだ」と考えています。ベンダー発のクラウドの情報が氾濫することで「経営層にクラウドへの理解の混乱と、過大な期待感を抱かせる原因となった可能性は否定できない」とJUASは指摘しています。IT部門の3分の2は「クラウドは既存のサービスの名称を変えただけの宣伝用語にすぎない」と厳しい指摘をしています。
クラウド普及のもう1つの課題は目的の明確化です。クラウドはコスト削減目的で注目されることが多く、基幹系システムのクラウド化で挙げられている期待・導入目的のトップは「ハードウェア、ソフトウェアの購入、導入、保守が不要」でした。2位は「安価にサービス(アプリケーション)を利用できる」で、いずれもコストにかかわる項目でした。ただ、JUASは「この目的のみであれば、既存のマネージド・ホスティングのようなアウトソーシング・サービスでも実現は可能」と指摘しています。コスト削減なのか、利便性の向上なのか、クラウドを検討する際は目的を明確にする必要があるでしょう。
注目されるのは今回の東日本大震災でクラウドについての企業の考えがどう変わるかです。クラウドを使うことでデータの分散やバックアップ、さまざまな拠点からのアプリケーション利用が可能になるため、クラウドがディザスタリカバリ(災害対策、DR)のソリューションとして注目される可能性は高いでしょう(参考記事:高まるデータセンターの停電リスク、企業はどう対応すべきか)。調査によると基幹系システムのクラウド利用で最も多い不安・懸念事項は「セキュリティ対策が十分かどうか分からない」ですが、今回の震災を受けてオンプレスでの基幹系システムの運用に不安を覚えた企業も多いと思います。そのような企業がDRの一環としてクラウドを真剣に検討する可能性が高いのではないでしょうか。
グローバル化、リアルタイム経営に投資
JUASの調査では毎年、特定のテーマを設けて重点的に聞いています。2010年調査の重点テーマは「グローバルIT戦略」と「IT投資マネジメント」でした。
グローバルIT戦略では、全業種で2009年と比べて2010年はIT投資で解決したい経営課題として「グローバル化への対応」を挙げる企業が増加しました。特に機械製造、素材製造では20%以上の企業が経営課題の1、2位に「グローバル化への対応」を挙げています(全体では5位)。グローバル化の波が「大企業だけに限らず、中小企業にも及んだ兆しが伺える」とJUASは指摘しています。
もう1つの重点テーマであるIT投資マネジメントでは、企業の今後のIT投資動向を明らかにしています。IT部門が考えるIT投資で解決したい中期的な経営課題のトップは「リアルタイム経営(迅速な業績把握、情報把握)」で、2位は「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」。経営企画部門でも同様の結果ですが、その比率はIT部門の回答よりも高くなりました。
IT部門が考える具体的なIT投資先では「生産・在庫管理」が18%でトップ、2位は「販売管理」で14%、3位は「経営情報・管理会計」で13%となっています。企業の回答上位3位までの累計では「経営情報・管理会計」がトップでした。JUASでは「業種・規模を問わず、企業の情報化において『経営情報・管理会計』が中核的位置付けにある」と指摘しています。
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