再考:流通業のBCP【第5回】
大手卸 中央物産に聞く、東日本大震災の被害状況
日用雑貨卸の中央物産は、震災により業務に影響を受けた流通企業の1つである。その原因は、計画停電により物流センターおよび受発注システムが機能できなかったためだという。
東日本大震災後、流通業にはどのような事業継続計画(BCP)が求められているのか。前回までは流通業へのアンケート結果やベンダー取材を基に、流通業企業のBCP意識と今回の震災における被害状況を概観した。続く本稿と本連載の最終回となる次回では、大手卸売業である中央物産に取材した、震災直後の対応と現在進行中で見直しを進めている同社のBCPをまとめる。自社のBCPを再考する上でのヒントになれば幸いである。
大地震によりマテハン機器のリスクが顕在化
中央物産は化粧品やせっけん、洗剤、医薬品などを扱う日用雑貨卸売企業である。その歴史は上州屋として創業した1920年にまでさかのぼり、以来、1961年に米Procter & Gamble(P&G)と輸入販売総代理店契約を締結、1979年には盛嘉商会を吸収合併、さらに2005年にはメーカー子会社であるエナスを設立するなど、業容を着実に拡大させてきた。現在では東京本社を合わせて全国に10の営業拠点を展開。ロジスティクスセンター(LC)も埼玉県久喜市や越谷市など関東エリアだけで6拠点を数える。
日本の流通業企業が高いBCP意識を持っていることは「震災前のアンケートに見る流通業のBCP意識」や「社会インフラである小売業が進むべき道」でも紹介したが、同社も東日本大震災以前から災害に強いシステム作りに力を入れてきた。2006年には日本でも特に地震が少ないとされる山口県にバックアップセンターを新設し、5分ごとに基幹システムから差分データをバックアップする仕組みを整備した。また、各LC、センターを異なるキャリアの通信サービスで結ぶことで、ネットワークの冗長化も実現。さらに、万一の際のセンター切り替え作業を円滑に行えるよう、本番環境でのセンター切り替えテストを毎年行っているほどだ。
同社で管理本部 システム部長を務める河守 修氏は、「当初は作業手順が現場に周知されておらず、切り替えに戸惑うことも少なくなかった。その反省を踏まえ、作業手順マニュアルを一から作成し、今でも内容の見直しを進めている。せっかくの仕組みも使いこなせなければ意味がない」と切り替えテストの意義を説明する。
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上記調査「消費財メーカー・卸売業における災害対策アンケート(2010年7月実施) 第2回調査報告書」の抜粋版をTechTargetジャパンのホワイトペーパーダウンロードセンターに掲載している。ぜひ本連載と併せて読んでいただきたい。
こうした前向きな取り組みが功を奏し、今回の東日本大震災においても同社の物流業務を支える基幹システムでトラブルは一切発生しなかったという。また、津波などによる施設や社員への直接的な被害もなかった。
だが、「想定を超えた物流機能への被害、浮き彫りになった自社対応の限界」で紹介したのと同様に、物流機能については同社も被害を受けざるを得なかった。具体的には、関東地区のセンターの多くで積み荷の崩れが発生し、また同社の伊勢原LCでは地震によるコンベアーのゆがみなどによって、震災直後からラインの一部を停止する事態に陥ったのである。
河守氏は、「積み荷の崩れが発生したために、積み直しや商品チェックに時間を割く必要に迫られた。加えて、伊勢原LCでは省力化のために搬送コンベアーや重量物を産業用ロボットで運ぶパレタイザーなど、マテハン機器を積極的に取り入れていたが、そのリスクが大震災によって一気に顕在化してしまった」と打ち明ける。
計画停電でピッキング作業が不可能に
中央物産ではマテハン機器のリスクを踏まえ、それらをできる限り排したLCの設計にもいち早く取り組んできた。「人の知恵で動かす」を基本コンセプトに建設された同社の久喜LCはその代表例である。久喜LCは入出庫時に商品を搬送するベルトコンベアーを配置しておらず、また、人手による同社ならではの「直接荷ぞろえ方式」を採用している。これにより、ベルトコンベアーによるケース仕分けシステムでは対応が完全には困難だった客先ごとの店別・カテゴリー別の細かな仕分け・荷ぞろえにも対応。この手法であれば、「いわば“人海戦術”で対処できる余地が大きく、トラブル対応の柔軟性も大幅に高まる」(河守氏)わけだ。
しかし、久喜LCでも配送業務に大幅な遅れが生じる事態を免れることはできなかったという。それはなぜなのか。
「ピッキングなどに用いる端末は内蔵バッテリーで動作したが、データを受信するアクセスポイントが計画停電でダウンしてしまい、業務を行えなくなってしまった。こうした事態は全くの想定外。また、いずれのLCも同様の状況にあり、伊勢原LCでも地震発生数時間後には施設の修理を完了したものの、満足に稼働させることができなかった」
需給の切迫にどう対応するか?
卸売業は川上のメーカーから商品を仕入れ、川下の小売店に商品を納めて業務がはじめて完了する。だが、震災直後はメーカーの工場の被災や原料不足などの影響で、通常時とは調達できる商品の種類や量が大きく制限された。一方で、小売店からは「今後、水道が使用できなくなることに備えて、ウェットティッシュなどに通常の10~20倍もの引き合いが寄せられた」(河守氏)。その結果、震災直後はサプライチェーンの維持そのものが極めて困難な状況に陥ったのである。
この異常時にあって、同社は業務を継続するために、仕事の進め方を変えることが不可欠と判断。見直しに当たっては「小売業に不公平なく商品をお届けする」との基本方針を掲げた。これは、被災者を含めてあらゆる消費者に必要とされる商品を届けることが、流通・物流に携わる企業の社会的使命であるという同社の考えにのっとったものだ。メーカーの在庫を買い占めることで他の卸が商品を手に入れられなかったり、その逆のケースが発生することは、何としても避けねばならなかったからだ。
“臨戦態勢”で調達すべき商品を見極める
とはいえ、業務を継続するに当たっては顧客の注文に応えるために、少ない在庫の中でも商品を切らさぬよう調達することが不可欠であった。当初は海外からの商品調達も計画されたものの、この手法には需要の急減により過剰在庫を抱えるリスクもある。そこで同社は、震災直後に経営幹部から成る対策チームを組織。毎日、当日と翌日以降の対応策について協議を重ね、調達すべき商品の見極めに力を注ぐという“臨戦態勢”を敷いたのである。そして、そこでの指針となったのが、同社の営業やマーチャンダイジング(MD)担当がメーカーや小売店、さらにWebで収集してきた各種の情報であった。
情報の集め方はさまざまだ。対策会議で「仕入れるべき」と判断した商品については、MD担当がメーカーに毎日電話をかけ、在庫や生産状況について個々に確認作業を行った。また、営業担当は店頭に足を運び、そこでの商品の動きから次なる売れ筋商品の見極めに力を注いだ。さらに、ブログやTwitterなどの書き込みから、今、世の中で必要とされている商品に関するヒントを探ったという。
「営業やMDから寄せられるさまざまな情報を基に今後の需要を予測するとともに、小売店が欲する商品がない場合に備え、代替となる商品を見つけ出すことに奔走した。特に後者は欠品による顧客からの信用の低下を回避し、顧客をつなぎとめる上で極めて重要な取り組みと位置付けられた」
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