再考:流通業のBCP【第3回】
震災を契機に流通業の「レガシー解決」が進む?
今後の災害対応のために、流通業企業のシステムには変化が求められている。旧システムの見直しはBCPの一環とも捉えることができるのだ。
本連載の第1回「震災前のアンケートに見る流通業のBCP意識」では流通業の事業継続計画(BCP)活動を、第2回「想定を超えた物流機能への被害、浮き彫りになった自社対応の限界」では東日本大地震の被害について概観してきた。続く今回は、今後の復興に向け、果たして流通業企業に何が求められているのかを、まずはシステムの面から探ることにする。なお、プラネットの協力の下、本連載で度々引用している「消費財メーカー・卸売業における災害対策アンケート(2010年7月実施) 第2回調査報告書」の抜粋版をTechTargetジャパンのホワイトペーパーダウンロードセンターに掲載している。本連載と併せて読んでいただきたい。
アナログ通信網がダウンしても事業を継続するために
プラネット 代表取締役 玉生弘昌氏は、「今回の震災を機に、流通各社が既存のレガシーシステムの見直しに着手する可能性は決して低くない」と見る。流通業ではレガシー問題への対応の必要性が叫ばれてきたものの、オフコンに代表される老朽化したシステムは今なお多くの企業で稼働を続けているのが実情だ。
BCPにおけるレガシーシステムの問題は、30年も前に仕様が定められた、電話回線を前提としたアナログの通信仕様「EOS(Electronic Ordering System)」が依然として相当数の小売業で採用されている点にある。これでは大規模震災などでアナログ通信網がダウンした場合、事業を継続することは極めて難しい。今回の震災では電話が常に話中状態になり、システムを利用できない企業があったことからもそのことは理解できよう。災害対策を考えれば、ネットワーク側で通信経路を自動的に確保するTCP/IPの方が圧倒的に優秀だ。プラネットでもTCP/IPによるEDIサービスを1999年に開始し、2009年10月にはユーザー企業の全てが同サービスへの乗り換えを完了したという。
一方、オフコンは一般に外部ネットワークとの接続を前提としていない。そのため、一部の企業では専用サーバを外付けしてTCP/IPで通信を行っているが、この手法にも問題は残る。レガシーシステムは長年の運用の間に継続的に手が加えられ、また、当時の担当者の退社などによって中身が“ブラックボックス”化していることが少なくないからだ。
「システムがブラックボックス化した場合、システムの機能変更は非常に難しく、BCPの見直しに伴う業務変更などに容易に対応できない。加えて経営の観点で見ても、例えば消費税が増税されアイテムごとに課税率が異なった場合、レガシーでは対策を講じるのは難しい。また、IFRS(国際会計基準)対応を図ろうとすれば売り上げの立て方や仕入れの計上方法を見直さなくてはならないことも課題になるだろう」
レガシー刷新で削減したコストをBCP対策に振る
最新プラットフォームに移行しようにも、「自社ではスキルが乏しく、ディーラーに依頼すれば高額な料金が請求される。そのため、これまでITコストを下げることが最大の使命とされてきた情報システム部門からは、リプレースを切り出しにくい」(玉生氏)状況にある。事実、BCP活動においてコストがネックとなり、システム面で対策が十分にできないという指摘も根強い。
「消費財メーカー・卸売業における災害対策アンケート(2010年7月実施) 第2回調査報告書」(2010年11月1日発行)によると、既に実施しているシステム対策は「バックアップデータを別拠点に保管」が30.8%、「システム設置場所でシステムを二重化」が24.9%であったものの、「特別なシステム対策は行っていない」も20.5%であった。この状況の抜本的な改善のためにも、レガシーシステムから脱却すべきというのが玉生氏の考えだ。
「システム刷新によりシステムにまつわるコストの大幅に削減が期待できる。実際に、当社でも継続的にシステムの刷新を続けてきた結果、EDIサービスの原価率を39%にまで圧縮できている」
ひいては、削減したコストを必要とされる投資に振り分けることで、BCP活動をさらに高度化するというのが理想とするシナリオである。もちろん、レガシーシステムの刷新には課題も多い。マイグレーションによりシステムをそのまま最新のプラットフォームに移植した場合、「中身がブラックボックスであることに変わりはない」(玉生氏)。また、ITスタッフがこれまで蓄積してきたスキルが陳腐化する恐れもある。さらに、刷新後、正しく稼働するかどうかという点でリスクもある。
だが、業務の見直しを柔軟に実施できないことは、BCPを見直す上で大きな問題だ。また、最新のプラットフォームへ移行すれば、インターネット通信を前提に拡張性に優れたXML(eXtensible Markup Language)のデータフォーマットを採用したEDIの新たなメッセージ標準「流通BMS」への対応も容易になる。その結果、EDIフォーマットの一元化が促されるとともに、EOSでは不可能であった画像などを扱うことも可能となり、送受信する情報量も飛躍的に増やすことができる。
「EDIの高度化によって連続自動補充やCPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)なども実現できる。その結果、在庫の持ち方が劇的に変わるなど、さらなる経営の効率化を実現できるだろう」
関連コンテンツ
消費財メーカー・卸売業における災害対策アンケート報告書
プラネットの協力の下、本連載で度々引用している「消費財メーカー・卸売業における災害対策アンケート(2010年7月実施) 第2回調査報告書」の抜粋版をTechTargetジャパンのホワイトペーパーダウンロードセンターに掲載している。ぜひ本連載と併せて読んでいただきたい。
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