名物CMOがモバイルビジネス成功の秘訣を伝授
「アングリーバード」仕掛け人に聞く、アプリで稼ぐ5大鉄則
累計ダウンロード数が17億件を超えたモバイルゲーム「Angry Birds」。大ヒットの秘訣は何か。開発元のフィンランドRovio Entertainmentの幹部が、その理由を解き明かす。
モバイルコンピューティングにはまだ破壊力があるということを信じられない人たちは、ピーター・ベスターバッカ氏による先日の米ボストンでの講演を聞き逃したのだろう。ベスターバッカ氏は、世界中で大人気のモバイルゲーム「Angry Birds(アングリーバード)」を生み出した、フィンランドのRovio Entertainmentの幹部だ。
“マイティイーグル(Angry Birdsに登場するキャラクターの1つで、巨大なワシを意味する)”という肩書で知られるベスターバッカ氏は、モバイルゲームで世界中に中毒者を続出させ、Rovioを一大エンターテインメントメディア企業へと成長させた人物だ。ヘルシンキに拠点を置くRovioは、世界中に広がるAngry Birdsファンのおかげで、ゲームに限らずあらゆる業界で事業を展開するほどまでに力を付け、既に一大勢力を築いている。
実際、Rovioはハリウッド映画のプロモーションの方法を変え、アニメの視聴方法を変え、コーヒーやキャンディなどさまざまなコンシューマー向け製品の売り出し方を変えつつある。
Rovioの成長の軌跡は、記録に残されている。だがトレードマークの赤いフード付きパーカーを着て、自らAngry Birdsのような風貌をしたベスターバッカ氏が、フィンランドなまりの英語で同社の壮大な戦略について秩序立てて説明しているのを目にするまでは、この「生まれながらにしてモバイル」なビジネスの破壊的なリーチの広さを完全に理解したことにはならないのかもしれない。
Rovioは、地球上で最も多くのユーザー数を誇る企業の1つだ。Angry Birdsの累計ダウンロード数は17億件を超え、月間アクティブユーザー数はTwitterを上回る2億6300万人に達した。中国ではFacebookよりもよく知られたブランドとなっている。
中でも重要なのは、今やRovioの売り上げの45%をモバイルゲーム以外のコンシューマー向け製品が占めているという事実だ。アニメシリーズの「Angry Birds Toons」も新たに開始し、Rovioは今や地球上で最も大規模な動画配信業者の1つとなっている。Angry Birds Toonsは現在、Angry Birdsのモバイルゲームアプリから視聴可能であり、一部のテレビ局でも放送される予定だ。Rovioは、コーヒーやキャンディディスペンサー、ハロウィンの衣装、ビタミン剤まで、さまざまなキャラクター商品の販売契約を結んでいる。今や不動産にも手を出し、ここ1年で世界の計十数箇所にテーマパークをオープンしている。
ベスターバッカ氏は、米技術協会Mass Technology Leadership Councilが開催したモバイルサミットの講演で、同社の非公式なスローガンでもある「It’s a good start.(好調な滑り出しだ)」というフレーズを口にした。従来型の小売業者や実店舗ベースの企業が、軒並みデジタル化に躍起になっているときに、「Rovioは喜々としてその流れに逆らっている」と、同氏は得意げに語った。
Rovioの最高マーケティング責任者(CMO)を務めるベスターバッカ氏は、講演の壇上で、モバイル広告ネットワークを手掛ける米JumptapのCEO、ジョージ・ベル氏によるインタビューを受けた。モバイルビジネスを成功させるためには何が重要なのか。以下にベスターバッカ氏からのアドバイスを紹介する。
1. 人々に覚えてもらいやすくする
ベスターバッカ氏のアドバイスは、穏当で平凡な指摘から始まった。モバイルサミットでひときわ注目を集めていたベスターバッカ氏はまず、「モバイルゲームの開発に本気で取り組むなら、マーケティングに本気で取り組む必要がある」と切り出した。
同氏がいつも着ている、Angry Birdsがプリントされた赤いフード付きパーカーは? それこそがマーケティングだ。同氏が名刺に好んで用いている「Mighty Eagle」という肩書も同様である。同氏のLinkedInのプロファイルにある「change the world(世界を変えよう)」というスローガンもそうだ。「人々に自分のことを覚えてもらいやすくする必要がある」(同氏)
先日のビジネスイベントのように、スーツやネクタイ姿の人ばかりの中では、ベスターバッカ氏の存在感は一層際立つ。Mighty Eagleという肩書も、常に相手から反応が得られ、「会話のきっかけ」になるという。モバイルゲームの業界には、優れたゲームでありながら誰も耳にしたことがない作品であふれている。モバイルビジネスを成功させるためには、「いかにして目立つか」を考える必要があるということだ。
2. 適切に採用や解雇をする
RovioがAngry Birdsを発売した2009年12月、同社の従業員数は12人だった。現在の従業員数は600~700人で、半数はここ半年の間に採用されている。Jumtapのベル氏が壇上で計算したところでは、毎日約3人を新規に採用するペースだ。ベル氏によると、Jumptapが急成長に伴って犯した過ちの1つは「応募条件のレベルを下げたこと」であり、この判断が最終的には高くついたという。
ではRovioは? 「当社は応募条件のレベルをある程度の高さに保っている」と、ベスターバッカ氏は語る。ヘルシンキには、大卒の若くて才能豊かな人材があふれている。フィンランドのNokiaの衰退のおかげで、経験豊富な何千人ものモバイル技術者が求職中であることも、Rovioにとっては追い風となっている。
実際、ベスターバッカ氏によると、Rovioの成功と戦略を構成する要素の1つには、「自分に何ができないかを自覚していない20代の若者たち」と「自分が何をしているのかを理解している経験豊富なプロフェッショナル」とをうまく混合させていることがあるという。「われわれは採用が得意だ。解雇も非常にうまい。損失を減らすことは、会社にとっても従業員にとってもプラスになる」(同氏)
なお、男女比について1つ、言及しておくべき点がある。Angry Birdsのファン層は男女比が半々だ。Rovioの従業員は70%が男性で、女性は30%。多くのIT企業と比べれば悪くはない。だが、それでもまだ偏りはある。ベスターバッカ氏によると、同社は男女比を均等にするための努力を続けているという。
3. 「うまくいかないこと」だらけの職場を耕す
「これほど驚異的な成長を駆り立てている社内文化について、従業員たちはどう評価しているか」との質問に、ベスターバッカ氏は言葉を濁した。小さな問題は各種存在しており、事業が急成長する中で、そのほとんどは無視されているという。
Rovioの“レース”は、短距離競走ではなくマラソンだ。「われわれが既に何かを達成したとは、社内の誰1人として考えていない。Rovioの従業員は皆、野心的だ」とベスターバッカ氏は語る(後述の「広い視野で考え、素早く行動する」の項を参照)。
一方で、職場は混沌とした状況に陥りかねない。「『ひどい、最低だ』と言う人もいるだろう」(ベスターバッカ氏)。その上、フィンランド人は現実的でぶっきらぼうだという国民性があるという。「フィンランド人は、悪いところを相手に容赦なく伝える」と同氏は指摘する。
Rovioが完璧にこなしているのは、新入社員の受け入れだ。新入社員には丸1日の研修が用意されており、1週間もすれば、「極めて生産的に働けるようになる」という。
4. 愛(とアプリストア)こそが全て
Rovioの2012年の売上高は2011年から倍増して1億9500万ドルとなり、利益は50%アップした。だが「問題は金ではない」とベスターバッカ氏は言い切る。
初代のAngry Birdsは、開発に8カ月を費やした。それほど時間がかかったのは、Angry Birdsの開発者が開発中にAngry Birdsをプレイするのに多くの時間を費やしたせいだという声が一部にある。「開発者にとっては、自分も楽しめるゲームを作ることが常に出発点だ。そして、完成した製品がファンにも愛されることが目標だ」とベスターバッカ氏は続ける。
Rovioでは、「ファンのエクスペリエンス」という言葉を1日に何度となく耳にする。「Rovioの『Angry Birds Star Wars』が、スターウォーズを愛する人たちによって開発されたことは明らかだ」(ベスターバッカ氏)
Angry Birdsは、Rovioが開発した52作目のゲームだ。それまでの51作の中にも素晴らしいゲームはあった。だが直接販売する仕組みが一切なかったのだ。当時、アプリストアは存在していなかった。“愛”は大切だが、タイミングも重要だ。
Rovioの強みとしては、もう1つ別の種類の“愛”もある。それは中毒性のある製品だ。ベスターバッカ氏は、ゲームの背後にある具体的な手法については答えなったが、同社のアプリには「中毒的な要素」が組み込まれていることを認めている。「ユーザーにゲームを続けさせるのは、罰ではなく報酬だ」(同氏)。中毒的な要素を組み込む目的は、プレーヤーの気分を良くすることだ。
聴衆の1人から、「Rovioは今やコンシューマーグッズにまで事業を拡大しているが、開発する製品をどのように決めているのか」と尋ねられ、ベスターバッカ氏は次のように答えている。「Angry Birdsのブランドから恩恵を受けるためには、コーヒーであれソフトドリンクであれ、その製品自体が素晴らしいものでなければならない」。この考えは、最後のアドバイスにつながっている。
5. 広い視野で考え、素早く行動する
ハリウッドの映画スタジオは、早くから映画のプロモーションのタイアップをRovioに打診していた。Rovioが初めてコラボレーションに挑戦したのは、2011年に公開されたアニメ映画「RIO」においてだ。Rovioが作ったのは、ゲームとして楽しめる広告だった。これを機に、「広告には何かしら内在する価値がなければならない」という考えを一気に確立した。
現在、モバイル端末の画面に割り当てられている広告予算は、テレビ広告の予算と比べるとごくわずかだ。だが「こうした状況も変わっていくはずだと考えている。テレビ用の広告をモバイルの画面に移植するのではなく、“何かしら価値のあるもの”を新たに作り出すことによってだ」とベスターバッカ氏は語る。
「不安に思うことは何か」との質問に対してベスターバッカ氏は、「十分に広い視野で考えず、十分に素早く行動できていないことを恐れている」と答える。当然、競争相手は山ほどいる。米Walt Disneyのような従来型企業から学ぶべきことも多い。Disneyは1匹のネズミからスタートし、それから85年がたった今もなお、ますます好調だ。
世界は急速に変化している。Rovioが自社のゲームの利用状況を分析した結果によると、米プロフットボールリーグ(NFL)の王者決定戦「スーパーボウル」の中継で、コマーシャル中にゲームをプレイする人が急増しているという。CEOであれば、ハーフタイムに自社のコマーシャルが流れるのを見てうれしくなるだろう。だがその間、多くの顧客はAngry Birdsをプレイしているというわけだ。
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