2010年08月26日 08時00分 UPDATE
特集/連載

ITを生かす中小企業の組織づくり【最終回】中小企業の“金縛り”のようなIT人材不足 解消の糸口は身近にあり?

中小企業にとってITスキルを持つ人材の確保は難しいとよくいわれる。これを何とかしなければシステム導入効果もおぼつかない。しかし、人材不足は経営者の思い込みによるところが大きいのだ。

[増岡直二郎,nao IT研究所]

 中小企業、特に企業規模が小さくなればなるほど、IT利活用に当たっての人材不足の悩みは大きい。それは、多くの調査統計や経営現場の実態に切実に表れている。人材不足の問題を解決せずにIT導入を進めても、所期効果を期待することは難しい。

 しかし、人材不足は回りが騒ぎ立てることもあって、ある意味夢うつつの中で「金縛り」に遭っているようなところがある。従って、存在し得ない不可解な力という思い込みから自らを解き放つ努力も必要なのではないか。冷静に対処すると、意外に身近な解決方法があるものだ。

「守り」のITに満足してしまう中小企業

 IT活用に関する問題点の幾つかの調査データで、毎年IT人材不足が上位を占めている(表1、2)。

表1 IT投資やITの活用における課題(対象:従業員300人以下、複数回答)
順位 課題
1 自社に適したIT人材が不足している 41.2
2 IT関係の設備投資に充てる初期投資コストの負担 33.7
3 社員のIT活用能力、ITリテラシーが不足している 32.4
4 IT投資の効果の算定が難しく、IT投資額の判断ができない 27.6
出典:三菱UFJリサーチコンサルティング「ITの活用に関するアンケート調査 2007年11月」

表2 情報システム運用上の課題(従業員規模別、複数回答、単位:%、合計上位3位まで)
課題 社内外で必要な能力を有する人材確保が困難 システムが分かる人が社内にいない(ブラックボックス化) 運用コスト増加
29人以下 71.9 53.1 15.6
30〜99人 58.3 45.0 30.0
100〜299人 58.6 40.0 25.7
300〜499人 54.4 30.9 35.3
500〜999人 57.9 27.6 43.4
1000人以上 50.7 27.4 50.7
合計 57.1 35.3 35.8
出典:JIPDEC「情報化白書2009」「企業IT利活用動向調査 2009年3月」

 従業員規模が小さいほど、人材確保が困難と回答しているが、その必要とする能力の内容が問題である。IT運用上必要とするスキルについての回答が表3だ。運用プロセスにおける人材不足が顕著で、中小企業の約半数がIT運用に不安を持っていることがうかがえる。

表3 必要とするスキル(複数回答)
スキル
ネットワーク事業 49.0
セキュリティスキル 41.6
社内の調整能力 35.9
外部との折衝能力 25.5
出典:「平成19年度中小企業IT利活用実態調査報告書」 財団法人JKA補助事業として実施

 しかし、中小企業が必要としているITスキル、IT人材の内容は、本当にその程度のものなのだろうか。IT投資効果とITテーマに関する今後の課題についての調査報告は、中小企業のITへの取り組みの現実をある程度示してくれる。

 表4ではIT効果について「守り」のテーマが多く、「攻め」の姿勢がほとんど見られない。同じく行われた調査にも表れているが、既に導入しているシステムが「財務会計」「人事・給与」など定型業務が多く、今後の重点投資対象システムとしても「グループウェア」「社内ポータル」「文書管理」などやはり定型アプリケーションが多く示されている。これらは全企業対象の調査であるが、企業規模が小さくなるほど「守り」の姿勢が強くなる傾向にある。

表4 IT投資効果で満足した経営課題/今後解決したい経営課題(複数回答、上位5位)
順位 満足している課題 今後解決したい課題
1 業務プロセスの効率化 51.0 災害やシステムダウンへ対応 47.7
2 社内コミュニケーションの強化 50.1 セキュリティや個人情報保護 44.2
3 セキュリティや個人情報保護 41.8 業務プロセスの効率化 40.7
4 機器・システム更新への対応 37.1 内部統制など法制度改正対応 38.5
5 OSなど基盤環境変化へ対応 30.2 営業力の強化 38.1
出典:JIPDEC「企業IT利活用動向調査 2009年3月」

 同じようにITの導入効果についてのとらえ方だが、中小企業を対象とした調査(表5)から、IT投資によって得られた効果の上位には、情報活用効率や社員スキル、職場活性化という学習面での効果が多く、一方で業務・顧客・業績などの面からの効果が少ないことが読み取れる。

表5 IT投資による効果(複数回答)
順位 得られた効果 上位5位 得られた効果 下位5位
1 社内の情報活用効率改善 78.8 他社と協業強化・効率化 29.0
2 作業効率・連携の向上 75.9 売り上げ拡大 26.5
3 社員のスキル向上 61.1 新規顧客開拓成功 24.3
4 既存顧客の満足度向上 49.8 調達単価引き下げ実現 16.3
5 職場の活性化につながった 48.7 顧客提案から新ビジネス 13.6
出典:経済産業省「平成18年度情報処理実態調査」(中小企業のみ)

業務とIT両方を知る人材育成が急務

 以上の諸データから、多くの中小企業がIT効果について「守り」や「目先の効果」に満足し、今後IT活用で解決したい経営課題も決して「攻め」や「経営戦略的」テーマではないことが分かる。中小企業でIT活用する場合の大きな課題の1つが人材不足であることは多くのデータに示されているが、IT活用で解決したいと考えている経営課題のレベルからよく考えてみると、要求している人材の質も推し測れる。逆にその程度のレベルの人材を確保しても、中小企業におけるIT活用は多くを期待できないということである。

 これを示す実例が幾つかある。従業員70人ほどの電子部品メーカーA社が、インターネットの時代だとしてそれに詳しい若者を採用し、同時にPCも数台導入した。その結果、社内外でメールが活発に使われるようになって、トップは「当社も先進メーカー入りした」と満足した。しかし連絡が便利になり、職場が一見活性化したようだが、それだけの話で、書類も会議も減らなければ、顧客満足も見られない。顧客・業務への効果は皆無だった。

 また、従業員30人ほどの家電品販売B社は、ソフトメーカーの勧めで、SFA(Sales Force Automation)ソフトをSaaS(Software as a Service)型で導入することにした。IT人材ゼロのB社にとって、ソフトメーカーから専門家1人を1年間常駐させるというのは、それだけ費用は掛かるが魅力的だった。しかし、業務日報、顧客商談進ちょく情報、顧客へ提供する商品情報などすべてのフォーマットをSFAソフトに合わせなければならなかった。そのための従業員の意識改革、業務の変更などが不十分なまま、導入はどんどん進められた。もちろんシステムが定着するはずはなかった。

 A、B社共にそもそもトップの考え方に問題があったのは言うまでもないが、その上いずれも業務に疎く、しかもIT導入の定石を無視した目先の「専門家」を重用しすぎた。

 中小・零細企業といえども、ITを活用したいと考えたときは、自社の何が問題で、何をどうしたいのか、そのためにITをどのように活用するのか十分に戦略を立て、そしてそれに適した人材を的確に求めなければならない。一般論に流されては、的を大きく外すことになる。では、人材をどのように手当てすべきか。

 IT人材育成については、筆者は過去並々ならぬ苦しみを味わった経験を持つだけに、筋金入りの考えを持っている。

 古い話で恐縮だが、ある大企業の量産主流工場で、筆者はコンピュータの過疎地である非量産部門を統括していた。情報システム部門(情シス)は、非量産部門に目もくれない。あるとき、筆者は独力で非量産部門にコンピュータを導入しようと決心した。幸い理解のあるトップを得て、当時最先端のクライアント/サーバシステムの投資が認可された。ただし、それからが大変だった。筆者は、前日まで現場を駆け回っていた事務員、進行係の工程員や倉庫員を、外部コンピュータ研修へ派遣した。残されたラインのスタッフたちは、彼らの業務の穴埋めを必死でやってくれた。研修を受けた者たちは、立派なSEへと育ち、それぞれの持ち場へ戻って中核の人材となった。ソフトのカスタマイズへも対応してくれた。システムは試行錯誤の末、見事稼働を始めた。

 もう1つ、人材育成の好例がある。こちらは、某中堅企業C社のD経理部長の大英断の話だ。ラインの人材と情報シスの人材とを大いにローテーションして教育すべきだとよく言われるが、実務にはいろいろ弊害があって、なかなか実行が伴わない。そこでD部長は断行した。情シスといっても昔とは違って役割も規模も小さくなっているが、C社でも5人ほどがネットワークシステムのメンテナンスと現場のバックアップをしている。このメンバーと経理・総務・資材部門の若手人材とを強引に毎年2人ずつ、2年間ローテーションをし始めたのだ。ラインからものすごいブーイングが起こったが、D部長は有無を言わせなかった。こうして各部門の若手ローテーションがほぼ一巡した現在、人材は大きく育った。情シスグループは業務を熟知し、ラインの若手はコンピュータやシステムに造詣が深まった。

 こういう零細企業の例もある。数人の外注業者を使う電気工事業者がCRM(顧客管理システム)を導入することにしたが、社長以下5人の社内にITスキルがある人材はいない。そこで取締役管理部長が自分でやるしかないと決心し、ソフトメーカーから派遣された駐在SEと組んでシステム導入を始めたが、50歳になる本人が一番苦しんだ。事務員も日常業務を投げられて大いに戸惑った。しかし、彼らの執念が実った。年配取締役はコンピュータを理解し、当初戸惑った事務員は1人で日常業務をこなせるようになった。そして、システムが稼働を始めた。

 ITの人材確保は難しいという思いは、思い込みにすぎない。人は、期待をかければ育ち、使い方次第で思わぬ力を発揮するものだ。そして、適材は得られるはずだ。それは、筆者が経験から得た強い信念である。

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

nao IT研究所 代表

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日立製作所・八木アンテナなどでの経営から、事業企画・製造・営業統括・情報システムなどの幅広い経験を生かし、経営コンサルティング・執筆・講演・大学非常勤講師などで活躍中。建前の議論を排し、現場に密着した本音の議論を身上とする。著書に『IT導入は企業を危うくする』(洋泉社)、『迫り来る受難時代を勝ち抜くSEの条件』(洋泉社)。



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