中堅・中小企業にもできるIT投資対効果の算出法とは?実践! 中堅・中小企業のための賢いIT投資【第1回】

長引く経済不況の中、中堅・中小企業にとって「そのIT投資は正しいか」を的確に判断するのはシビアで難しい。ヒト・モノ双方がかかわるITの投資対効果を測定・最大化する手法をひもといていこう。

2009年10月02日 08時00分 公開
[岩上由高,ノークリサーチ]

 厳しい経済状況が続く中、IT投資に割くことのできる予算は非常に限られている。「IT投資」という言葉自体に拒否反応を示す経営者も少なくないだろう。こうした状況では、即効性のあるコスト削減に頼ってしまいがちだ。だが、性急かつ場当たり的なコスト削減策は、業務効率の低下や将来のビジネス展開の芽を摘むことにもなりかねない。

 一方、中堅・中小企業(SMB)投資対効果(ROI)を測るのが苦手といわれている。一般的に「モノ」の購入コストは目に見えやすいが、「ヒト」が絡む人的コストは把握が難しい。今抱えているIT資産の運用に苦慮している状態で、そうしたふかん的な視点でコストを把握し、本当に実効性のあるIT投資判断を行うことは容易ではない。

 本連載ではそうした状況を踏まえ、専門的な知識や難しい数式を用いることなく、SMBがIT活用の投資対効果を最大化するためのポイントについて、数回にわたって解説していくことにする。

今後の連載予定(テーマ)


・第1回:投資対効果とは何か?

IT投資の効果を正確に測ることは大変難しく、数多くの要素を網羅した計算式が登場してくることも多い。そうした緻密な計算をする前に、まず把握しておくべき基本的な考え方について、具体例を挙げながら解説する。


・第2回:中堅・中小企業向け支援制度を活用しよう

「IT基盤強化税制」などSMB向けには政府によって実施されるさまざまな施策がある。こうした支援策を知っているのと知らないのとでは、コスト面で大きな差が付くこともある。こうした支援制度を活用する際のポイントや留意点を解説する。


・第3回:ハードウェア購入で役立つレンタル/リースの知識

レンタルやリースは、初期費用や償却負担を軽減する手法として有効なサービス。法制度の改定などでリースを使いづらくなった面もあるが、ベンダー側もさまざまな工夫を凝らしている。レンタルとリースの基本事項について解説した後、各ベンダーの具体的な施策も交えつつレンタル/リース活用のポイントを解説する。


・第4回:SaaSと自社内運用、本当に得なのはどっち?

SaaS(Software as a Service)は中堅・中小企業のIT活用に適しているといわれる。その一方で、自社内運用と比較してあまりメリットが感じられないという意見も聞かれる。そこで、IT投資効果の観点からどのような場合にSaaSを活用すべきなのかについて具体的に解説する。


 連載初回となる今回は「そもそも投資対効果とは何か?」について取り上げたい。

常に自社の現状や業務内容を念頭に置く

 投資対効果を測る方法には、投資資金回収に必要な期間を指標とした「ペイバック法」や、基準となる事例(ベストプラクティス)との比較で評価を行う「ベンチマーキング」などさまざまなものがある。こうした手法は、数量的な判断を下す際には大変役に立つ。しかし、評価基準の算出ばかりに気を取られ、業務の実態を忘れてしまうと思わぬ落とし穴にはまることがある。

 例えば、ITベンダーから「メールアプリケーションを刷新すれば、不要メールの削除やメール検索のために費やした時間が節約され、その分社員の残業代が節約できます」というアピールがあったとする。これに従いコスト削減効果を算出したところ、社員1人当たりの業務時間が1日30分平均で短縮され、コスト削減効果が年間1000万円とはじき出されたとしよう。この試算に従えば、新規メールシステムに500万円の投資をしたとしても投資対効果は十分得られることになる。

 しかし、1日当たり30分の余裕ができた社員はその時間で何をするだろうか? その分、売り上げ向上に寄与する業務に励むのか、それともいつもより30分早く退社するのだろうか。あるいは、残業代がなくなると困るという理由で、のんびり仕事をする社員はいないだろうか。「1日30分の余裕」がプラスに働くのは、「社員は無駄な残業をせず、生産的な業務に励みたいと考えている」という業態や風土があることが大前提なのだ。

 このように、本当に意味のある投資対効果を検討する上では、自社の現状や業務内容を想定しながら具体的に考えるということが不可欠だ。そこで、以下では基本的なスキームを整理した上で、この「自社の現状や業務内容を想定しながら」という部分について、具体例を交えながら詳しく見ていこう。

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