教育IT開設記念 iTeachers座談会【後編】
タブレット授業のプロが明かす、学校のIT活用を阻むハードルとは?
学校などの教育機関がIT活用を進める上で、ハードルとなり得るのは何か。教育現場へのIT活用を実践する教育者チーム「iTeachers」の3者による議論から明らかにする。
中編「タブレット授業のプロが議論、『反転授業』『MOOC』の光と影」では、教育IT分野で注目度が高まりつつある「反転授業」と「MOOC」という2つのキーワードの可能性と課題を明らかにした。最終回となる今回は中編に引き続き、教育現場へのIT活用を実践する教育者チーム「iTeachers」の3者が、教育機関がIT活用を推進していく上で考慮すべき点について議論する。
メンバー
参加者(50音順)
岩居弘樹氏 大阪大学 全学教育推進機構 教授
金子 暁氏 広尾学園 中学校・高等学校 教務開発部 統括部長
小池幸司氏 俊英館 マーケティング部 部長
モデレーター
編集部
―― 教育機関がIT製品を生かすためには、IT製品のメリットや最新動向を理解するだけでなく、現状の問題も把握しておく必要があると考えています。教育機関がIT活用を進めるに当たり、考慮すべきこととは何でしょうか。
金子氏 国内の教育機関の今までの取り組みを振り返ると、取りあえず仕組みだけ整える、というパターンが多いのが気掛かりです。例えば、「次は反転授業だ」という流れになると一気に反転授業に飛びつき、別のテーマが注目されると、そちらに移る。とにかく揺れ動きやすいのです。これでは何にも根付きません。保守的であるよりもチャレンジングである方が良いとは思いますが……。
岩居氏 新しい仕組みを取り入れるのは良いことです。ただ、教員が自分の授業方法を変えようとしなければ、せっかく導入したIT製品を生かすことができない可能性があります。教員によっては、授業方法を工夫することなく、「新しいものは使い物にならない」と決め付けてしまう人もいるかもしれません。
教員の姿勢だけに問題があるのではありません。IT製品の配備の仕方にも考慮が必要なのではないかと考えています。IT製品の導入過程では、授業方法とのマッチングは基本的にしないのが現状だからです。
例えば、あるタブレットを本気で活用しようと思ったら、そのタブレットの特性をきちんと知って、どういったシーンで使ったら効果的かを考えますよね。でも現状のIT製品導入では、タブレットも電子教材も組み合わせたパッケージとして教員に渡されることも少なくない。導入に当たって、教員1人ひとりの授業方法は考慮されないのです。
―― 教員の授業方法に配慮しないまま強引にIT製品を導入しても、結果的に使われなくなる。
金子氏 CALL(コンピュータ支援語学学習)教室やパソコン教室など、なかなか活用が進まない設備は、こうした状況が生み出した“遺物”だといえるかもしれません。
岩居氏 教員が忙し過ぎることも、IT活用を阻む原因になると考えられます。IT活用に専念できるのであれば、積極的に取り組む教員は多いと思います。ただ実際は、取り組みに付随する“お役所仕事”や申請作業などがそれなりにあるので、IT活用だけに専念できないのです。
「ICT支援員」に本来の仕事を
―― 自治体や学校の中には、「ICT支援員」をはじめ、教員のIT活用を支援するスタッフを雇用するところも少なくありません。こうしたスタッフの存在が、現状を打破する力にはならないのでしょうか。
岩居氏 ICT支援員と教員との現在の関係を考えると、ICT支援員は十分に能力を発揮し難いのではないかと考えています。本来であれば、ICT支援員をはじめとするITやインストラクショナルデザイン(教育の効果や効率を高める方法論)の専門家は、教員がアドバイスを求める立場にいてしかるべきなのですが、現状ではそうはなっていない。
小池氏 雇用形態にも課題があります。ICT支援員は、臨時雇用などの短期雇用である場合が多い。予算の期間が終わったら雇用契約を解除する、といった例も少なくないと聞きます。
岩居氏 ICT支援員は本来、「プロジェクターの画面が写らない」といったトラブルの解決をサポートするだけの存在ではないんですよ。能力を発揮できていないとすれば、本当にもったいないと思います。人事制度や人材育成まで含めて真剣に考えないと、現状がずっと続いてしまうのではないかと危惧しています。
柔軟性を犠牲にした「デジタル教科書」の進化
―― ITの導入や活用を進める際は、ITそのものだけでなく、それを扱う“人”にもっと目を向ける必要がありそうです。それ以外にも、現状のITやその活用で懸念すべきことはありますか。
岩居氏 IT化を進める上で重要になるのは、柔軟性の確保ではないでしょうか。パッケージとして提供されるIT製品もそうだし、校務システムにしても、授業支援システムにしても、定められた使い方でしか使えないことが多い。使いたいときに使いたい機能だけを使う、といったことがし難いのです。
「この場面でこんな映像を見せたい」「ここであの写真を示そう」といったように、教員はそれぞれに思いや考えがあって、それに基づいて授業を進める。思いや考えを反映できない授業は、する側も受ける側も面白くないですよ。
小池氏 現状のデジタル教科書は、十分な柔軟性が確保されていないのではないか、と考えています。「テストも採点もできて、解答履歴も取得できて、動画も見ることができて、これさえあれば全部分かる」といったようなデジタル教科書もある。これだと、まるで「こう教えなさい」といわれているかのように、そのデジタル教科書の教え方に沿って教えることを強いられてしまいかねない。
誰も教えなくても理解できるのが、“究極”のデジタル教科書なのでしょうか?
岩居氏 それはデジタル教科書じゃなくて、“デジタル教員”ですよ(笑)。
デジタル教科書も、ベースとなる内容は紙の教科書と同じでいいのだと思います。そこに何を付加するかの選択権を、教員あるいは保護者の手に欲しい。実験などの動画がデジタル教科書の中にある必要性もありません。YouTubeなどの動画共有サイトを見れば、そんな動画は既にあるのですから。アーカイブのように動画がたくさん並んでいて、「使いたい」と思った動画をすぐに使えるような仕組みがあれば理想的です。
小池氏 デジタル教科書は、図版や文章などの著作権をクリアしていて、プロジェクターや電子黒板に問題なく映し出せるようになっているだけで十分だと考えています。
「標準化」への極度のこだわりが変革を阻む
小池氏 IT活用を進める上で、授業の質の向上を目指すことはもちろん重要です。一方で、「標準化」の視点も無視できません。
ITを使ってあまりにも飛び抜けた教え方をする教員が出てくると、「それはいけない」と考える人がきっと出てくる。「隣のクラスの先生は、すごく優れた素晴しい授業をしている。その先生の授業を受けられないのは不公平ではないか」といった声が出てくる可能性が否定できないからです。より上を目指そうとする教員がいても、「標準化はどうするのか」といった議論で引き戻されてしまう可能性がある。
岩居氏 最低限の標準化は必要です。いろいろな考え方があると思いますが、少なくともIT製品レベルで、「OSが違うと何もできない」といった状況は避けるべきです。そこから先は、学習者のレベルなどを考慮しつつ、教員の個性をもっといろいろな形で反映できた方がよいのではないでしょうか。
小池氏 評価軸が学力向上などに偏っていると、教員はどうしてもその評価軸に合わせて学習者を指導せざるを得ない。評価軸や評価の仕組みがいろいろと出てくれば、全てを標準化する必要性は薄れると考えています。
岩居氏 そのためには、社会が変わらないといけない。
小池氏 結局、企業がどこの学生を取り、大学がどういう生徒を取るかといった、義務教育や高校よりも“上”の状況が大きな影響を持つことになるのだと思います。
金子氏 オーストラリアなど海外の教育現場を経験している人から、「日本人は大学に対して強い妄想がある」と指摘されたことがあります。「いい大学に行かなければどうするんだ」という、ものすごく巨大な妄想に取り付かれている、というのです。
「そこまでして勉強する気はない」「勉強よりもスポーツの方が得意だ」といった生徒もいるはずなのに、進路が全て大学になってしまっている。その人いわく、こうした状況は「海外では考えられない」のだそうです。
経済成長などの一連の流れの中で、こうした現在の形に落ち着いてきてしまったのでしょう。でも、このままではいけない。現実を踏まえた改革が必要になるはずです。
小池氏 現在進行中の大学入学改革は、やり方はどうあれ、変える動きが出てきていることは評価すべきことです。この動きが本格化すれば、企業も採用の在り方を変えるだろうし、ひいては高校で教える内容も、高校入試も変わる。上から変わっていかないと、大きな変化は起こせません。そうしないと、ITの活用に熱心な教員など、“少数派”が不当にたたかれる現状は変えられないと思います。
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