ガートナーイベントリポート(前編)
医療情報学のスペシャリストが語る、医療ITの将来像
ガートナージャパンが2014年4月に開催したイベントで、医療ITを推進するキーパーソンである宮本正喜氏が医療情報システムの変遷や将来像を語った。
ガートナージャパンが2014年4月23~25日に開催した「ITインフラストラクチャ&データセンター サミット 2014」。4月24日のゲスト基調講演には、医療情報学に詳しい兵庫医科大学の宮本正喜 主任教授が登壇した。「医療における過去、現在、未来の夢」と題したこの講演では、これまで取り組んできた医療情報システムの開発や医療ITの将来像などを語った。今回から2回にわたり、講演の内容を紹介する。
宮本氏は大学の工学部出身でロボット工学などに携わり、そうした技術を医療分野でも活用できればと医学部に進学した経歴を持つ。また、医療とITの両分野に詳しい人材として、研修医時代の1980年代から医療情報システムの開発にも長年取り組んできた。同氏は、2013年11月に開催された「第33回医療情報学連合大会」(第14回日本医療情報学会学術大会)の大会委員長を務めている。
医療情報システムの変遷を解説
宮本氏によると、1980年代から導入が進んだ医事会計システム(レセプトコンピュータ)や各種検査・処方システム、オーダリングシステムなどの医療情報システムは、以下のような問題を解決したという。
- 患者の待ち時間の解消、医療従事者の業務の効率化:システム導入前は患者自身が持ち歩いた各種伝票を担当部署が処理するため、医師の診断や検査、処方、会計など診察フローにおいて患者の待ち行列ができていた。医師の各種指示をコンピュータに入力すると同時に、それらのデータが医事会計システムにも連動できるようになった
- 会計処理の迅速化や人的コストの軽減:専門的なスキルを持つ医事スタッフが会計処理を行っていたが、その育成やトレーニングに時間がかかるなど人的コストが膨れ上がっていた。システム導入によって、専門的なスキルがなくても会計処理が可能となり、経済的なメリットをもたらした
また、上記システム導入による医療機関の経済的なメリットに加えて、診療の精度の向上を目的として、電子カルテシステムやPACS(医用画像管理システム)が導入されてきたと解説する。
電子カルテの変遷
1990年代前半から電子カルテ(診療録の電子化)システムの開発を試みてきた宮本氏は、「ネットワーク帯域幅や速度、クライアント端末の処理性能といったインフラの制限もあり、当初はシステムがなかなかうまく動かなかった」と振り返る。
例えば、同氏が第1世代と位置付ける電子カルテ(1992年当時)は、スター型LANのネットワーク構成を採用し、経過記録も文字によるSOAP(Subjective Objective Assessment Plan)入力が中心だったという。また、第2世代(1994年当時)の電子カルテでは、TCP/IP通信によって液晶タブレット型クライアント端末を採用。オーダーメニューの表示など、各種オーダーの入力を可能にした。
第3世代(1997年当時)の電子カルテでは医用画像機器(モダリティ)と連携することで、カルテ情報とオーダー情報、画像情報を統合し、電子カルテ画面から各種画像データを参照できるようになったという。また、電子カルテの入力支援機能を搭載。入力テンプレートの採用、診療情報提供書などの各種文書の電子入力が可能になった。
PACSの進化
また、宮本氏はPACSの変遷も解説した。1988年に北海道大学病院で初めて導入された第1世代のPACSは「独自の専用OSを採用したスタンドアロン構成で、まだフィルムに取って代わるような存在ではなかった。主に過疎地医療をサポートする遠隔画像システムの実証実験などの用途で使われていた」という。
その後、1993年にACR(米国放射線学会)と(北米電気機器工業会)が制定したデジタル医用画像の標準規格「DICOM3.0」によって標準化が進み、1996年に厚生省(当時)が「診療録等の電子媒体による保存について」を出したことでPACSの普及が進む。1990年代の第2世代PACSでは、クライアント/サーバ方式を採用し、直近のデータをSTS(ショートタームストレージ)から取得し、古いデータや今すぐに必要ではないデータをLTSLTS(ロングタームストレージ)に格納する2階層の構成を取ることが一般的だった。「ただ、LTSのデータはネットワーク性能の制限があり、アクセスに時間がかかっていた」(宮本氏)
第3世代(2000年)のPACSでは、保存容量が増えたSTSに全てのデータを蓄積し、LTSはバックアップ専用という形態に変化。クライアント/サーバ方式に加えて、Webブラウザによる参照機能などを組み合わせる製品が多く登場した。
宮本氏は「現在はモバイルコンピューティングの時代。手術室にiPadを持ち込み、画像を参照しながら手術が行えるようになった。また、院外からでも検査画像データを参照できるシステムが登場したことで、関係者間での情報共有が容易になった。例えば、院外にいる専門医が画像を見ながら、夜間の当直医に適切な処置を指示できる」と説明する。
医者いらずの診療システムも可能?
宮本氏は、電子カルテを中心とする医療情報システムの将来像のイメージを示した(図1)。
問診内容や各種検査データを電子カルテに集約して、人工知能(AI)を備えた「エキスパートシステム」が過去の症例・診療行為などの分析結果を基に該当分野の専門医と同等の判断を行い、治療までを自動化するという仕組みだ。「医者いらずの診療システムも実現可能かもしれない。ただ、エキスパートシステムは推測能力は優れているが、推測できないような新しい高度な知見や洞察を導き出す第六感(勘)が働くとはいえない。完全に人間から分離したシステムは難しいだろう」と説明する。
後編では、今後の医療ITの進展のキーワードとなる「クラウド」「ビッグデータ」「ユビキタス」「ロボティック医療」に関する内容を紹介する。
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