“炎上”“風評”が変える企業のリスク管理【第3回】
“野々村事件”を企業が見過ごしてはいけない理由
元兵庫県議会議員の“号泣会見”がインターネットで引き起こした大規模な拡散は、企業にとっても他人ごとではない。若者の間で広がる倫理観や道徳観の変化も踏まえ、企業が拡散に対峙すべき理由と対策を整理する。
政務活動費の不自然な支出を問われた元兵庫県議会議員、野々村 竜太郎氏が2014年7月1日に開いた記者会見が話題になりました。同議員の“号泣”で、国内だけでなく海外でも話題となったこの会見。SNSの「Facebook」「Twitter」を含むさまざまなインターネットサービスでも、会見の画像がすぐさま拡散し、多くの人の知るところとなりました。
一地方議会の出来事でありながら、すぐさま全国的に知られるようになった“野々村事件”。その背景をひも解くと、企業にとっても見過ごせない事件であることが分かります。拡散の標的となるのは議員などの有名人だけではありません。従業員や経営陣の不祥事や不用意な行動が、インターネットで不本意に拡散してしまう可能性も否定できないからです。
インターネットの日常となった拡散に、企業はどう向き合えばよいのでしょうか。野々村事件を参考に、企業が学び取るべき教訓を見ていきましょう。
連載:“炎上”“風評”が変える企業のリスク管理
“号泣会見”が急速に広まった理由
まず、野々村事件のような急速かつ広範な拡散が発生する理由を考えてみましょう。連載で度々紹介してきた通り、スマートフォンやソーシャルメディアの普及が大きな影響を与えていることはいうまでもありません。
通勤電車の中や食事中など、四六時中スマートフォンでインターネットにある情報に触れている人は多いのではないでしょうか。テレビをはじめとする既存メディアと比べて、早くて新鮮で、かつフィルタが掛かっていない“生”の情報が手軽に得られる状況になりました。日本国内のみならず、世界中の情報に触れるハードルも低くなっています。
もう1つ忘れてはならないのが、インターネットで積極的に情報を共有する人の存在です。誰かにお金をもらったり、命令されているわけではありません。彼ら彼女らが自主性を持ち、個人として行動しているのです。
こうした人は、「面白い」と感じた情報が世の中に出てくるとすぐ、面白さと分かりやすさを重視した形に編集し、一種のエンターテインメントとしてインターネットで共有します。一度共有したニュースや情報は、やはり別の人によって面白さや分かりやすさを重視して加工されて広がり、その繰り返しを経て拡散していきます。
面白く、分かりやすく加工されてインターネットで拡散した情報が、テレビなどで再度取り上げられる。その情報を受け取った人が、さらに面白く、分かりやすく加工して拡散させていく――。こうしたサイクルが出来上がっているのです。拡散された情報は、文脈から切り離され、断片のみが伝わることもしばしばです。
企業も対処が急務
野々村事件では、公的な立場にある議員が起こした不祥事という「批判の種」と、号泣会見の「面白さ」が、大規模な拡散を招く原動力となったと考えることができます。結果として野々村氏は議員辞職に追い込まれましたが、兵庫県の他の議員や議会全体へのイメージにも少なからずダメージを与えたとすれば、影響は野々村氏個人にとどまらないといえます。
企業でも、従業員が批判の種となるような不祥事や不用意な言動をして、かつそれに関連してインターネットユーザーが「面白い」と感じることをすれば、インターネットを通じて拡散する可能性は否定できません。結果として企業や自社製品のイメージにダメージを与えてしまう恐れがあると考えると、決して見過ごせない問題だといえます。
従業員の多くがスマートデバイスやソーシャルメディアを活用する現在、企業の広報だけが外部へ発信する情報に留意をしていればよい、という考え方は通用しなくなってきました。自社や製品にとって大きなダメージとなる拡散には、組織として責任を持って対処する必要があります。全従業員に、拡散を防ぐための知識を身につけてもらうことが不可欠です。
Twitterへ投稿した1枚の写真が、新聞の1面やゴールデンタイムのニュースに流れることも珍しくなくなりました。たった1枚の写真がきっかけで、拡散のサイクルがまわり始めることもあり得る、と考えるべきでしょう。
企業は野々村事件から何を学ぶべきか
野々村事件のような拡散から学べることは、企業はソーシャルメディアをはじめとするインターネットから生まれた「新しい倫理観や道徳観」を理解し、拡散による実害を防がなければならない、ということです。
ソーシャルメディアとスマートフォンによって、従来の倫理感や道徳感が通用しないケースが増えつつあります。こうした変化は、ソーシャルメディアに常に触れている若者を中心にして起きています。
自分の裸などを撮影して他人に送る。ちょっとした好奇心で公開する――。少し前なら起こらなかったこうしたことが、実際に相当数起こっています。そこには、「他人に見せるのは恥ずかしい」といった「昔の倫理観や道徳観」は欠如しているようにも見えます。
カメラ機能を備えたスマートデバイスが常に手元にあったり、データの手軽なやりとりに慣れてしまい、公開してもすぐに消せる。こうした日常に慣れた人が増えていることが、倫理観や道徳観の変化の背景にあると考えることもできます。
若い従業員の全てが、従来の倫理観や道徳観を捨ててしまったわけではありません。ただし、こうした新しい倫理観や価値観を持つ従業員が1人でもいれば、拡散の発生や、それによる企業への影響が出る可能性はゼロとは言い切れないのです。
企業はまず、こうした変化を否定せずに認識することから始めるべきです。そのヒントとなる「ソーシャルメディアリスクセミナー」は、イー・ガーディアンをはじめとするさまざまな事業者や団体が提供しています。変化を認識した上で、従業員が取るべき行動について明確な指針を作成することが必要になると考えられます。
執筆者紹介
中川祥太(なかがわ しょうた) イー・ガーディアン株式会社
2012年、イー・ガーディアンにソーシャルサポートユニット営業として入社。顧客の依頼に基づくソーシャルメディアの監視、運用業務を主に担当している。企業でのソーシャルメディアポリシーの作成から炎上対策の体制構築、炎上時の緊急対応まで、さまざまな業務経験を持つ。2013年夏の第23回参議院議員通常選挙の際には、警視庁サイバー犯罪対策課、東京都選挙管理委員会などで「ソーシャルメディアにおけるリスク」のセミナーなどを開催した。複数のテレビ番組にソーシャルリスク専門家として出演。
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