“炎上”“風評”が変える企業のリスク管理【第1回】
企業が「リベンジポルノ」を軽視してはいけない理由
別れた恋人の恥ずかしい画像などをWebで公開する「リベンジポルノ」。企業には関係ないと問題だと考えていたら大きな誤解だ。リベンジポルノなどのソーシャルメディアのリスクに企業が対処すべき理由を説明する。
破局した恋人の裸や性的な写真、動画をインターネットで拡散させ、破局の“リベンジ”を果たす――。そんな嫌がらせ行為である「リベンジポルノ」が、2013年ごろから広く知られるようになりました。東京・三鷹市で発生したストーカー殺人事件がその発端です。
三鷹のストーカー殺人事件で加害者は、ソーシャルメディアの「Facebook」を通し、被害者となる高等学校の女子生徒と知り合って恋愛関係に発展しました。被害者の女子高生は加害者を信用し、言われるがままに自分の裸の写真を送っていたようです。
ところが1年の交際後に2人は破局。加害者は破局後、復縁を断られた腹いせに、被害者を刺殺するだけでなく、海外の動画・画像投稿サイトに被害者の裸の画像や動画を大量にアップロードしました。
「裸の写真を送ったりせがむような従業員はいるはずがないし、いたとしても会社には関係のないことだ」。こう考えている人は多いのではないでしょうか。女子高校生や若い女性が対象になる傾向があるからか、リベンジポルノは個人の問題だと捕えられることが多いのが現状です。
しかし、こう考えてみたらどうでしょうか。この女子高生の親が会社員で、加害者の親も会社員。そのどちらかまたは双方が、自社の従業員だったとしたら――。リベンジポルノに代表されるソーシャルメディアの問題は、企業にとって決して“人ごと”ではないのです。この機会に、ソーシャルメディアの問題が企業に与える影響と、その解決策を考えていきましょう。
連載:“炎上”“風評”が変える企業のリスク管理
SNSの普及がリベンジポルノの温床に
ソーシャルメディアやスマートデバイスの普及に伴い、従業員が個人のソーシャルメディアアカウントを持つ動きが目立つようになりました。生まれたときからIT製品に慣れ親しんだ「デジタルネイティブ」世代の中には、情報公開に関する意識的なハードルが低く、個人情報をためらいなく開示している人も少なくありません。誰もがリベンジポルノなどソーシャルメディアを使った犯罪や迷惑行為の被害者/加害者になり得る環境が、既に整っているのです。
自社の従業員が、リベンジポルノの被害に遭ってしまったらどうなるでしょうか。ソーシャルメディアに載った恥ずかしい画像が他の人に見られてしまった従業員は、心に深い傷を負い、会社を辞めてしまうかもしれません。
米国では、リベンジポルノの被害に遭い、200サイト以上に画像が投稿された女性の例があります。その被害女性は、警察や弁護士に相談したものの、いったんインターネットに拡散した画像を完全に消し去ることはできませんでした。最終的には、自分の本名を変更する事態に陥ったとのことです。
従業員やその近親者がソーシャルメディアでリベンジポルノなどの被害に遭ったり、また加害者になることは、全ての企業に起こり得ます。いずれの場合でも、以下の事象が発生する可能性があることを意識すべきです。
- 刑事事件化する
- ニュースや記事として報道される
- インターネットで“炎上”する
- 被害者や加害者となった従業員が退職する
特に刑事事件化やニュース報道は、会社としては大きな痛手となります。痴漢犯罪などとは比べものにならないほどに、早い段階で広範囲に情報が拡散する可能性が高く、人事や広報の担当者だけで十分に対処するのは難しいといえます。
実際、イー・ガーディアンが企業の風評調査業務をしていると、リベンジポルノなどの被害につながりかねない火種がそこかしこに見つかります。例えば、高校生ぐらいの少女が、アルバイト先の制服を着た写真をTwitterに投稿していることは珍しくありません。こうした“日常的”ともいえる行為でも、あるユーザーがその少女のアカウントをフォローして、過去の投稿内容やフォロワーとのやりとりを見れば、誰と付き合っているか、どこに住んでいるかといった情報を調べ上げることができてしまうのです。
例えば、自社の従業員がリベンジポルノに巻き込まれてしまった場合、「2ちゃんねる」などの掲示板サイトや口コミサイトでは、従業員の写真や個人情報が自社の名前を添えて拡散していきます。実際に、過去のリベンジポルノの被害者や加害者は、個人情報、会社名、学校名、アルバイト先といった多くの個人情報がインターネットユーザーに特定されて炎上しています。
表沙汰になる事件は氷山の一角
上述の通り、「リベンジポルノ」という言葉が国内で認知されたのはここ1年ほどのことですが、ソーシャルメディアでの「アダルト画像」や「個人情報の晒し」、つまりリベンジポルノの火種となる画像、動画は以前からありました。こうした画像や動画の多くは、周知される前にイー・ガーディアンをはじめとする企業や組織が対策を打つために表沙汰にはなりにくいですが、実際は想像以上に多く存在しています。
例えば、イー・ガーディアンでは1日100万件近いソーシャルメディアの投稿を監視していますが、そのうち公序良俗に反する画像(NG画像)の数は、投稿全体の0.1%程度です。ただし、ある匿名のソーシャルメディア内でやりとりされるNG画像の8割は、自分自身の裸などを撮影した“自撮り”によるアダルト画像となっています。それだけリベンジポルノの火種があるということです。
社会の取り組み
ソーシャルメディアのリスクについて国も手をこまねいているわけではありません。2014年2月には、自由民主党が「リベンジポルノ問題に関する特命委員会」を設置し、法改正に向けて議論を始めました。
現状では、警察が個別の事案ごとに、18歳未満の加害者には「児童買春・児童ポルノ禁止法」、成人に対しては「名誉棄損」、社会における国民の秩序を害したとして「わいせつ物公然陳列罪」といった法律を適用して対処しています。ただし現状は、拡散してしまった画像や動画の削除をプロバイダーに求め、被害者の権利を保護するための法案は整っていません。
警察への通報件数を見ると、リベンジポルノを含むインターネットでのわいせつ物公然陳列の通報件数は年々増え続けています。最新のデータである2012年は2万7334件と、3万件に迫る勢いにあり、一刻も早く対処すべき問題だといえます。
一方、インターネットの規制を強めることに対しては、表現の自由にも深く関わるために慎重な意見も見られます。例えば、リベンジポルノの火種となる画像を全て削除するとなると、ユーザーの創作意欲や投稿意欲を失ってしまう可能性があるという見方があります。
リベンジポルノなどのソーシャルメディアでの問題に対する法整備が一日も早く進むことが望ましいですが、現時点でもその脅威がある以上、自社や従業員を守るために何らかの対策を取る必要があります。
企業がなすべき対策とは
ソーシャルメディアでの被害から従業員を守るために企業がまずすべきことは、ソーシャルメディアの危険性に関する社内の啓蒙活動です。企業の意識の高まりからか、イー・ガーディアンにも企業からのソーシャルメディアリスク研修の依頼が増加し続けています。実は3年前の2011年ごろまでは、こうした研修依頼は皆無でした。
例えば、リベンジポルノについて企業がなすべき極めて基本的な対策としては、以下が挙げられます。
- 事例を基にリベンジポルノの怖さを従業員に紹介する
- そもそも裸などの写真を撮ったり撮らせないよう従業員を教育する
- ソーシャルメディアに関するルールは、会社ではなく従業員個人を守るための取り組みだということを従業員にしっかりと伝える
その上で、定期的に自社の社名や従業員の氏名などで検索する「ネットパトロール」も有効な対策となります。スタッフの確保ができないなど、自社で継続的にネットパトロールをするのが難しい場合、イー・ガーディアンなどが提供する「ネットパトロールサービス」を利用するという選択肢もあります。
どの企業も当事者になり得ると認識すべき
リベンジポルノなどのソーシャルメディアでの犯罪や迷惑行為には、あらゆる人、あらゆる企業が絡む可能性があります。企業はその事実を明確に把握し、常に予防策や対策を打っていく必要があります。従業員向けのソーシャルメディア利用のガイドラインを作成するなど、ソーシャルメディアのリスク対策が抜かりなくできているかどうか、あらためて確認してみてはいかがでしょうか。
執筆者紹介
中川祥太(なかがわ しょうた) イー・ガーディアン株式会社
2012年、イー・ガーディアンにソーシャルサポートユニット営業として入社。顧客の依頼に基づくソーシャルメディアの監視、運用業務を主に担当している。企業でのソーシャルメディアポリシーの作成から炎上対策の体制構築、炎上時の緊急対応まで、さまざまな業務経験を持つ。2013年夏の第23回参議院議員通常選挙の際には、警視庁サイバー犯罪対策課、東京都選挙管理委員会などで「ソーシャルメディアにおけるリスク」のセミナーなどを開催した。複数のテレビ番組にソーシャルリスク専門家として出演。
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