ベンチマークテストでうまくいくネットワーク機器選び【第4回】
意外と見落とされがちな「レイテンシ」、押さえておきたい3つのポイント
ベンチマークテストで測定したスイッチのスループットの結果は時としてベンダーの公表値と一致しないことがあることが分かった。今回はレイテンシにフォーカスしてみよう。
前回までの説明で、スイッチが持つスループットとは、スイッチが1秒間に転送処理できるフレーム/パケットの個数であることを述べた。fps(frame per second)やpps(packet per second)で表される数値だ。この数値が大きいほど、スイッチはフレームやパケットを高速に転送できる(以下、特にフレームとパケットを明確に使い分ける必要がないときは、まとめてパケットと表す)。
1秒当たりなるべく多くのパケットを転送するのと同時に、スイッチに期待されるもう1つの重要な役割が、なるべく速くパケットを次の宛先へ転送することだ。この「なるべく速く」の程度を測定した結果が「レイテンシ」である。レイテンシ別の言葉で言うならばスイッチがパケットを1個転送するのにかかる処理時間だといえる。
連載:ベンチマークテストでうまくいくネットワーク機器選び
レイテンシの差がビジネスの結果を左右する
「なるべく多く」と「なるべく速く」は一見同じことを指しているようだが、スイッチがパケットを処理する過程においては分けて考える必要がある。なるべく速く処理すれば、より多くのパケットを転送処理できるように思える。だが「なるべく多く」の上限値は、スイッチ内部の転送処理方法によって決まることがあるのだ。
近年、このレイテンシの値が非常に小さく、10Gビットイーサネット(10GbE)のインタフェース使用時で数百ナノ秒(ns)程度を特徴とするハイエンドスイッチが登場している。これは、さまざまなデータがネットワークを介してますますやりとりされる中で、レイテンシの差がビジネスの結果を大きく左右する時代が来ている証しである。代表的なアプリケーションが金融機関の高頻度取引だろう。もちろん、その他のユーザー企業が使うネットワークであっても、つながって当たり前かつ高速で当たり前になっており、サービスプロバイダー泣かせの時代になっているといえる。
スイッチを選定する際には価格やポート数、スループットは比較的気を付けることが多いが、レイテンシまで意識して製品を選定することは少ないかもしれない。ここでは、筆者が従事している@benchmarkで作成しているベンチマークテストリポートの一部を抜粋しながら、レイテンシの評価方法とリポートの読み方を説明する。
レイテンシテスト
今回は、試験対象装置(DUT: Device Under Test)に負荷を掛けた状態でのレイテンシテストを行った。入力するトラフィック負荷は先に測定したスループットを用いた。テスト時間は60秒とし、レイテンシ測定モードはFIFO(詳細は後述)を用いた。
このベンチマークテストリポートを読む上で、大事なポイントを3つ挙げる。
1.負荷を掛けた状態でレイテンシテストを行うことに意味がある
パケット1個だけを処理するときのレイテンシとスループットテストを行っているときのレイテンシは大きく異なる場合がある。
スイッチにとってパケット処理に忙しいときの転送処理時間こそ実際の利用シーンで効いてくる数値なので、スイッチがパケットロスなしで転送できる最大の転送レート(=スループット)でのレイテンシ測定が重要となる。
テスト結果にはMin(最小値)、Avg(平均値)、Max(最大値)がそれぞれ記載されている。レイテンシを見る際にはスループットテスト時の結果かどうか必ず確認してほしい。
2.テスト時間をあらかじめ決めておく
レイテンシに限らず、テスト時間を把握しておくことはリポートを読む際の基本である。わずか数秒のテストなのか、数分間のテストなのか、数時間のテストなのか確認してほしい。スループットやレイテンシテストは1分から数分間のテストを実施して結果を取得することが多い。
3.結果表示とともにレイテンシ測定モードを明記する
レイテンシの測定モード(方法)には次の4種類がある。どの測定モードで測ったかによって、結果の見方は変わる。
- 4つのレイテンシ測定モード
- FIFO(First In, First Out)
- FILO(First In, Last Out)
- LIFO(Last In, First Out)
- LILO(Last In, Last out)
これらの測定モードの違いは、パケットが送信されてからパケットを受信するまでの流れの中で、どこからどこを測定しているかの違いだ。図を見てほしい。
図1を踏まえつつ、それぞれの測定モードでは何を測定するのかについて、詳しく説明しよう。
- FIFO:テストパケットの先頭がテストポートを出てからテストパケットの先頭がテストポートに届くまでの時間を測定する。テストパケット長の影響を受けない
- FILO:テストパケットの先頭がテストポートを出てからテストパケットの最後尾がテストポートに届くまでの時間を測定する。テストパケット長がレイテンシの結果に含まれる
- LIFO:テストパケットの最後尾がテストポートを出てからテストパケットの先頭がテストポートに届くまでの時間を測定する。テストパケット長がレイテンシの結果から差し引かれる
- LILO:テストパケットの最後尾がテストポートを出てからテストパケットの最後尾がテストポートに届くまでの時間を測定する。テストパケット長の影響を受けない
もう少し付け加えると、スイッチは内部アーキテクチャによって、パケット転送時にパケットのヘッダだけを見て転送処理する「カットスルー」(cut through)方式と、いったんパケット全体を受け取ってから転送処理する「ストア&フォワード」(store & forward)方式とに分類され、上述した測定モードによって得られる測定結果が異なる。そのため、レイテンシがどの測定モードで測った結果であるか確認したうえでリポートを読む必要がある。ちなみに@benchmarkでは、スイッチの転送方式にかかわらず、常にFIFOモードで測定するように統一している。
また、レイテンシ測定の際にはDUTとテスタを接続する際のケーブル長にも注意している。ケーブルをパケットが流れる際にかかる時間は、ケーブルの長さに比例する。そのため、前述のような数百ナノ秒や数マイクロ秒(us)レベルのスイッチのレイテンシを測定する場合には、スイッチのレイテンシを正確に測るため、1メートル程度の短いケーブルを必ず使用している。
テスト結果
幾つかのレイテンシ結果を見てみよう。どれも同じ機器のレイテンシを測定した結果だが、スループットのときと同様に、使用するDUTのポートや機器の設定によってレイテンシの結果が大きく変わることが分かる。これらの実測値が製品のカタログで詳細に語られることはまずない。恐らく最も良い結果がレイテンシの値として記載されていると考えられる。
しかし、読者の皆さんには、ベンチマークテストの実測値が重要な意味を持つことを既によく理解いただいていると思う。ハイエンドスイッチを利用する際、用途によってはこの実測値を重視して機器の選定を行ってほしい。
図2は、スイッチをレイヤー2スイッチとして動作させたときの結果だ。スイッチが最も高速で転送処理でき、カタログスペックのレイテンシである2.2マイクロ秒と一致した。フレーム長が長くなるほどレイテンシが大きくなり、スイッチがストア&フォワードでパケット転送しているときの典型的な結果である。
図3は同じスイッチをレイヤー3スイッチとして動作させたときの結果だ。Min、Avg、Max全てにおいてレイテンシが図1の結果より大きくなっている。Max値の分布がほぼ一定となる結果で、レイヤー2動作のときと比較して約100倍レイテンシが大きくなっている。
図4は、DUTは同じスイッチだが、使用するポートを変え、かつVPN用のトンネルプロトコルを動作させているときの結果だ。Max値の分布が特徴的で、iMIXパターン時のレイテンシの特出は機器選定時のポイントとなり得る(iMIXに関する説明は第3回「スループットの計測はテストの前提条件に注目せよ」を参照)。通常、このような結果がベンダーから公表されることは少ないはずだ。
まとめ
- レイテンシとはスイッチがパケットを1個転送するのに掛かる処理時間のことである
- 10GbEインタフェース使用時で数百ナノ秒(ns)程度を特徴とするハイエンドスイッチが登場している
- スイッチのレイテンシがどの測定モードで測られた結果であるか確認してから値を読むことが大切
- レイテンシを重視してスイッチを選ぶ際は複数のパケット長ごとのMin、Avg、Maxレイテンシを見て判断する
次回はロードバランサにフォーカスして、ベンチマークテストリポートの読み方を解説する。
執筆者紹介
中村彰宏 (なかむら あきひろ) 株式会社東陽テクニカ
検証用測定器のセールス、サポートを通じて測定の個別コンサルティング(プロフェッショナルサービス)を展開中。近年はIT機器ベンチマークテストサービス「@benchmark」を立ち上げパステルネットワークスと共同で運営。会員(有料)に対してベンチマークテストの実施、テストリポートの公開、技術情報の公開(リポートの活用方法、検証に関する技術情報)、コミュニティー(情報交換の場)といったサービスを提供している。
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