「iTeachers × iStudents 教育ICT プレゼン&トーク」リポート
「先生・生徒間のLINE利用規制」は有効か? 教育IT化の課題を議論
タブレットの機能制限はなぜ必要か。ソーシャルメディアを使った教員・学習者間のやりとりの制限は意味があるのか。IT活用先進校の教員と学習者が、教育機関のIT活用の課題を議論する。
教育機関でIT活用を実践する教員や学習者は、IT活用についてどのような思いや考えを抱いているのか。それを明らかにすべく、教育機関でのIT活用を実践する教育者チーム「iTeachers」がデジタルハリウッド大学(東京都千代田区)で開催したイベントが、「iTeachers × iStudents 教育ICT プレゼン&トーク ~学ぶこと、働くこと~」だ。
映像配信サービス「Ustream」でその模様を配信したこのイベントでは、教員と学習者計6者がそれぞれの立場や視点から、教育機関のIT活用について本音で語り合った。本稿では、イベントの締めくくりとして開催したトークセッションについて、IT活用に関する議論を中心にピックアップして紹介する。
パネリスト(50音順)
教員
- 広尾学園中学校・高等学校 金子 暁教諭
- デジタルハリウッド大学 栗谷幸助 准教授
- 玉川大学 小酒井 正和 准教授
学習者
- 東京国際大学4年 長谷川 加奈さん
- 広尾学園中学校3年 渡辺康太さん
- デジタルハリウッド大学2年 和田泰弘さん
モデレーター
- 教育ICTコンサルタント 小池幸司氏
議論1:タブレットの機能制限、先生はどう考える?
イベントの登壇者や聴講者がIT活用に関して抱いている疑問や課題を基に、登壇者同士で議論する形で進んだトークセッション。広尾学園中学校3年の渡辺康太さんが教員に提起したのは、「タブレットの機能制限について、教員はどう考えているのか」という疑問だ。同校では、生徒が利用する米Appleのタブレット「iPad」にアプリケーションのインストール禁止など機能制限を掛けている。
家庭では、自分の子どもが使うタブレットに利用制限を設けていないという玉川大学の小酒井 正和 准教授は、タブレットの利用制限は「年齢に沿った内容だけで十分だ」と語る。ただし、利用制限を完全に、または大幅に撤廃するとなると、「学校だけでなく、保護者の同意を得ることが必要になる」との見方を示す。
教育機関でのIT活用で生じた問題について、その対処を教育機関が一手に担う状況では、教育機関は不要な問題の発生を抑えるために制限を強化せざるを得なくなる。「学校と家庭双方が対処すべき問題だという認識が広がれば、機能制限の緩和や撤廃について理解が広がるのではないか」と小酒井准教授は見る。
渡辺さんが通う広尾学園中学校・高等学校で教務開発統括部長を務める金子 暁教諭は、タブレットなどのIT製品は教員にとっても学習者にとっても「魅力的なツールだ」と認める。ただし、その魅力ゆえに、学習に関係のないアプリやWebサイトの閲覧に没頭するなど「“楽しい方向”にはまってしまう可能性があり、何らかの規制が必要だ」というのが、金子教諭の考えだ。
子どもの発達段階を考慮すると、特に青年前期にある中学生には一定の機能制限はやむを得ないと金子教諭は説明する。ただし、「中学生と高校生とでは、制限の内容を変える必要がある」とも付け加え、発達段階に応じた制限の必要性を強調する。
議論2:IT活用生徒、先生になったらどんな授業がしたい?
ある公立小学校の教諭は、「自分が先生だったら、ITを活用してどんな授業がしたいか」と学習者に問いかけた。イベントに登壇した学習者は、授業/講義や学校生活で日常的にITを生かしている。こうした学習者は、もし教員の立場であればどのような授業や講義が実現できると考えているのだろうか。
「タブレットを使い、動画などを活用して分かりやすさを高めた授業をしてみたい」と語るのは、東京国際大学4年で、他大学の小酒井准教授の研究室(コザカイ組)に参加している長谷川 加奈さん。「従来は動画を見せるだけのために、テレビの配線をするなどの手間が掛かっていた。タブレットを活用すれば、素早く“パパッ”と時間を掛けずに動画などの教材を見せることができる」と語る。
長谷川さんが「授業や講義で活用すると面白い」と評価するのは、教員の質問に対して学生がリアルタイムに回答可能にするシステム「クリッカー」だ。「講義中になかなか挙手しない学生は多いが、そういう学生の方が良い考えを持っているもの」と長谷川さんは語り、こうした“隠れた良意見”を引き出して講義を活性化させるためにクリッカーは役立つと説明する。小酒井准教授の講義でも、クリッカーの活用実績があるという。
IT活用教育では、とかく新規性の高い取り組みが注目を集めやすい。だが広尾学園中学校の渡辺さんは、IT活用授業には新規性の追求ではなく「現実とのつながりを重視したい」と語る。「授業の中で取り組んだことが、現実の世界に何らかの結果として反映されるようなIT活用が理想的」(渡辺さん)
渡辺さんが提案した学びの形は、身近な問題の解決策を考える「Project Based Learning(PBL、問題解決型学習)」として実践する教育機関が増えつつある。その取り組みの中で、情報収集や表現のツールとしてITを活用するケースも多い。
議論3:教員のIT活用研修はどう進めるべき?
ある私立小学校のICT教育室 室長が寄せたのは、「教育現場にIT製品/サービスを導入する際、教員向けのIT活用研究をどう実施したか」という質問だ。教育現場でのIT活用は広がりを見せているものの、全ての教員がIT活用に長けているわけではない。こうした中、教員のIT活用スキル向上を課題だと捉える教育機関は少なくない。その解決策として期待されるのが、教員のIT活用研修だ。
「IT活用に正解は無く、『絶対にこう使わないといけない』という決まりもない。小さなところから、自然にIT活用が進めばいいと考えている」。こう語るのは、デジタルハリウッド大学の栗谷幸助 准教授だ。日常的にIT製品を活用している学生が多いという同大学だが、「教員は講義でアナログな手法を取ることが多い」と栗谷准教授は明かす。
とはいえデジタルハリウッド大学では、教員にIT活用を無理強いするのではなく、他の教育機関でのIT活用実践例を教員に示すなど、教員にIT活用のヒントやきっかけを与えて自発的な活用を促している。「教員1人ひとりに、『使えるのか、それとも使えないのか』を実感してもらうことが大事」(栗谷准教授)
“研修万能論”に警笛を鳴らすのは、広尾学園中学校・高等学校の金子教諭だ。研修の内容にもよるが、例えば、教員が学習者より先にIT製品の使い方に習熟するために実施する研修は、必ずしも必要ないと判断している。「生徒は教員が教えなくても、使っているうちにタブレットの利用方法を自然と習得する」(同教諭)
広尾学園ではタブレット導入と並行して、教員にタブレットを使った模擬授業を体験してもらうという、IT活用研修では一般的な取り組みを試行した。だが操作方法を習得している教員ばかりではなく、画面表示のトラブルへの対処に時間が取られるなど「意味のない研修になってしまった」(金子教諭)という。
議論4:教員・学生間で利用するコミュニケーションツールは?
ある大学の非常勤講師が寄せたのは、「教員と学生との情報交換や情報共有に、どのようなコミュニケーションツールを利用しているか」という質問だ。
どのコミュニケーション手段が最適かは、教員の考え方や用途によっても異なる。デジタルハリウッド大学では、栗谷准教授は教員同士のコミュニケーションにFacebookを利用しているものの、講義など教育/研究活動では活用していない。一方、学生への課題提示などにFacebookを活用している教員もいるという。また同准教授は、学外の教育機関との交流には顔や声がリアルタイムで伝わるオンラインビデオ会議サービスが効果的だと説明する。
玉川大学の小酒井准教授は、「Facebookなどの一般的なソーシャルメディアは、研究室のグループワークなど教育/研究活動には向いていないのではないか」と語る。教育/研究活動では学習用SNSなど、日常的に利用しているものとは別のソーシャルメディアを利用した方が、「頭の切り替えになり、どう接するべきかも分かりやすい」という理由からだ。同准教授の研究室では、主要な連絡手段としてソーシャルメディアではなく、組織向けオンライングループウェアの「サイボウズLive」を生かしている。
議論5:ソーシャルメディアの私的やりとり禁止は効果あり?
Facebookや「LINE」といったソーシャルメディアを教員・学習者間のコミュニケーションに生かせば、教員に気軽に質問や相談ができるようになるなど、学習者に大きなメリットをもたらす。一方、ソーシャルメディアでの私的な交流から不適切な関係に発展し、教員が懲戒処分を受けるケースが相次いで明るみに出るなどの問題が顕在化している。こうした状況を受け、教育委員会がソーシャルメディアや電話、メールを使った教員・学習者間の私的なやりとりを禁止する方針を示す動きもある。
ソーシャルメディアでの教員と学習者のやりとりを禁止すれば、こうした問題は解決できるのか。会場からのこうした問いに広尾学園中学校・高等学校の金子教諭は、「まずは、学習者と教員のやりとりの禁止と、私的なやりとりの禁止は別物だということを認識すべきだ」と強調する。ソーシャルメディアでの教員と学習者のやりとりを一律に禁止してしまえば、ソーシャルメディアを活用した教育に大きな制約が課せられてしまう。ただし、私的かどうかの線引きは容易ではない。どこまでを許容し、どこまでを禁止すべきかを、教員や学習者、保護者など関係者全体で議論し、共有する必要がある。
デジタルハリウッド大学2年の和田泰弘さんは、ソーシャルメディアでの私的なやりとりを禁止しただけでは、問題の解決にはつながらないとの考えを示す。私的なやりとりかどうかはともかく、「ソーシャルメディアが普及する前から、仲のいい教員と生徒同士が話をする例は日常的にあった」と和田さんは語る。
問題解決の手段となり得るのは、教育機関で公式かつオープンなコミュニケーションツールを用意することだ。渡辺さんは、オンラインオフィススイート「Google Apps for Education」などを使った公式なコミュニケーションツールで、部活の顧問を務める教員とコミュニケーションを取っているという。「教員から直接指導してもらうと、より身に入る」と渡辺さんは強調する。モデレーターで教育ICTコンサルタントの小池幸司氏は、「公式なツールがあれば、教員と学習者がコミュニケーションを取るために、LINEなど個人的な連絡ツールを使う必然性が無くなるのではないか」と語る。
教育機関のIT活用は本格化したばかりだ。新たな手段を導入したり利用したりすれば、メリットだけでなく、大小問わずさまざまな課題に直面することは避けられない。その際、不要な問題の発生を防ぐべく可能な限りリスクの芽をつぶすのか、リスクと向き合いながら可能性の芽を伸ばす努力を続けるのか。その判断が、教育機関のIT活用の進展に大きな影響を与えると考えられる。
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