ガートナー 飯島氏が見据えるPaaSの現在【後編】
変わる企業アプリケーションの境界――どのPaaSを選ぶかよりも大切なこと
企業がPaaSを選ぶ際に持つべき視点とは。Salesforceのようなプロプライエタリか、Cloud FoundryやBluemixのようにオープンソースか、はたまた――? これからの企業アプリケーションの在り方を取材した。
従来、アプリケーションといえば、さまざまな機能が集約された巨大なパッケージ製品を指していた。だが、クラウドやモバイル、Dockerといった新たな技術の登場によって、アプリケーションの単位がもっと小さなものに変化しつつある。前編「PaaS注目の裏側には何が? 変わりつつある“アプリケーション”の意味」では、企業でのアプリケーションの概念が変化しつつあること、そして、PaaS(Platform as a Service)は話題のサービスも含め、これからの技術である状況をお伝えした。
後編も、引き続きガートナー ジャパン リサーチ部門 アプリケーションズ アプリケーション・アーキテクチャ&インフラストラクチャ リサーチディレクター 飯島公彦氏へのインタビューの模様をリポートする。
――ユーザーがPaaSを選ぶ際に必要な注意点はどういったことになるでしょうか。米Salesforce.comの「Force.com」ようにプロプライエタリでエコシステムが確立しているベンダーか、それとも米Pivotalの「Cloud Foundry」や米IBM「IBM Bluemix」のようにオープンソースベースのPaaSか、どういった判断材料を基準に選べばいいのでしょうか。
飯島氏 それは目的によって大きく変わります。無理にPaaSという枠にとらわれなくとも、前編で挙げたようにDockerの台頭によってIaaS(Infrastructure as a Service)でも自由度の高いアプリケーション開発が可能になっています。重要なのは、そのアプリケーションにどんな特性を持たせたいかです。一口にオープンソースベースといってもPivotalとIBMではその特性に大きく差が出ます。例えばIBM Bluemixの場合は基本的にIBMのリモート環境になることを意味します。一方、Pivotalはローカル環境でのクラウド(プライベートPaaS)を目指しています。
――つまり、どういうアプリケーション開発を目指すのかが重要になってくるということでしょうか。
飯島氏 前編でお伝えしたように、現在のアプリケーションは昔のそれとは大きく変わり始めています。以前は業務アプリケーションといえば社内の限られた人だけが使うものでした。もちろん今もそういうアプリケーションはありますが、社内だけでなく、パートナー企業や顧客、あるいは一般消費者など社外の人々からのアクセスを可能にするアプリケーションも存在します。
それだけではなく、アプリケーションのAPIを外部に公開しているケースも少なくありません。なぜそうするかというと、オープンにした方がビジネスチャンスが広がるからです。例えば電力の自由化によって、電力会社が他の電力会社に余剰電力を売電できる国がありますが、そのデータを公開することでさまざまなサードパーティーアプリケーションが生まれ、新たな市場が形成されます。アプリケーションが社内だけに閉じていた時代は明らかに終わったのです。
インサイドアウトな時代だからこそ、企業はアプリケーション開発にこれまでよりも明確で柔軟なポリシーラインを設定する必要があります。オープンにする部分とアクセスを制限する部分に境界線を引きつつ、その境界すらも今後のニーズに応じて柔軟に変更できるようにしておく必要があるのです。仮想境界とでも呼ぶのが良いかもしれませんが、アプリケーションの境界が物理にはとどまらなくなったという事実を強く意識しておくべきです。
――今は社内だけに閉じているアプリケーションも、いつその特性に変化が現れるか分からないということですね。アプリケーションが置かれる境界線も変化していく可能性があると。そう聞くと、飯島さんがこれまで訴求してこられたSOA(サービス指向アーキテクチャ)とは少し違う時代に入っているのでしょうか。
飯島氏 いいえ、そうではありません。SOAの考え方は現在のアプリケーション開発にも踏襲されています。例えばクラウド時代に重要になってくるカプセリングやノンベイシブインタフェースなどはSOAの考えがベースになったアーキテクチャです。アプリケーションの粒度を細かくし、サービスの疎結合を提唱したSOAは、今のPaaSにおいても踏襲されています。
違うのは当時(2008年ごろ)のSOAは社内だけしか向いていなかったことでしょうか。現在のエコシステムという言葉に代表されるような、外部との連係も含めた考え方は含まれていませんでした。ただクラウドとモバイルというトレンドが発展する過程で、SOAの果たした役割は大きかったはずです。
SOAに関して1つ指摘しておくべきことがあります。欧米の先進的な企業は2008年前後からSOAへの取り組みに積極的で、非常に多くの企業のIT基盤がSOAを意識して構築されました。こうした企業がクラウドへとスムースに移行できたのはある意味当然といえるでしょう。しかし日本企業でSOAに積極的だったところは数えるほどしかありません。現在、その差が「マチュリティギャップ」、ITの成熟度の差となって表れています。
――前編の冒頭で挙げていただいた国内企業のクラウド導入率の低さなどを考えると、マチュリティギャップはそのまま企業の競争力につながる深刻な問題に思えます。そのギャップを埋めるためにはどんな施策が必要でしょうか。
飯島氏 欧米のような準備をせずにアプリケーションの変化の時代を迎えてしまった現在、全てのアプリケーションを作り直すのはとても無理です。クラウドベースに載せられるものは良いですが、そうできないものは別の対策が必要でしょう。オンプレミスで作り続けるというのも1つの選択肢です。クラウドネイティブの優れたSaaSを導入するのも手かもしれません。
ですが、その前に全社的に「ステータスインフォメーション」の可視化を図ることを推奨します。いわゆる状況(データ)の可視化です。必要な情報に対してサービスインタフェースを作ることで、既存のアプリケーションに頼らなくてもアダプターを提供することが可能になります。既存のアプリケーションがクラウドに載らない(載せられない)のなら、せめてデータだけでも可視化しアクセスする手段を作る、それが新たなアプリケーションの突破口になります。
――お話を伺っているとデータドリブン(data driven)という単語が浮かびました。
飯島氏 SOAの基本はプロセスです。そして前述した通り、欧米の先進的な企業はここをきっちりと基盤として作りこんでいます。しかしデータドリブンはプロセスからは導き出せないのです。日本企業がマチュリティギャップを埋めようとするのなら、データドリブンを意識したITを目指すというのは手かもしれません。
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ガートナー 飯島氏が見据えるPaaSの現在
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