ガートナーサミット 2015 リポート
自動車業界の大競争時代、デンソーが生き残りを懸けて挑むOSS&クラウド化
自動車業界は大競争時代に突中し、それを支えるITもまた変革を求められている。ホストからいち早くオープン化に踏み切ったデンソーのIT子会社が、プライベートクラウドの取り組みを語った。
自動車業界は今、再び大競争時代を迎えている。「メインの市場が先進国から新興国へ変化し、消費者のニーズは高級車と低価格車に二極化してきている。地球環境に関しては、CO2削減への要請が世界的に強まり、自動車のエンジン機能はガソリンなどの内燃機関から電気モーターへと軸足が移ろうとしている」と話すのは、大手自動車部品メーカー デンソーの100%子会社であるデンソーITソリューションズの代表取締役社長 今井孝雄氏だ。「事業の3分の1がエンジン」(今井氏)というデンソーにとっては、業務転換にもかかわる厳しい状況だ。
こうした経済的・環境的変化は、生産構造も変化させている。これまでのように本社のある日本で設計して複数の海外拠点で組み立てるという1対Nのやり方から、例えば欧州で設計し中国で生産するという最適地設計/最適地生産のN対Nの方式に変わってきている。生産構造がこのようなネットワーク型になれば、経営構造も単独重視から連結重視へ、部分最適から全体最適へとシフトしなければ立ち行かなくなる。
自動車業界全体で販売市場、消費者ニーズ、生産構造、経営構造と、全ての仕組みが大転換を迫られる中、それを支えるITとて例外ではない。デンソーのグローバルなIT活用のヘッドクオーターの役割を担うデンソーITソリューションズは、自動車業界の世界的な大競争時代に対応すべく、最新ITを駆使しビジネスのスピードと質を向上させる「次世代IT基盤」への刷新に挑む。2015年5月27日に開催された「ガートナー ITインフラストラクチャ & データセンター サミット 2015」の講演内容を基に、デンソーITソリューションズのプライベートクラウドの取り組みをリポートする。
第一次オープン化で生まれた多数の問題
同社は2006年にIT基盤の基本構造を決定したが、その背景には、1990年代のホストコンピュータ時代から2000年代のオープン化までに発生したさまざまな課題があった。
今井氏は「2000年代のオープン化は問題ばかりだった」という。1つ目は、システムのサイロ化だ。システムごとに最適なベンダーを選定すればするほど、システムがバラバラになっていった。2つ目は芋づる式更新。システムの上位互換性が乏しく、ハードウェアを数年に1回更新すると、載っていたOS、ミドルウェアも更新することになる。それに引きずられてアプリケーションも更新すれば、初期導入と同じくらいの費用が掛かる。3つ目は、ベンダーロックイン。標準技術とは名ばかりで、ベンダーごとに互換性がなければロックインされてしまう。その結果、4つ目の課題、ベンダー依存が起こる。自社ではシステム構造を把握できず、外部ベンダーやシステムインテグレーター(SIer)に依存をしすぎてしまい、結果「IT部門の価値が落ちてきている」(今井氏)というのだ。
新IT基盤に定めた3つの基本方針
同社は上記4つの課題に対処するために、IT基盤刷新で3つの方針を固めた。1つ目が共通プラットフォーム化だ。自動車部品事業と同じくシステムも全体最適を追求する。2つ目はオープン重視。優れた製品やベンダーを求めてシステムがサイロ化してしまった反省を踏まえ、いくら優れたソフトウェアがあってもオープン性を重視することとした。3つ目が内製主導。外部依存を止め、技術力を内部に蓄えコントロール可能であることを目指す。IT部門の生き残りを懸けたチャレンジだ。「キーポイントは、果たしてIT部門がマインドチェンジできるかだと思う」(今井氏)
こうしてデンソーITソリューションズは2006年、IT基盤基本構造を決定。アプリケーション部分はWebサーバ、アプリケーションサーバ、データベースの3層構造に、ミドルウェアはオープンソースソフトウェア(OSS)を、インフラ部分はホストコンピュータとUNIXを止めてIAサーバと、WindowsやRed Hat Enterprise Linuxを選択することを決定した。
「2006年の段階ではまだ、IAサーバの採択に関しては若干時期尚早かとも思えた。ベンダーに相談すると、“データベースはUNIXでないと駄目だ”など、いろいろなことを言われた。しかし、ムーアの法則しかり、ITの進化と価格の下落は目覚ましい。このトレンドを見ればホストやUNIXを使うことがこの先の最適な選択かと疑問に思えた」。そして、今井氏の読み通り、現在はIAサーバが主流の時代になった。
新IT基盤はOSSを中心に
2006年の刷新以降、デンソーITソリューションズのIT基盤は、サーバ仮想化や仮想化統合基盤を経てプライベートクラウドへと順調に進化している。
2006年にIAサーバ採択を決断し、2007年には基幹システムに統合ブレードサーバを導入。ブレードサーバはVMwareで仮想化した。メモリ、CPUの割り当てを標準化し、S、M、Lとサイズ別にメニュー化している。「2008年にリーマンショックが起きた際、IT予算が2割削られたが、サーバ仮想化をしていたおかげで既存サーバの仮想マシンでシステムを構築し、新規のサーバ購入をせずに済んだ」と振り返る。
2011年には、EUC(End User Computing)用の業務システム基盤としてプライベートクラウド「ALADIN」を構築。ユーザーはメニュー申請するだけでプール化されたリソースからサーバ、ストレージを利用することができる。「サーバ自体は30分程度で切り出せるが、(大企業故に)社内のさまざまな承認ルートを通る関係でユーザーの手に届くまでには2.5~3日かかる。コストを計算したところ、オンプレミスでサーバを調達したり、某有名クラウドサービスを利用するよりも安価であることが分かった」(今井氏)
ちなみにALADINにはアプリケーションサーバで600台強、ファイルサーバで400台強があり、ユーザーは日本全国のイントラネットから自由にアクセスできるという。「デンソーグループはEUC用のサーバ集約化が進んでおり、全体では3000台から2000台に削減している。1000台まで集約できると考えている」(今井氏)。
SLA(サービスレベル保証)を各段に上げた第二世代ALADINも運用している。今後は「OpenStack」でプライベートクラウドを構築する予定だ。
「『Open Compute Project』を推進する米Facebookのデータセンターは、サーバだけでなく空調や電源設備なども全て自前。データセンターを標準化している。これからの時代、IT機器や設備は作り手ではなく使い手が標準を決める時代になるだろう。われわれもコモディティ化した技術を採用し、コストパーフォーマンスを上げていきたい」と意気込みを語った。
ミドルウェアは、Oracle製品以外はほとんどOSSを採用している。Webアプリケーションフレームワーク「Struts」をベースに部品を構築。2015年4月に、ミドルウェア部分をバージョン2からバージョン3へ進化させた際に、Strutsから「Spring Framework」へ移行したとのことだ。
IT部門に問われる目利き力
この10年間、先に挙げた4つの課題をいかに克服するかに注力してきた今井氏。次々に湧き起こる最新技術の中から、ベンダーに頼らず自力で本物を選ぶことは難しいという。「マルチベンダーでオープンプラットフォームを採択し続けることは、ユーザー企業にとって非常に大変なことだ。ホスト時代はメーカーに頼れたが、今後ますますユーザーの目利き力が重要になる」と述べる。
今、多くのユーザー企業が「クラウド」「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」といったキーワードに着目し、自社に最適な形で取り組もうとしている。
「誤解を恐れずに言えば、ソーシャルやビッグデータを実現するITソリューションは、自動車など製品を開発する業務には必要だが、ものづくり企業の業務系システムを支える仕組みには不要だと思う。そういったことをユーザー企業が自分たちで決めていくことが大事。例えば、トップから『SNSはやらないのか?』とか聞かれても、『やりません』と自信を持って答えるということだ」(今井氏)
特定ベンダーやお得意のSIerに縛られず、自分たちでコントロール可能なプラットフォームを運営し続けていくこと、これこそがこれからのIT部門に求められる能力なのかもしれない。
今井氏はユーザー企業の人たちに対し「見極めに自信を持ち、自前にこだわり、自らが先頭に立ってチャンレンジしてほしい」とエールを送った。
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