21世紀でも成功するための手段とは
新聞ビジネスと生物学は同じ? New York Timesが取り組んだデータ分析とは
インターネットの登場によって、ほとんどの印刷媒体が苦戦する中、New York Timesは、データ分析で有利に進めている。その手法とは一体どのようなものなのだろうか。
21世紀に入ってからインターネットは印刷媒体に取って代わってきた。インターネットが多くの読者にとっての主要なニュース源となり、印刷媒体を中心に事業を進めていた大部分の報道機関は売り上げが急減した。広告主が新聞紙面の広告スペースに対して高額な料金を支払う意欲は薄れる一方でインターネット広告はまだ実績が少ない。報道機関はそうした状況への対応を迫られている。
多くはまだ、ニュース配信の新事業を軌道に乗せられずにいる。そうした中で、米New York Times紙は、この状況に順応する取り組みとして、予測アナリティクスをビジネスモデルの中心に据え始めた。購読者を増やす努力からソーシャルメディアを使った記事の宣伝に至るまで、同社は予測モデルを手掛かりにして多くの事業上の意思決定をしている。このアプローチによって、21世紀も20世紀と同様の成功を目指している。
米ボストンで開かれたカンファレンス「Predictive Analytics World」で、同紙の最高データサイエンティスト、クリス・ウィギンズ氏は、読者が購読を申し込む過程や他の読者に影響を与えて購読者を増やす過程を調べるファネル分析などに、予測アナリティクスのアルゴリズムをどう使っているかを紹介した。同社は、自然言語処理を使い読者に最も行動を起こさせるコンテンツトピックについて理解を深め、どんな記事を宣伝すべきかをマーケティング担当者が把握できるようにしているという。
ニュース分野のアウトサイダー
ウィギンズ氏は同紙のデータ事業を率いる人材としては異色に見える。理論物理学の博士課程を修了し、これまでのキャリアのほとんどは研究機関で生物学の研究を行ってきた。ただ、過去の研究の大部分は、機械学習など先端の統計的手法を活用している。そうした予測アナリティクスモデルを昔ながらの新聞ビジネスに応用することは、生物学で利用することとそれほど大きく違わないと同氏は言う。生物学は歴史的に、データ駆動性が特別大きい科学分野ではなかった。
同氏は長年高等教育に携わってきた人物でありながら、New York Timesではあえて非学術的なアプローチを取っている。同氏のチームでは、机上の空論を排し、明らかに役に立つ事柄のみに重点を置く。
「われわれがやっていることが会社のためになる理由を全社的にはっきりさせる必要がある。実行できることのみをやらなければならない」とウィギンズ氏はそう話す。
それを達成するために、同氏は統計よりも一般的なコンピュータサイエンスのスキルに重点を置いたチームを組織した。このやり方は、1つのモデルを開発から本番へと移行させるのに役に立つという。プログラミングに詳しい人材がいれば、データサイエンティストに比べてアプリケーションやWebポータルの構築がしやすい。ほとんどのプロジェクトは、「R」のような統計中心の予測分析ツールではなく、プログラミング中心の「Python」を利用する。
「Pythonは、コンピュータサイエンス寄りの人材を引き付けるだけでなく、何かをやり終えたときも、それがスライド資料のように無駄にならずに済む」(ウィギンズ氏)
データで編集局の意思決定はしない
New York Timesは予測アナリティクスのアルゴリズムで一定の成果を収めているものの、ウィギンズ氏のチームが決して踏み込まない領域が1つある。編集局がそれだ。他の報道機関では、予測アナリティクスを編集上の決定に結び付けているところも多くみられるが、1歩引くべきときを知ることが大切だと同氏は言う。現時点では主に同紙の編集判断の質の高さが、多くの競合他社との差別化につながっている。データ駆動性を強めることでその側面が向上するとは考えにくいからだ。
同紙は他の分野では、分析に助けられて21世紀の報道機関になりつつある。その鍵は、人々の思考を変えさせ、疑問に答えを出すために、まずデータに目を向けさせることにあるという。
「New York Timesの社内でデータの重要性に対する認識はますます高まりつつある」とウィギンズ氏は話している。
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