導入担当者に聞いた
セガの“次のメガヒットゲーム”は現場のデータ分析が生み出す
ゲーム大手のセガは、BIとデータマイニングの各ツールを相次いで導入し、データ分析の環境構築を積極的に進めている。同社のゲームやサービスを遊ぶ利用者の動態をより詳細に分析できるようになった。
家庭用ゲームソフトや業務用ゲーム(アーケードゲーム)機器、アミューズメント施設の開発、販売、運営を手掛けるセガは、クリックテック・ジャパンのBI(ビジネスインテリジェンス)製品「QlikView」とSAPジャパンのテータマイニング製品「SAP InfiniteInsight」を相次いで導入し、データ分析の環境構築を積極的に進めている。
本稿では、同社の情報活用の現状から、製品導入の背景、選定理由、導入効果、そして今後の展望に至るまでを解説する。
情報活用の現状:運用開始から数カ月、課題が徐々に明確に
セガでは、社長室 プロジェクト推進部 SEGA ID推進課が中心となってデータ分析基盤の構築を進めてきた。2014年6月には、QlikViewとSAP InfiniteInsightの導入が明らかになったばかりである。
社長室 室長の竹崎 忠氏は、現在の状況について次のように話す。「BIとデータマイニングの各ツールを導入してからまだ数カ月で、ようやく運用を始めたという段階。部門間でデータを共有するなど、全社で情報を統合、分析する準備が整った」
これまで、クライアントPC向けオンラインゲーム(以下、PCオンラインゲーム)やアーケードゲーム、アーケードゲームと連動したクライアントPC/スマートフォンサービスなどの利用履歴は、ゲーム/サービスのそれぞれのデータベースで保有していた。そのため、ゲームやサービスをまたがった利用動態などは十分に把握することができなかった。
そこで同社は、「SEGA ID」という共通認証サービスで利用者をひも付けることで、各ゲーム/サービスのデータ統合(名寄せ)を可能にした。社長室 プロジェクト推進部 SEGA ID推進課 課長の小島 雄一郎氏は「従来も各ゲームのプレーヤー像をつかむことはできたが、今ではセガのゲーム/サービスを横断して、より詳細な利用者像をつかむことができるようになった」と話す。
データの品質に課題
データ分析基盤の運用を進めるうちに、問題点も浮き彫りになってきた。その1つが保有するデータの品質だ。現在は「量より質」を重視しているという。
「サービスによって取得している利用者情報が異なることにはじまり、データのテーブル構造、更新タイミングなども異なっていた。特に核となる利用者情報は、課金サービスであれば詳細な個人情報を要求しやすいが、認証にとどまるサービスの場合はIDとメールアドレス程度しか得られず、情報を求め過ぎると利用以前に離脱されてしまう」
その一方で、必要なデータ項目が欠けると十分な分析精度が得られない。そこで、セガでは顧客情報の取得に際し、サービス利用レベルに応じた取得項目設定など標準化を進めている。各事業部では、その基礎情報に手元の事業情報を付加し、分析するようにしている。
QlikView、SAP InfiniteInsightを導入した背景
「“創造”や“楽しい”に端を発するビジネスなので、データ分析に対する意識が希薄だった」と小島氏は振り返る。経営企画や戦略部門などは別として、事業部門や開発部門では特にその傾向が強かったという。
データ分析の製品選定に当たっては、次の項目に重点を置いた。
- 一般的な現場スタッフのPCスキル(Microsoft Excel利用程度)だけでも使えること
- 経営企画やIT部門だけでなく、業務部門も一緒に使えること
- 導入時および導入後のコスト、拡張性
- ベンダー、システムインテグレーター(SIer)のサポート体制
以上の点を考慮した結果、セガでは、QlikViewとSAP InfiniteInsightの導入を決めた。両製品の選定理由を見てみよう。
QlikView:過去から現在を見る、現状分析ツール
QlikViewは「連想技術」や「インメモリ技術」といった技術を中核とし、直感的な操作性や大容量データの高速分析を可能している。セガがQlikViewを選定した理由は次の通り。
- 各部門で個別管理されているさまざまな構造データを容易に統合し、全体活用可能な仮想データウェアハウスを作ることができる
- 一般的なオフィスツールでは取り扱うことが難しい大量のデータをスピーディに扱うことができる
- ベンダーやIT部門に依存せずともビジネス部門のユーザーが自身で画面作成やデータ共有などを行える
- データベースについての専門知識のないユーザーでも、自分の見たい切り口で動的にデータを参照し、必要な情報をその場で得られる
- QlikViewのパーソナル版は無料かつ無期限で試用できるため、購入前の検証/評価を十分に行える
セガでは、2014年5月からSEGA ID推進課が、QlikViewを使った統合データダッシュボードの共有を開始。統合データに対する社内の関心は非常に高く、製品・サービスの設計やマーケティング施策を行う上での有益な情報として活用され始めているという。
「QlikViewはインターネットでのコミュニティーが活発で、(SIerである)アシストのサポート体制も十分だった。コミュニティーからノウハウを学び、それでも分からないことがあれば、アシストが支援をしてくれた」(小島氏)
SAP InfiniteInsight:将来を予測する、データマイニングツール
SAP InfiniteInsightは、予測分析を行うためのモデル構築、分析作業を自動化し、データ分析の専門家ではない業務部門のユーザーによる迅速なデータマイニングを可能にするツール。予測モデル構築の際の基礎データの加工と変数の指定を行えば、その先の分析/モデル評価/簡易報告までを自動化するため、データ解析に要する時間の大幅削減につながる。
SAP InfiniteInsightに関しては、次の3点が評価ポイントとなった。
- 業務部門のユーザー自らが使用できる
- 操作習得の早さと分析結果に至る速さ
- ブレインパッドのデータサイエンティストによる支援体制
セガでは既に、自社の製品やサービスに関するデータ分析を通じて、利用者の購買行動の特徴や行動予測などの分析結果が出ており、サービス設計やマーケティング施策を行う際の有益な情報として利用され始めているという。
「『SAS』や『IBM SPSS』といった高度な分析ツールも検討したが、データ分析の実務経験がない者にはツールの習熟に加えて分析手法の理解も必要となり、運用に足るレベルに至るには時間がかかる上に担当者の能力に依存することになってしまう。SAP InfiniteInsightでは、シンプルかつ直感的なユーザーインタフェースにより、短期間で操作を習得できる点と属人化せずに一定の精度を持った結果を得られる点を評価した」(小島氏)
今回の導入に当たっては、環境構築、トレーニング、分析結果の現場へのフィードバックまでを2カ月半という短期間で実現したという。
また、ブレインパッドからは、ソフトウェア導入時のシステムサポートだけでなく、データサイエンティストによる分析手法の提案や、データマイニングから得られた分析結果のビジネスへの活用方法など、新たな企画や施策につなげるための支援を受けている。
製品の導入効果と今後の展開
前述の通り、セガがデータ分析基盤を導入してからまだ数カ月、ようやく運用が始まったという段階だ。それでも、データ分析に関して、「部門間での情報やノウハウの共有が徐々に進んできている」(小島氏)という。
また、例えば、「同じアーケードゲームでも近距離圏の複数ゲームセンターにおいて稼働に顕著な差が生じる理由」「ユーザー情報と稼働状況の曜日や時間帯の相関」などの疑問を分析し、現場でのアクションを考えるきっかけとなっている。
データ分析が社内で浸透するに従い、システムの利用率やデータ量が予想を上回るペースで増加している。その結果、利用PCの処理能力不足やツールの作業レスポンス低下が顕在化し、計画を前倒しして2014年8月に、QlikViewをクライアント版からサーバ版に切り替えた。現在はデータ分析専用の物理サーバを立てて運用している。
しかしながら、「専用サーバを導入しても、分析できる対象期間を拡大するとデータ量に比例してレスポンス低下が生じることが分かった」(小島氏)という。「あらためてデータの持ち方や事前の演算処理など、インフラ側には影響を与えずに独自で行える運用面でのチューニングを並行して行っている」(同)
「PCオンラインゲームの膨大なログデータなど、これから統合するデータも控えており、それらを保持・加工するためのデータウェアハウス(DWH)やHadoop環境の構築も併せて必要になると考えている」と小島氏は語る。
スマートフォンやタブレットをはじめとするモバイルゲームやソーシャルゲームは、家庭用ゲームソフトやアーケードゲームをしのぐ勢いを見せている。ゲーム市場が大きく変化し、競争が激しくなっている中で、利用者の動向とニーズを的確につかみ、それに応えるゲームやサービスを提供することが生き残りのカギとなっている。セガの取り組みは、まさにそこを狙ったものといえる。同社の今後の動向に注目したい。
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