GANのリスクを超えて【前編】
「ディープフェイク」は企業に利益をもたらすか
データの複製に敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いることは、人工知能(AI)技術に潜む最大のリスクの1つとされている。だが、企業は有益なコンテンツの作成にディープフェイクを使うことも可能だ。
「ドナルド・トランプを批判するバラク・オバマ」「Facebookがいかにユーザーを抱えているかを自慢するマーク・ザッカーバーグ」「インディー・ジョーンズやジェームズ・ボンドを演じるニコラス・ケイジ」……ソーシャルメディアで爆発的に拡散するバイラル動画はいずれももっともらしく見える。だが、恐らくそれらの大半は「ディープフェイク」だ。
ディープフェイクとは、敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Network:GAN)を使って本物を装い、偽造された動画や画像、音声を指す。GANとは1つのデータセットを機械学習の2つのアルゴリズムで確認し、アルゴリズムを相互に競わせて、そのデータセットに属する追加データを推測する技術だ。
近年はディープフェイクを合成するアプリケーションを簡単に入手できる。かつてはスキルを要したテクノロジーを誰もが使えるようになっているのだ。その目的が楽しみのためか、不正のためかは関係ない。GoogleやFacebookのような企業が、こうした動画の人気の高まりや普及を抑えようと取り組んでいる。だがディープフェイク生成のための人工知能(AI)技術は、全ての企業が認識しておくべきものだ。
GANを正しい方向へ
ディープフェイクは成人向け動画や政治的欺瞞(ぎまん)がらみで不評を買っている。だが、ディープフェイク生成の主要技術であるGANの本質は、悪意のあるものでも、誤解を招くものでもない。
技術政策のグローバルコンサルタント企業AA Access Partnership(「Access Partnership」の名称で事業展開)でデータおよび信頼部門の責任者を務めるミハエル・クラウザー氏は次のように話す。「GANを考案した背景にある目的は、十分なデータがない場合、あるいはデータが不完全な場合にデータセットを増強する機能を作成することだった。GANは近似データや類似データを作成できる、間違いなく強力なAI技術だ」
GANが生み出す合成データは、乳がんの検出からダークマター(暗黒物質)の研究まで、さまざまなアルゴリズムのプログラミングに使われている。合成データを使って自動運転車のトレーニングをしているチームも幾つかある。こうした好意に基づくユースケースでは、一般的に「ディープフェイク」ではなく「合成動画」と呼ばれる。
GANはコンテンツ作成企業にとっては資産になる可能性がある。特にコンテンツのパーソナライズをする際にはメリットがある。パーソナライゼーションを大量に利用する業務では、作成するコンテンツの量や種類を増やす必要がある。こうした場合、GANが生み出す疑似データが役立つ可能性がある。このように語るのは、調査会社Gartnerで調査部門バイスプレジデントを務めるアナリストのアンドリュー・フランク氏だ。
「コンテンツの作成にはまだかなり高額の費用がかかる。動画を用いたコミュニケーションをもっとたくさん実現するための技術革新は、以前よりも身近なものになっていると考えられる」(フランク氏)
特に米国と中国がAI技術で競争している現状を考えると、米国が技術的なリーダーシップをとる上ではGANが重要になる。中国は、監視に関する同国の法律、政策、歴史によって、米国にはない市民データのバックログにアクセスできる。米国も監視活動を増やしている。だが、監視に関する多くの規制も制定している。そのため、AI技術の研究に使用するデータプールには限りがある。
「適切なトレーニングを実行し、インテリジェンスに富んだアルゴリズムやAIシステムを作り上げるための教師データにどれだけアクセスできるかによって、AIの優位性が決まる。米国が優位に立つには、米国は持っていないが中国は持っているようなデータを作り出す必要がある。特に、顔認証、映画、監視、音声ログなどだ」(クラウザー氏)
後編はディープフェイクのリスクを軽減する方法について解説する。
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