事例で学ぶスキル向上と再教育の意義【中編】
老舗工具メーカーが「DX」推進に人材教育が必要だと考える訳
工具メーカーStanley Black & Deckerが抱える世界中の拠点では、最新技術を採用した工場もあれば、自動化が進んでいない工場もある。こうした中でDXを推進する同社が、従業員教育に注力する理由とは。
工具メーカーのStanley Black & Deckerは、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めたことで生産設備のオペレーションが大きく変わった。同社でIndustry 4.0担当グローバルバイスプレジデントを務めるスディ・バンガロール氏によると、世界100カ所を超える同社の生産拠点はデジタル化の段階がそれぞれ異なり、自動化がほとんど進んでいないレガシーなプラント(装置や工場)もあれば、最先端技術を採用している高度な施設もあったという。前編「DXの成功には『従業員のスキル向上と再教育』が不可欠な理由」に続く本稿は、DXとともに顕在化する従業員のスキル格差の解消に向けた「スキル向上」(Upskilling)と「再教育」(Reskilling)の事例として、同社の取り組みを紹介する。
Stanley Black & Deckerは2016年から産業用IoT(モノのインターネット)の技術を使用して、工業アセット(設備と運用体制)、従業員、プロセスに関する企業内のデータやシステムを結ぶ「コネクテッドエンタープライズシステム」と、工業アセット用の自動化システムを構築している。バンガロール氏によると、コネクテッドエンタープライズシステムの構築にはRockwell AutomationとPTCの技術を採用し、自動化システムはRockwell AutomationとPanek Precisionの技術を中心に据えて構築を進めているという。
スキル向上は製品の変革と同じくらい重要
バンガロール氏は「当社はレガシーな企業だが、トップクラスのイノベーション企業の一員になりたいと考えている」と話す。そのためには製品と顧客サービスを変革しなければならない。同氏によると、それと同じくらい重要なのが、製品をどのように製造するか、製品を製造する従業員をどのように支援するかだ。
DXの成功に欠かせないのがスキル向上と再教育のプログラムで、Stanley Black & Deckerの全従業員6万1000人がこれに参加する。このプログラムはAR(拡張現実)などの先進技術のOJT(職場内訓練)も実施する。ただしバンガロール氏は「技術の訓練はあくまでもプログラムの一部にすぎない」と説明する。
「従業員が自らの能力を引き出し、適切な技術の訓練を実施することによって新しいキャリアパスを獲得できるようにしたい」とバンガロール氏は考えている。例えばデータ解析やデータドリブンマーケティング、コラボレーションなどだ。「成し遂げたいことは全て、隣にいる人とのコラボレーションにかかっている。今ではそれをリモートでやらなければならなくなっている」(同氏)
システムと工業アセットをつなぐ技術の導入は重要だが「レガシーなプラントで働く従業員が技術の利点を理解できるようにすることは、さらに重要だ」とバンガロール氏は考えている。そのためには、何らかの技術を導入してから従業員を順応させるのではなく、適切な人材を配置してから技術を受け入れ、関心の高いアーリーアダプターによる先導を促す。
Stanley Black & Deckerは、同社が「プラントチャンピオン」と呼んでいる適切な人材を工場に配置し、他の従業員と一緒に仕事をしてもらっている。「まずは技術の変化を他の従業員に伝えることのできる人材を見つける。自動化やコネクテッドファクトリー、アプリケーションの活用と分析を実現するのはそれからだ」(バンガロール氏)
後編は重電メーカーSchneider Electricの事例を紹介する。
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