ストレージ市場に起きた想定外【前編】
SSD、HDDが売れなくなった「語られざる理由」
SSDやHDDを手掛けるストレージベンダー各社の売上高は、2022年から2023年にかけて急落した。AI技術の台頭でストレージの需要は大幅に改善するとの見方があったが、それは読み違えだった。どういうことなのか。
SSDやHDDを扱うストレージベンダーは、需要の変化に翻弄(ほんろう)されている。2022年から2023年にかけて、ストレージベンダー各社の売上高が急落した。2023年以降は、AI(人工知能)技術の台頭によってストレージの売上高は大きく回復するとの見方があったが、状況はむしろ悪化した。何が理由なのか。
SSDもHDDも売れなくなったのはなぜか
併せて読みたいお薦め記事
SSD、HDDで注目の話題
ストレージ需要の減少は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(感染症の世界的な流行)期間中に、企業がHDDとSSDを過剰に購入したことに起因する。その特需が終わると、IT業界の景気が悪化した。Microsoftをはじめ、HDDとSSDを大口で購入するIT企業が数千人といった規模で従業員を解雇した。
そうした中でも、2023年に入ると幾つかのストレージベンダーが業績回復の兆しが見えてきたという見通しを発表した。しかしストレージ市場低迷は極めて深刻だった。
2022年末に約3000人の従業員を解雇していたHDDベンダーSeagate Technology(以下、Seagate)の2024年第1四半期(2023年7~9月期)の売上高は、14億5400万ドルにとどまった。これは前年同期の売上高20億3500万ドルから、約29%も減少したことになる。SeagateのCEO、デイブ・モズレー氏は「今回の業績悪化は典型的なダウンサイクルよりも長い」と語った。
2023年は生成AIがIT業界を賑わせ続けることになったが、この流行がストレージベンダーの業績を支えるまでには至らなかった。企業が生成AIの試験的な運用を本番運用に切り替える動きが広がってくれば、ストレージの需要も高まってくるはずだ。だが、AI技術の需要とストレージの需要の関係はそう単純ではなかった。
2023年、ストレージベンダーは革新的な新製品をほとんど発表しなかった。Seagateのエグゼクティブバイスプレジデント兼チーフコマーシャルオフィサーであるバンセン・テー氏は、「生成AIの爆発的な普及に起因している」とその背景を語る。企業は、設備投資の予算を重点的にAI技術に振り向けることになった。資金が集中的にAI技術へと向かうことになり、ストレージの売り上げの回復が遅れたのだとテー氏は分析する。
AI技術によるストレージへの影響はそれだけではない。AI技術の処理向けに設計された「AIサーバ」は、データ読み書きを高速に処理するSSDを搭載する。調査会社Gartnerのリサーチバイスプレジデントを務めるジョセフ・アンスワース氏は「AIサーバ向けSSDの容量はそれほど多くはないので、それがストレージ容量の需要を押し上げることにはならなかった」と語る。
AIサーバは、演算処理もデータの読み書きも高速に実行する必要があり、そのためのデバイスを搭載する。AIサーバは汎用(はんよう)サーバに比べて高額だ。「AIサーバがより多く売れれば、汎用サーバがより多く売れ残るという結果につながる」とアンスワース氏は語る。汎用サーバはAIサーバよりも多くのストレージ容量を搭載する傾向にあるため、汎用サーバが売れなければ、結果としてはストレージ容量の需要を抑制する結果になってしまう。
「AIモデルを学習する際には大量のストレージ容量が必要になるが、推論の際はそれほど大量のストレージは必要はない」とアンスワース氏は語る。一方でAI技術の運用にコストがかかり、結果としてストレージに振り向けられることが見込めたはずの企業のIT予算は、ことごとくAI技術に奪われることになったのだ。
AI技術が継続的に使われ続ければ、結果的にストレージの需要を押し上げることになると考えられる。次回以降はHDD市場の状況を分析するとともに、AI技術の普及がストレージの需要を押し上げる可能性を探る。
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社ビザスク] 「新規事業」事例集:大手企業はどのように想定顧客ヒアリングを行っているのか -
市場調査・トレンド
[株式会社ビザスク] 質の高い「仮説検証インタビュー」を実施するためのポイント -
事例
[株式会社ビザスク] 富士フイルムの新領域参入に学ぶ事業創出 「畑違い」でもビジネス化できる方法 -
事例
[株式会社ビザスク] 三菱電機 上席執行役員に学ぶ、未来を切り開く「新事業創出」の実践方法 -
事例
[ServiceNow Japan合同会社] 脆弱性対応のリードタイムと工数を大幅削減、事例に学ぶセキュリティ基盤刷新術
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
3
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
4
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
5
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
鹿島建設のDXを阻む「10年前のAWS」 安全性と自由度を両立したモダナイズ
-
8
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
9
「Linux」の脆弱性を生むのは誰か? ベテラン開発者の意外なミス
-
10
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
3
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
8
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー