地域医療連携ソリューション紹介:日本HP
異業種との協業で地域医療連携の新ニーズを開拓 日本HP
医療機関に対する最上流からの一貫したシステム提供を手掛ける日本HP。同社は医療機関に加えて、異業種における地域医療ネットワークの利用拡大に取り組んでいる。
“院内業務の可視化”と“地域医療連携”の双方を強化
米Hewlett-Packardは、医療分野でのコンサルティングに強みを持つITサービスプロバイダー、Electronic Data Systems(EDS)を2008年に買収して以来、医療機関向けの提案活動をグローバルで加速させている。これを受け、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)も国内の医療市場の開拓に向け、以下の2つの分野での提案を進めている。
- 「デジタルホスピタル」による業務変革で医療経営を見える化
- 「HIE(Health Information Exchange)」による医療情報連携の促進
デジタルホスピタルとは、医療情報を迅速かつ的確に活用するためのITインフラの提供を目指す取り組み。その狙いは、院内業務を可視化することで病院経営を改善することにある。例えば、患者情報を医療従事者間で広く共有できれば、患者に対する効果的なケアによって医療の質を向上させ、サービス提供や診断の効率化が可能になる。それらを通じて、病院経営の高度化も促すことができる。その実現には、患者や職員間でのリアルタイムコミュニケーションや医師の診療支援のための医療画像の高速な解析、各種データのセキュリティを確保するためのシステムや技術などを用いる。
HIEでマルチベンダー環境の地域医療連携を支援
HIEとは、異なるネットワークやシステム間で診療情報などを共有化するための医療情報交換の仕組みを指す。HIEの構築を通じて目指すのが「ベンダーに縛られないデータ連携の実現」である。地域医療連携では医療機関間をまたいだデータ連携が不可欠だが、同じHL7規格の電子カルテでもデータの保存形式がベンダーによって異なるため、情報連携が困難になるケースもある(関連記事:医療分野におけるメッセージ交換の標準化規格「HL7」)。また、医療システムの種類は多岐にわたり、それらの接続に多額のコストを要することが課題に挙げられる。事実、特定ベンダーによる小規模かつ閉ざされた地域医療ネットワークが少なからず存在し、そこに参加する医療機関はこれまで特定ベンダーの製品に縛られざるを得なかった。
一方、HIEでは医療情報の標準規格「IHE」(Integrating the Healthcare Enterprise)などをベースにした医療情報連携フローの実現を目指す。これにより、マルチベンダー環境でもデータ交換が容易になり、これまでの課題を抜本的な解決することもできるという(関連記事:「地域医療連携」を活用したビジネスモデルの創出)。
日本HPのエンタープライズサーバ・ストレージ・ネットワーク事業統括 エンタープライズシステム営業統括本部 ビジネス企画部で公共・医療担当部長を務める宇佐美茂男氏は、「現在、地域医療連携のための標準化は政府主導で進められているが、その完了には少なからず時間を要す。HIEは、地域医療連携の円滑な普及を支援するためのデータ連携プラットフォームに位置付けられる」と説明する。
現在HPではベンダー各社と仕様書を公開して共有するなど、グローバルでのIHEインタフェースの開発を進めている。こうしたノウハウを生かし、さらにクラウドの採用による低コスト化を訴求することで、HIEの利用拡大を同社は目指すという。
体制強化を通じて最上流からのシステム提案に取り組む
HPのハードウェア製品は、既にPACS(医用管理画像システム)などで広く採用されている。また、日本HPは2010年1月、兵庫県明石市のあさぎり病院でブレードサーバと仮想化技術を組み合わせた仮想サーバ環境を整備。さらに、NTT東日本と共同で東日本大震災の被災地支援を目的にしたクラウド型電子カルテシステムを構築するなど、多数の医療システムを手掛けている。
ただし、「今後の拡販に向け、業務により深く根差したシステム提案が不可欠」(宇佐美氏)。そこで、日本HPでは営業体制も大幅に見直した。具体的には、コンサルティング提供を目的とした部門を2011年に新設。併せて、近年の買収を通じてアプリケーション開発やセキュリティ分野の人材なども獲得することで、システム構築の最上流から一貫して医療機関のIT化を支援できる体制を整えている。
日本HPのエンタープライズサービス事業統括 チーフテクノロジーオフィサーを務める田中宗英氏は「当社の強みは、ハードウェアを全て自前で提供でき、医療分野におけるコンサルティングまで包括的にサポートできる点にある。また、現在はグローバルでの実績に裏打ちされたオープンな国内向けシステム開発も推進している」と打ち明ける。短期的にはスレートPCの活用や大型ディスプレーを使った院内ダッシュボード、各社の医療ソリューションの提供を、長期的にはHIE構築を柱に位置付けているという。
システム刷新によりオープンなデータ連携が実現すればシステム、さらに業務の“見える化”が促され、業務の無駄の排除も進む。さらに、システムの構成要素をインフラと業務コンポーネントに容易に分類できるようになり、効率的なシステム整備も支援できる。
とはいえ、日本の医療機関にはCIO(最高情報責任者)が不在であるのが実情だ。そのため、「費用対効果の観点から提案内容を正しく認識してもらいにくい」と宇佐美氏は語る。日本HPはCIOの育成を目指した「CIO研究会」に理事として参画することで、医療機関でのシステムの高度化を支援。また、地域医療再生を目的とした地域医療情報連携福祉協議会や各種学会などにも参加し、そこで得られた医師の声を提案手法やシステムの見直しに積極的にフィードバックしているという。
情報活用の切り口からも地域医療連携を推進
日本HPが目指す地域医療連携は、病院や診療所、介護施設に加え、血圧計が設置された街中のコンビニエンスストアなど、従来よりも広範な情報連携を指向している。その背景には、国の助成金によりインフラは整備したものの、運用コストの捻出に頭を悩ませる地域医療ネットワークも少なくないという現実がある。
この問題への日本HPの解が「異業種との広範な連携」だ。地域医療ネットワークに接続する組織や企業が増えれば、利用料で容易に運用コストを賄える。また、参加機関の負担すべきコストが軽減されることで、より参入が促されるという効果も期待できる。従来は個人情報保護法によって医療データベースの統合も現実的に難しく、そのことが個人医療情報の活用を阻んでいた。しかし、国民の年金や納税実績、医療などの情報を政府が一元的に管理する、いわゆる「マイナンバー法」(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(案)」)が成立すれば、共通番号制度によるPHR(Personal Health Record)やPMR(Personal Management Record)などの統合管理が法制と技術の両面で可能になる他、地域医療連携ネットワークを活用するための基盤も整備される。このことを多くの企業にとっての商機と捉え、日本HPでは個人医療情報の適切な利用を切り口に、地域医療ネットワークの利用を広く呼び掛けている。
「マイナンバーを機にヘルスケアプロバイダーや異業種の企業の参入が予想される。例えば、入院時の請求明細の事前提供や保険金の請求手続き代行などの新サービスが登場するだろう。さらに地域医療連携ネットワークの利用が進めば、高齢者の見守りや介護に役立てられるなど医療費の抑制も見込むことができる。諸外国でも同様の取り組みは既に進められている」と強調する。
また同社は新技術の開発も進めている。その1つとして期待を寄せるのが、2011年に買収した英Autonomyのテキスト推論エンジンや画像解析技術だ。同技術を活用すれば、非構造化データの解析や膨大なデータの高速処理によって、病気の原因の可能性を提示したり、画像診断を支援する仕組みの実現が可能だという。「医療を中心に活用を見込める最新技術を保有している。ビッグデータの活用を通じ、分析精度の向上支援にも注力する」(田中氏)
著者紹介
岡崎勝己(オカザキ カツミ)
広島県生まれ。成蹊大学経済学部経営学科卒業。通信業界向け専門誌、IT情報誌の編集者を経て独立。利用者の立場から見た“技術”の価値と限界をテーマに、ジャーナリストとして活動を展開。得意とするテーマはITと業務改革/イノベーション、ビジネスモデル/人材論など。最近では電子書籍の主要企業の動向を追う記事も連載。著書に『図解ICタグビジネスのすべて(日本能率協会マネジメントセンター)』など。
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