ガートナーイベントリポート(前編)
シンクライアント技術を地域医療連携にも応用――鳥取大学病院のIT化事例
ガートナージャパンが2012年4月に開催したイベントで、医療ITを推進するキーパーソンである近藤博史氏がシンクライアント技術を活用した病院情報システム、地域医療連携ネットワークの構築事例を紹介した。
ガートナージャパンが4月26、27日に開催した「ITインフラストラクチャ&データセンター サミット 2012」。鳥取大学 医学部附属病院 医療情報部長 総合メディア基盤センター 米子サブセンター長 近藤博史氏が4月27日のゲスト基調講演に登壇した。「未来を創る!! 医療IT化の道のりと将来」と題したこの講演では、同氏がこれまで取り組んできたIT化事例や医療ITの将来像などが語られた。今回から2回にわたり、その主な内容を紹介する。本稿では、シンクライアント技術を導入した鳥取大学病院のHIS(病院情報システム)、鳥取県の地域医療連携ネットワーク「おしどりネット」などの事例を取り上げる。
さまざまな医療IT化を推進
放射線科医でもある近藤氏は、大阪大学病院で日本初のRIS(放射線科情報システム)/PACS(医用画像管理システム)の開発・導入を担当。また、徳島大学病院では衛星利用大学病院間ハイビジョン講義システムの導入や経済産業省の「四国4県電子カルテネットワーク連携プロジェクト」事業などに参画した。2001年から在籍中の鳥取大学では、国立大学病院として初となる電子カルテシステムの全面稼働(2003年)を実現し、2004年から大学全体のCIO補佐として米子、鳥取両キャンパスのネットワーク基盤の整備や情報系システムなどを統括。その後、衛星利用在宅医療・災害時医療支援システムの開発(2007年)、電子カルテ基盤へのシンクライアント技術の全面導入(2008年)、地域医療連携システム(2009年)の構築などを進めてきた。現在、2012年度の地域医療再生基金を活用し、患者の名寄せサーバを中心とするネットワークシステムの構築に取り組んでいる。
シンクライアント技術の導入メリット、デメリット
鳥取大学病院は2008年、従来のクライアント/サーバ型HISからシステムを更新した。特にクライアント端末数やその保守費用などのコストの増加、情報漏えいのリスクの拡大などを考慮して、SBC(Server Based Computing)を利用したシンクライアント化に取り組んだ。SBCはサーバとクライアントの間に中間サーバを配置し、中間サーバでアプリケーションを実行して、その結果の画面情報をクライアントに転送する。SBCソフトウェアの導入に当たっては、2つの製品を評価。画像転送の処理やICカード対応、ネットワークプリンタ対応などを考慮して「GO-Global」を採用した。2012年4月現在、鳥取大学病院のHISでは約1100台の端末、30種類以上のアプリケーションが稼働している。
稼働当初、1日に100回サーバがダウンしたことも
近藤氏は、シンクライアント導入のメリットや運用上の課題などを以下のように説明する。
まず、導入メリットとして
- セキュリティ向上
- SBCサーバによるアプリの一元管理
- 端末の管理コストの削減
- 中間サーバを含めた電力使用量の減少
などを挙げた。
鳥取大学病院ではシンクライアント導入によって、クライアント端末にデータが残らず、ウイルスに感染しても影響範囲が限定的になった。2008年に学内システムがウイルスに感染したことがあったが、HISのサーバには影響がなかったという。また、WindowsやMac OS、Linuxといった異なるシステム環境も混在でき、院外にいても個人所有の端末からアクセスが可能になるなど、利便性も向上した(関連記事:iPadを筆頭に多様化する医療システムのタブレット対応)。
さらに中間サーバによるアプリケーションの一元管理によって、端末ごとのバージョン管理が不要になった。これまではハードウェアを5年契約でリースしてきたが、3年が経過するとHDD障害が発生して端末の交換・保守業務に時間がかかっていた。現在、鳥取大学病院はリース契約から病院購入に切り替えており、低性能や中古品のPC、個人PCなどを利用している。その結果、ハードウェアの故障率が低くなり、端末の管理コストが削減でき、電力使用量の減少効果が表れるなどのメリットがあったという。
一方、運用上の課題として
- 初年度の導入費用が高い
- 利用者の移動に伴うネットワークプリンタの制御
- マルチディスプレー対応
- 端末からサーバへのファイルアップロードやダウンロード機能と証跡管理
などを挙げた。
シンクライアントの導入当初、クライアントアプリケーションのメモリリークによってサーバが頻繁にダウンしていた。「多い時には1日に100回ダウン」(近藤氏)。また、電子カルテのスローダウンで再接続が頻繁に起こり、規定ライセンス以上のアクセスがあったことでアクセスが不可になるトラブルも発生した。これら新しい課題に対しては順次対応する必要があった。しかし、中間サーバで接続内容を保持し、ICカードをかざすと別端末でも保持した情報を参照できる機能は、医師や看護師、医療クラーク、技師などが移動中にシステムを使用する環境では有用であった。
また近藤氏は「中間サーバにログが残っているため、クライアントアプリケーションのバグの判明や解決に役立った」と実際に導入して分かった点を説明した。マスターファイルやアプリが頻繁にリプレースされるHISでは、その更新に伴いシステムの再起動の頻度が高い。そのため、毎朝一斉に起動することで時間がかかることもある。鳥取大学病院では「中間サーバを夜間に半分ずつ起動させたり、部分的なシステムの更新が可能になった」という。
名寄せサーバとSBCサーバを利用する「おしどりネット」
シンクライアント技術を活用した取り組みは、地域医療連携でも行われている。鳥取県の地域医療連携ネットワーク「おしどりネット」では、鳥取大学病院と西伯病院間をSBC仮想サーバ経由して相互に電子カルテの情報を共有する基盤を構築している。
おしどりネットに参加する医療機関同士のシステム連携では、リアルタイムで全ての情報を共有できる。しかし、現在は「両病院のシステムごとに院外の利用者認証や同意を得た患者のひも付け登録などが必要」(近藤氏)。そのため、2011年度に「おしどりネット2」を開発し、地域連携ポータルに接続するユーザー認証サーバや患者名寄せデータベース(DB)などを設置。これにより、各病院のID番号を一括で登録管理することで利便性を向上させ、参加医療機関を地域連携ポータルを経由して、共通の患者ID番号などを基に情報にアクセスできる。今後は6病院がシステムを連携し、4病院の電子カルテをシンクライアント技術で情報を共有しようとしている(電子カルテ未導入の2病院は情報の閲覧のみ)。
鳥取大学病院と県内の公立病院は鳥取県の光ファイバー網「鳥取県情報ハイウェイ」を活用し、私立の1病院がインターネットVPN回線を利用して接続している。この方法を利用することで県内の診療所、県外の医療機関との連携も実現可能だという。さらに近藤氏は、患者名寄せDBとSBCサーバを利用した地域医療連携について、今後はよりニーズが高まる在宅医療や救急医療などを含めて情報連携の強化を進めるという。
次回は、在宅医療や災害医療分野でのIT化への取り組み、医療ITの現状の課題、将来像などを紹介する。
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