満足度87%と28%を分ける「尊重」 情シスが人材を手放さない条件才能を組織の武器に変える評価と支援の形

発達障害を含む「脳の多様性」を持つ人材は、サイバーセキュリティ領域で卓越した能力を発揮する。しかし、評価や環境の不備で満足度が急落するリスクも高い。貴重な才能を死蔵させないための具体的な組織戦略を明かす。

2026年08月05日 05時00分 公開
[Cath EverettComputer Weekly]

 どの分野の従業員にとっても、自分が尊重されていると感じることと仕事への満足度との間には強い相関関係がある。

 公認臨床心理士で職場ニーズの評価者でもあるトレイシー・キング氏は、これが「神経系の問題」だからだと説明する。同氏自身も自閉症と注意欠如・多動症(ADHD)を抱えている。従業員が自分の価値を認められていると感じれば、目的意識が芽生え、自分が重要な存在で、組織の一員であるという実感が得られるという。

 これが安心感を生み、社会的なつながりを可能にし、提供された評価を素直に受け入れられるようになる。その結果、好循環が生まれるのだ。

 「だからこそ、目に見える形での評価が重要だ」とキング氏は指摘する。「これはパフォーマンスとしての称賛や、一時的に気分を良くさせるためのものではない。単なる形式的な管理業務でもないのだ」。

 そうではなく、従業員の神経系が十分に落ち着き、心から満足感を得られるような職場環境を作ることが目的である。

 ニューロダイバージェント(神経多様性のある人)の労働者にとって、この必要性は顕著だ。サイバーセキュリティの専門家を認定する国際的な非営利団体であるISC2の調査によれば、尊重されていると感じているニューロダイバージェントなサイバーセキュリティ専門家の仕事への満足度は87%に達した。しかし、そうでない場合は28%まで急落している。

 また、定型発達(ニューロティピカル)の人々の満足度は、尊重されていると感じる場合で85%、そうでない場合は39%だった。尊重されない場合の満足度の差は、ニューロダイバージェントな同僚よりも11ポイントも小さい。

目に見える評価の重要性

 「ニューロダイバージェントな従業員にとって、目に見える形での評価は特に重要だ。なぜなら、彼らの多くは何年もの間、自分の特性を隠したり(マスキング)、過剰に埋め合わせをしたり、誤解されたりして過ごしてきたからだ」とキング氏は言う。「努力が不可視のままだったり、問題が起きたときにだけ特性を指摘されたりすれば、職場は支援の場ではなく安全を脅かす場所に感じられ始める」

 サイバーセキュリティの業務では、警戒心、深い集中力、パターン認識、問題解決能力が求められる。これらはニューロダイバージェントな専門家が頻繁に卓越した能力を発揮する領域だ。

 しかし、キング氏はこう警告する。「環境が高圧的、あいまい、社会的に複雑、あるいは常に場当たり的な対応を求められるような場所であれば、それらの強みを維持するコストは非常に高くつく可能性がある」

 自身も自閉症である職業心理士のマリア・パヴィアー氏もこれに同意する。ニューロダイバージェントであるかどうかにかかわらず、安全だと感じるにはコミュニティーの一員であると感じる必要がある。自分の貢献が評価されることはそのための重要な要素だという。

 評価は「ドーパミンを放出し、脳に快感を与え、やがては内発的なものになる」とパヴィアー氏は説明する。

 ただし、評価の性質はニューロダイバージェントと定型発達の人で少し異なる。定型発達の人は、社会的な相互作用を通じてつながりを築き、グループの一員であると感じる傾向がある。社会的、あるいは仕事上の貢献が認められないと、傷ついたり憤慨したりし、自尊心に影響が及ぶ可能性がある。

 一方で、ニューロダイバージェントの人は特定の関心事を追求したいという強い欲求を持つことが多い。それが仕事であれば、関心事はアイデンティティーの核心部分になる。彼らにとって、自分の専門知識や知識を生かすことがグループの一員であると感じる手段なのだ。もしこの貢献が過小評価されれば、「疎外感を感じる」ことになり、心理的安全性が損なわれるとパヴィアー氏は指摘する。

評価されないことがメンタルヘルスに与える影響

 他にも問題はある。ISC2のレポートによれば、ニューロダイバージェントな労働者の仕事の満足度を特に損なう職場条件がいくつかある。筆頭に挙げられたのは、新たな脅威やテクノロジーの最新情報を把握し続けることに消耗していると感じることだ(ニューロダイバージェント:53%、定型発達の同僚:46%)。

 次に、スタッフやスキルの不足による過重労働(31%対27%)や、キャリアアップの機会の欠如(31%対26%)が続く。自分の役割や専門外のセキュリティ責任を負わされること(23%対18%)も問題となっている。

 ここで重要なのは、ニューロダイバージェントな人々の神経系が、不確実性、感覚入力、社会的処理、実行機能、変化といった要求で特に敏感であることだ。彼らは情報をより強烈に感知するため、それらをフィルタリングし、整理し、回復するために多くのエネルギーを必要とする。その結果、頻繁なコンテキストの切り替え、あまりに多くの緊急の要求や中断、過度なあいまいさ、そして不十分な回復時間といった問題に苦しむことが多い。

 「適切な条件下であれば、その敏感さは深い集中、パターン認識、創造性、正確さを支える武器になる」とキング氏は説明する。「しかし、不適切な条件(不明確な期待、暗黙の社会的ルール、不適切なフィードバック、有意義な調整の欠如など)下では、それは疲弊を招き、バーンアウト(燃え尽き症候群)のリスクを高める」。

 ポイントは、評価されていないと感じることによるニューロダイバージェントな従業員のメンタルヘルスへの影響は、サイバーセキュリティという職業特有の絶え間ないプレッシャーや日常のストレスと組み合わさることで深刻なものになり得るということだ。症状には不安、気分の落ち込み、自信の喪失、引きこもりなどが含まれる。

 さらに悪いことに、この状況が「教育、家族、あるいは以前の職場で誤解された過去の経験を呼び起こす可能性がある」とキング氏は指摘する。つまり、評価の欠如は「単なる無風状態」ではない。実際には「自分がどこにも属していないという感覚を呼び覚ましてしまう」のだ。

キャリアの寿命に対する懸念

 当然の結果として、ニューロダイバージェントの回答者の32%(定型発達の27%)は、自分のサイバーセキュリティのキャリアがいつまで続くか不透明だと感じている。ただ、疲弊やメンタルヘルスの課題だけが要因ではない。

 サイバーセキュリティサービス企業Bridewellでサイバー脅威エクスポージャー管理の責任者を務めるウィル・リード氏は、同社のニューロダイバーシティネットワークの議長も務めている。同氏は失読症(ディスレクシア)とADHDを抱えており、キャリアの初期には年に5、6回も燃え尽き状態に陥っていた。診断を受け、適切なサポートを受け、さまざまな対処メカニズムを学んだことでこの衰弱のサイクルは止まったという。

 リード氏は、一般的なサイバーセキュリティチームの従業員の30%から40%がニューロダイバージェントだと推定している。この職業は、強い正義感や善悪を見極める能力を持つ人々にアピールするからだと同氏は考えている。ただ、多くの人が「インポスター症候群(自分の能力を過小評価すること)」のせいでキャリアの寿命を心配している。

 「ニューロダイバージェントのコミュニティーでは、インポスター症候群のレベルが高い。なぜなら、『もっと努力すれば改善できる』と一生いわれ続けてきた場合、自分の価値を定量化する能力に影響が出るからだ」とリード氏は説明する。「自分は十分ではないと感じながら育った場合、その感覚は成人期にも引き継がれる」

 サイバーセキュリティサービス企業Cyberhashのニューロダイバージェントな仮想CISO(最高情報セキュリティ責任者)アソシエイトもこれに同意する。この人物は、差別や偏見を懸念して匿名を希望している。

 「それはマスキング(自分を偽ること)に集約される。別の顔を装っていると、それが剥ぎ取られることを常に恐れるようになるからだ」と同氏は言う。「特に、大半の企業で長期的に報われるスキルは『管理能力』だけと見なされているが、それはニューロダイバージェントな人々が得意とするものではない」

 そのため同氏は「ディスティングイッシュドエンジニア(卓越したエンジニア)」のようなキャリアパスを支持している。これは地位や報酬の面で管理職と並行する道だが、現在の企業ではまだまれな存在だ。

ニューロダイバージェントなチームをより良く支援する方法

 サイバーセキュリティのリーダーがメンバーをより良く支援し、より包括的な職場を作るためにできることについて、このCISOはいくつかの点を挙げている。

 最も重要な要素は、話を聴き、理解してくれる支援的な直属の管理職の存在だと同氏は指摘する。「異質な存在として扱われたり、特性を暴露されたりすることは、仕事のストレス管理に大きな影響を与える」からだ。

 「ニューロダイバージェントであることは、高速道路を自転車で走るようなものだ」と同氏は説明する。「管理職のサポートがあることは、目的地まで警察の護衛が付いているような安心感がある」

 ここでの必要な活動には、個人のストレスレベルを明示的にモニタリングし、状況が悪化しそうであれば声をかけることが挙げられる。

 「自然に解決することを期待してはいけない。また、ストレスへの対処法は人それぞれなので、個々人に合わせた対応が必要だ」と同氏は示す。「例えば、私は過重労働と同じくらい、仕事が少なすぎることでもストレスを感じる。相反することを考慮に入れる必要がある」

 他にも、管理スタイルを旧来の指示型から変えることも検討すべきである。ただし、「判断を下し、異なる人々に合わせて調整する」必要がある。

 「目標を達成するために特定の『足場(スキャフォールディング)』を強制的に用意すると、相手は自分の好まないルートを強要され、返って困難になる可能性がある」とCISOは説明する。「明確なゴールを提示し、それをどのように達成するかについて柔軟性を持たせることがニューロダイバージェントな人々には効果的だ。一方で、定型発達の人々にはより詳細な指示や足場が役立つこともある」。

適切な会議の運営

 会議で全員が貢献できる場を作ることも同様に重要だ。

 「運営の悪い会議では、同じ人ばかりが話し、残りの人は諦めてしまう。その多くはニューロダイバージェントな人々だ」と同氏は言う。「だからこそ、全員に発言の機会を与え、単に『声の大きい人』だけでなく全員の声に耳を傾けることが重要だ」。

 また、他人の非標準的な行動を許容する姿勢も求められる。

 Bridewellのリード氏はこう説明する。「私は考え事をするときに歩き回る癖がある。集中するのに役立つが、会議中に『なぜそんなことをするのか』と聞かれることがある。幸い、当社のCEOは私が部屋の後ろでぶらぶらしてもいいかと尋ねると快く応じてくれる。これが大きな違いを生む」。

 また、会議の前に資料を提供することも重要だ。同氏は失読症のため、その場で資料を読み込んで理解することが難しいからだ。

 「ビジネス上のニーズとのバランスも尊重しなければならないものの、これらはニューロダイバージェントな人々がより受け入れられていると感じられる小さくとも意味のある変化だ」とリード氏は説明する。「違いを説明するのは難しいこともあるが、私は、盲目の人に色を説明しようとするようのだと例えている。それほど現実が異なるのだ」。

柔軟性が重要な理由

 CISOが、異なる考え方が必要だと指摘するもう1つの領域は年次の人事評価だ。同氏はこれを「職場のニューロダイバージェントな人々を抑圧する最大のツールの1つ」と表現している。

 問題は、評価が良い意図で設定されていたとしても、この分野の訓練やスキルをほとんど持たない管理職によって行われる傾向があることだ。その結果、評価の多くは直感に基づいたものになってしまう。客観的なデータに基づかない主観的なアプローチはニューロダイバージェントな人々にとって納得感がない。

 「人間はあまりにも複雑で、一枚の紙に還元できるものではない。一年に一、二回判断を下すのではなく、日々の、あるいは週単位のパフォーマンスを理解しなければならない」とCISOは指摘する。

 その結果、同氏はキャリア開発や、より多くの責任を担うためのサポート方法について毎週会話を持つことを推奨している。

 また、ISC2の調査結果にも反映されている通り、同氏は柔軟な働き方を強く支持している。このアプローチは、ニューロダイバージェントな従業員のエンゲージメントを最も高めやすいものとして報告されている(ニューロダイバージェント:43%、定型発達:38%)。

 「管理職はオフィス回帰の方針に慎重になるべきだ。ニューロダイバージェントな人々にとって、リモートワークが可能で、マスキングをしたり社会的な期待に応えたりする必要がないことは非常にポジティブなことだからだ」とCISOは言う。「そうでなければ、プレッシャーの下でパフォーマンスが低下し、優秀なスタッフを失うことになるだろう」

 リード氏もこれに同意する。この柔軟性への欲求こそが、多くのニューロダイバージェントな人々が自らビジネスを立ち上げる理由だと同氏は考えている。

 「社会の変化にかかわらず、リモートワークの慣行を維持することは理にかなっている。それにより、人々は自分の強みと弱みを補完するルーティンを構築できるからだ。最終的には、人々を信頼し、自分自身で最善の決断を下せるように権限を与えることが重要なのだ」と同氏は結んだ。

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