満足度8割でもROIに壁
継続利用は4割どまり M365 Copilotが「効く業務」と期待外れの境界
Microsoft 365 Copilotのユーザー調査からは、ツールへの満足度の高さがうかがえる。しかし費用対効果の面ではどうか。同ツールを使って「効果が出やすい業務」や「評価が下がりやすい場面」を整理する。
英国のビジネス・通商省(Department for Business and Trade)が2025年8月に公開した調査結果では、「Microsoft 365 Copilot」(以下、Copilot)に満足または非常に満足と答えた人は72%に上った。
2025年6月、英国政府のGDS(Government Digital Service)が12組織、2万人の職員を対象に実施した3カ月間の実証実験では、ユーザーはCopilotを使ったことで1日平均26分を節約したという結果が出ている。満足度は10点満点中7.7、推奨度は8.2に上り、82%のユーザーが「Copilot導入前の働き方に戻りたくない」と回答した。
一方、企業全体として投資に見合う効果を得られているかどうかは別の問題だ。GDSのレポートでは、「Copilotの満足度は高い一方で、費用対効果の評価はまだ別途進行中」であること。「時間削減の効果は見られるが量としては小さい」という指摘がなされた。
ユーザーが「満足した」と感じても、短縮した時間をどの業務に振り向けたのか、品質や売り上げにどう影響したのかを測定しなければ、ライセンス費用に見合うかどうかは判断できない。そこで本稿では、公的機関や研究機関が実施した実証調査の結果を基に、Copilotが高く評価されやすい業務と、期待外れになりやすい業務の境界を整理する。
Copilotが高く評価されやすい業務は?
調査からは、ユーザーの評価が高くなりやすいのは、明確な入力情報があり、短時間で成果を確認できる業務であることが分かった。具体的には、「Microsoft Teams」会議の要約や決定事項、未完了タスクの抽出、長いメールスレッドの要約と返信案の作成、「Microsoft Word」文書のたたき台や書き換え、社内文書や過去のやりとりの検索、既存資料を基にしたプレゼンテーションの草案作成などが挙げられる。
2025年8月に公開された論文「Early Impacts of M365 Copilot」によると、Copilotを利用したユーザーはメールを読む時間を週約30分短くでき、文書作成を12%速く完了できたという。6カ月間の実験期間を通じて、約4割の従業員が継続的にCopilotを利用し続けた。同論文は、6000人超を対象にした実証研究に基づく。
一方、2025年3月に公開された論文「A Qualitative Study of User Perception of M365 AI Copilot」によると、調査対象のCopilotユーザー27人からは、会議要約やメール作成支援、情報検索には価値が認められたものの、深い文脈理解や推論を必要とする用途では期待に届かないという声が挙がった。
評価が下がりやすい3つの場面
Copilotへの評価が下がりやすい場面には、共通する特徴がある。
場面1.複雑な分析や専門的判断を任せる場面
Copilotは、「正解が1つに定まらない判断」や、「複数の条件を組み合わせる分析」といった場面では、ユーザーの意図を十分にくみ取れないことがある。英国政府の実証実験でも、複雑で微妙な判断を伴う業務や、データ量の多い業務では限界があることが確認されている。
場面2.元データや権限設定が整理されていない場面
Copilotは、ユーザーがアクセスできるMicrosoft 365内の情報を参照する仕組みだ。古い文書や重複ファイル、不適切に共有された資料が残っていれば、回答の精度や安全性に影響する。特に注意したいのは、Copilotがアクセスすることを想定していなかった情報を容易に検索できてしまう場合だ。Microsoftが2026年5月に公開したMicrosoft 365 Copilotのガイダンスでも、「SharePoint」や「OneDrive」に格納されているファイルが過剰に共有されていないか確認し、データとアクセス権を整理するよう推奨している。
場面3.何に使うかをユーザー任せにする場面
Copilotのライセンスをただ配布するだけでは、ユーザーは「何を質問すればよいか」「何を検証すべきか」具体的な使い方が分からない。最初の数回で期待した回答が得られなければ、そのまま利用をやめてしまう可能性がある。
導入前に情シスが実施すべきこと
Copilotが高く評価されやすい業務、評価されにくい業務を踏まえると、Copilotを導入するに当たっては以下4点を確認、実施しておきたい。
1.対象業務とユーザーを絞る
全従業員にライセンスを一斉に配布するのではなく、会議、メール、資料作成が多い職種から始める。該当する職種は、営業、企画、人事、管理職、プロジェクトマネジャーなどだ。
2.データとアクセス権を棚卸しする
SharePoint、Teams、共有フォルダについて、所有者不明のサイト、全社公開資料、古いファイル、機密情報が残っていないか確認する。Microsoftの導入ガイドでも、展開前にデータ準備状況を評価する手順が示されている。
3.効果測定の基準をあらかじめ決めておく
「利用率」だけでなく、会議後の議事録作成時間、メール処理時間、資料作成時間、回答の修正率などを導入前後で比較できるようにしておく。
4.出力の確認責任を明示する
Copilotの回答は完成品ではなく、ユーザーが確認する草案だということを全社に周知する。数値、固有名詞、契約、法務、人事評価、顧客への回答などは、必ず原文や一次情報と照合する運用を前提にする。
導入後は「ユーザー数」ではなく「業務への定着」を測る
導入後の評価指標も再検討したい。管理画面に表示されるアクティブユーザー数だけでは、業務効果は判断できない。Copilotを開いただけのユーザーと、日常業務の手順を変えたユーザーを区別して捉える必要がある。
確認したい指標としては、週次または月次の継続利用率、アプリケーション別・職種別の利用状況、時間短縮が確認できた業務、ユーザーが修正した出力の割合、Copilotを使わないユーザーがそのように行動する理由、ライセンス1件当たりの業務短縮時間、削減時間を金額換算した効果などがある。
Microsoftの「Microsoft Copilotダッシュボード」を使えば、Copilotの利用状況、導入状況、準備状況、効果に関する指標を確認できる。さらに、利用頻度の低い従業員からライセンスを回収し、効果が出やすい部門に再配分する運用も検討したい。
Copilotを定着させる運用方法
Copilotの導入をゴールにせず、定着させるための運用も情シスの役割だ。
まず、職種別の利用例を用意する。「Copilotを使ってください」という抽象的な呼びかけではなく、「会議終了後に決定事項と担当者を抽出する」「受信メールから本日中に返信すべきものを整理する」など、業務単位で具体的に示す。
次に、成功例だけでなく失敗例も共有する。どのような質問で誤った回答が出たのか、どう確認したのかをユーザー同士で共有できる場を用意する。
そして、ライセンスの継続判断を定期的に実施する。導入後3カ月、6カ月などの時点で、職種別の利用率、削減時間、満足度を比較し、効果が出ていない場合には、教育不足なのか、対象業務との相性なのか、データの問題なのかを切り分けて検討する。
Copilotの評価は「便利か、役に立たないか」の二択では語れない。どの業務で価値を発揮し、どの業務で限界があるのかを見極め、対象業務とデータ環境を整えたうえで運用を続けられるかどうかが、投資対効果を分ける分岐点になる。
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