なぜMicrosoft製品か Copilotで問い合わせ6割減の企業事例カコムスが示す全社AI活用ロードマップ

IT企業カコムスはMicrosoft 365 CopilotやCopilot Studioなどを活用し、社内問い合わせを約6割削減するなど、業務効率化と組織への定着を実現した。Microsoft製品を選んだ理由は。

2026年06月27日 08時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 AI活用を検討する企業は増えているが、実際に全社展開し、業務成果につなげることは容易ではない。課題はAI技術そのものよりも、従業員が日常的に使い、現場が主体的に業務へ組み込める組織体制をどう作るかにある。

 IT企業のカコムスは、この課題に対してトップ主導でAI推進体制を整え、個人利用から全社活用、現場主導のエージェント開発、意思決定支援へと段階的にAI活用を広げてきた。同社が基盤として選んだのが、「Microsoft 365 Copilot」(M365 Copilot)、「Copilot Studio」「Microsoft SharePoint」「Microsoft Fabric」(SaaS型データ分析ツール)といったMicrosoft製品群だ。

 なぜ同社はMicrosoft製品を選び、どのような手順でAI活用を定着させ、どのような成果を得たのか。

なぜMicrosoft製品を選んだのか

 カコムスがCopilot StudioをはじめとするMicrosoft製品を選んだ理由は、既存環境を大きく変えずにAI活用を広げられる汎用(はんよう)性と、将来の変化に対応しやすい拡張性にある。

 同社は、システムコンサルテーションや受託開発を中心に事業を展開し、近年はAI導入支援やMicrosoft Azureを活用した次世代AI基盤の整備にも取り組んでいる。Microsoft 365やAzure、Power Platformに関する知見を持つ同社にとって、Microsoft製品群を基盤にAI活用を進めることは、自社内での実践と顧客支援の両面で意味があった。

 特に重視したのが、既存システムを大きく改修せずにAIとデータをつなげられる点だ。社内規程やマニュアル、経歴書などの既存ドキュメントをMicrosoft SharePointに集約し、それらをCopilot Studioでエージェント化することで、チャットを介して必要な情報を取り出せるようにした。

 Copilot StudioはノーコードでAIエージェントを開発できるため、特別な開発スキルを持たない現場担当者でも業務課題に応じたエージェントを構築しやすい。既存ドキュメントをAI活用のデータソースにできるため、導入の初期負荷を抑えやすい点も利点だった。

 加えて、Microsoft Fabricの活用によって、既存の自社開発システムや人事システム、社内Webアプリケーションに手を加えず、裏側のデータを同期して分析基盤を整えることができる。データ構造が多少変わった場合でも、Copilot Studio側のプロンプトを調整すれば分析を継続できるため、アプリケーション改修に大きく依存しない。

 将来性の面でも、Copilot StudioはAIモデルを柔軟に選択、更新できる点が強みになる。AIモデルは日々進化しており、回答品質や分析結果に直結する。新しいモデルが登場した際に、既存のエージェントを大きく作り直さずに切り替えられることは、継続的にAI活用の価値を高める上で重要である。

 経営戦略統括本部 研究開発室 室長の朝山悟氏は、Copilot Studioについて「新しいモデルが出たタイミングで、自分たちでモデルを自由に切り替えられるのが非常に魅力です。開発当初に使っていたモデルでも十分実用的でしたが、モデルが進化するにつれて、回答内容の質が確実に良くなってきていると感じています」と話す。

導入ステップ

 カコムスのAI活用は、グループ代表による「AIを全社で推進する」という方針から始まった。ただし、最初から特定業務の大規模な変革を狙ったわけではない。同社が重視したのは、従業員一人一人がAIに慣れるところから始め、段階的に業務へ組み込むことだった。

 最初の段階であるSTEP 0では、日常業務でCopilot Chatを使う取り組みを進めた。従業員が日々の業務の中でAIに触れる機会を増やし、「まず使ってみる」という体験を積み重ねることで、AIに対する心理的ハードルを下げる狙いがあった。

 営業本部 ソリューション営業部 部長の中元順一氏は、「全社で利用を進めたことで、従業員それぞれのAIに対する心理的ハードルが着実に下がり、その後のステップにおける新たな取り組みにもストレスなく移行できた」と振り返る。

 次のSTEP 1で着目したのが、社内問い合わせ対応だ。従来は、業務中に不明点があると、近くの同僚や人事・総務部門に都度確認するケースが多かった。問い合わせる側も、対応する側も手間がかかり、業務効率に影響していた。

 そこで同社は、社内規程や就業ルールを参照できるAIチャットbot「KMSG−AI」を開発し、全社に展開した。社内規程やマニュアル、ルール類などの既存ドキュメントをMicrosoft SharePointに集約し、それらをデータソースとしてCopilot Studioでエージェント化した仕組みである。従業員はチャットで質問するだけで、どの規程を参照すべきか、どの手続きが必要かといった情報を確認できるようになった。

 STEP 2では、現場主導のAIエージェント活用へ進んだ。その一つが、案件に最適なエンジニアを探す「経歴書エージェント」だ。

 カコムスグループのSES(System Engineering Service)事業では、案件に対するエンジニアのアサインにおいて、担当者の記憶や経験に依存する部分があった。迅速かつ正確に候補者を見つけるには、蓄積された経歴書情報を活用しやすくする必要があった。

 同社は、Excel、Word、PDF形式の経歴書をMicrosoft SharePointに集約し、Copilot StudioでAIエージェントを構築した。例えば「Pythonができる人」といった条件をチャットで入力すると、該当する人材候補やスキルレベルを確認できる。

 この取り組みで注目すべき点は、非エンジニアである営業担当者が、社内のAIガイドラインに沿って自らAIエージェントを構築し、業務実装まで進めたことだ。業務課題を最も理解している現場担当者が、自身の発想でエージェントを作り、課題解決につなげたことで、「現場主導でCopilot Studioを活用する」文化が生まれた。

 一方で、現場主導だけでは対応できない領域も見えてきた。より高度なデータ設計やシステム連携を伴う活用には、技術的な支援が必要になる。この課題が、次の段階である高度なAI基盤の整備につながっていった。

 STEP 3としてカコムスが取り組んでいるのが、タレントマネジメントシステム「ArgoSphere」だ。同社は、従業員1人当たり約500項目に及ぶiコンピテンシディクショナリ(iCD)(注)に基づくスキルデータを登録し、可視化を進めてきた。これらのデータを社内のWebアプリケーション上で一元管理している。

※注:IT活用にひも付くビジネスで求められる業務(タスク)と、ビジネスを支えるIT人材の能力(スキル)を辞書のように整理したもの。

 ただし、データが蓄積されても、それを横断的に分析し、活用する仕組みは十分ではなかった。部署によっては人事考課の準備に数週間を要するなど、現場負担も課題になっていた。

 ArgoSphereでは、Microsoft Fabricを活用して経歴情報や組織情報を統合、分析し、Microsoft Power BIで組織横断のスキル状況を可視化する。さらにCopilotのチャットを通じて、適材適所の配置検討、育成や研修のレコメンド、将来的な要員シミュレーションまでを支援する意思決定基盤へ発展させようとしている。

成果

 カコムスのAI活用による成果は、大きく3つある。1つ目は、従業員のAI活用に対する心理的ハードルを下げ、全社展開の土台を作ったことだ。Copilot Chatの日常利用から始めたことで、AIを特別なツールとしてではなく、日々の業務を支援する手段として受け入れやすくなった。これにより、その後のKMSG−AIや経歴書エージェントといった取り組みにも移行しやすくなった。

 2つ目は、社内問い合わせ対応の効率化だ。KMSG−AIの利用は月100回を超えた。導入後は「まずAIに聞く」行動が定着し、従業員が自己解決できる場面が増えたという。その結果、人事・総務への問い合わせは導入前と比べて約6割削減され、対応工数も4割程度に圧縮できた。

 3つ目は、AI活用を現場主導の業務改善と、経営判断の支援へ広げたことだ。経歴書エージェントでは、営業担当者が自らエージェントを構築し、案件に合うエンジニア候補を探しやすくした。これは、AI活用をIT部門や専門人材だけに閉じず、業務課題を理解する現場が主体的に使う文化を生むきっかけになった。

 さらにArgoSphereでは、蓄積してきたスキルデータを組織横断で分析し、可視化できるようにしている。朝山氏は、Microsoft Power BIのレポートを通じて、同じような業務を担っている部門でも、実際には保有するスキルや伸びている分野に違いがあることを把握できるようになったと説明する。部門ごとに断片的に見ていたデータを、会社全体の強みや伸びしろとして捉えられるようになった点に価値を感じているという。

 カコムスの取り組みは、AI活用を全社に定着させるための再現性の高いロードマップとして整理できる。最初は従業員一人一人がCopilot Chatを使い、AIに慣れる。次に、社内規程やマニュアルを参照できるKMSG−AIを通じて、全社的な業務効率化につなげる。さらに、現場主導で経歴書エージェントを開発し、AIを業務課題の解決に使う文化を広げる。最後に、ArgoSphereによって、蓄積されたスキルデータを経営判断に生かす段階へ進む。

 この流れは、「個人利用→全社活用→現場主導のエージェント活用→意思決定支援」という段階的なAI活用モデルである。いきなり大規模なAI基盤を構築するのではなく、身近な業務課題を起点に、従業員が使いながら定着させる点に特徴がある。

 同社では、経営企画部門が中心となり、グループ従業員全員を対象としたアンケートも定期的に実施している。日々の業務で生じる課題や不具合、小さな違和感を収集、可視化し、次に取り組むテーマとして整理している。こうした継続的な課題把握も、AI活用を一過性の取り組みに終わらせないための重要な基盤である。

 AI活用で成果を出すには、技術の導入だけでは不十分だ。トップの明確な方針、従業員がAIに慣れるための土台、現場が自ら課題を解決できる仕組み、そしてデータを意思決定につなげる段階的な設計が欠かせない。カコムスの事例は、AIを業務に自然に浸透させ、経営価値へとつなげる実践的なモデルを示している。

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