企業での気軽なAIツールの利用が、あっという間に高額請求に化けるケースが続出している。固定費を前提とした従来のIT予算管理では、変動するAI関連支出を見落としがちだ。経費を爆発させる「隠れ要因」とは。
企業におけるAIツールの導入は、一部の部門による試験的な利用など、小規模なものから始まることが一般的だ。しかし、利用が本格化するにつれてその規模は急速に拡大し、事前の予算を大幅に超過する事態が後を絶たない。
主なAIツールは、トークン消費やAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)利用量に応じて費用が変動する。従業員による試行錯誤に加え、AIエージェントによる複雑な処理ループや、IT部門が把握していない未承認のAIツール(シャドーAI)の個別契約などが重なることで、経費は気付かないうちに雪だるま式に膨れ上がっていく。
固定費を前提とし、事後の請求書をもとに実績を追う従来のIT予算管理では、こうしたリアルタイムで激しく変動する支出を適切に統制することは不可能に近い。経費が爆発的に増加し、請求書を見てから慌てる事態を避けるため、企業はどのように状況をコントロールすべきなのか。AI導入に伴う想定外の高額請求を未然に防ぎ、コストパフォーマンスを適正に保つための5つの実践的なベストプラクティスを解説する。
AI関連予算をオーバーする高額請求を望む企業はない。こうした不必要な出費やそのリスクを防ぐベストプラクティスは以下の通りだ。
ITベンダーQuadientのCIO(最高情報責任者)を務めるニーナ・タツィー氏は、自社でのAI活用が試験段階を終えて成熟した時点で、AIの経費を、各事業部門の利用量に応じて費用を社内請求するチャージバック方式に移行した。
Quadientは、「Microsoft Copilot」や「Claude」などのAIサービスに関しては、ライセンスの保有数と利用量に基づいて事業部門にAI関連経費を割り当てている。財務部門にとって、チャージバック方式は一括のIT予算を割り当てるよりもはるかに透明性が高いものになっている。
「AI投資が生産性向上の責任を負う部門と直接結び付くことで、利用状況の追跡や経費の予測、ROI(投資対効果)の測定が容易になる」とタツィー氏は利点を語る。
各部門にフィードバックされた請求や利用のデータは、タツィー氏が予期していなかった事実も明らかにした。最大の気付きは、部門ごとにニーズに応じて異なるAIサービスを使い分けていたことだ。タツィー氏は、「これは当社の戦略の価値を裏付けるものだった」と振り返る。
月末の請求書を待って確認するのでは遅過ぎる。
ソフトウェアベンダーCertiniaの最高財務情報責任者を務めるエリン・ソーヤー氏は、AIツールの利用パターンをリアルタイムで可視化することの重要性を説く。これはAI技術のユニットエコノミクス(1タスクや1ユーザーといった単位当たりの費用対効果)を理解するだけではなく、想定外に膨れ上がるAI関連経費を請求書が届く前に抑える目的でも役立つ。「リアルタイムで厳しい利用制限を設定することが、重大な財務上のリスクを抑える制御手段になる」と同氏は語る。
利用量の上限設定は、ビジネスの目標とAIツールの利用を一致させる上でも不可欠だ。IT製品の保守サービスを手掛けるRimini StreetのCIOであるジョー・ロカンドロ氏によると、上限を設けることは、価値や生産性の向上に見合わないトークンの過剰消費を防ぐことにつながる。同氏は「従業員が上限を超える利用を希望した場合、管理職はトークンを消費する前に、その増加によって期待される価値を精査できる」と説明する。
AIエージェントは自律性と推論能力を高めて独自に行動するため、経費の予測はさらに難しい。
「支出の予測が不可能な状況に対処するには、システムの監視と集中管理において、より繊細なアプローチが求められる。監視できないものは制御できない。AI関連支出を監視するには、これまでとは異なる手法が必要だ」。コンサルティング企業Deloitte Consultingのプリンシパルであり、AIインフラ部門の責任者を務めるニコラス・メリッツィ氏はそう述べる。
全てのタスクに最高性能のAIモデルが必要なわけではない。企業にとって、社内で利用を許可する推奨AIモデルのリストを定義し、その選択基準を統一することは、AI関連支出を最適化する最も即効性のある対策だ。
ソーヤー氏は、「用途に応じたAIモデルの使い分け基準を社内で統一すれば、単純なタスクを自動的に小型で安価なAIモデルに振り分ける仕組みを実現できる」と話す。これは、個人の裁量で最新かつ最も高価なAIモデルを自由に選ばせるのとは対照的なアプローチだ。
保険・金融サービスブローカーのWorld Insurance AssociatesでCIOを務めるマイケル・コリガン氏は、同社が想定外のAI関連費用を出さずに済んでいるのは、AIツールを慎重に展開した結果だと考える。
「当社では、支出の突然の急増や計画外のトークン消費を経験していない」とコリガン氏は語る。その理由として同氏は、「導入するツールについて、事前に成功基準を定めた具体的な用途と結び付け、消費量の上限をあらかじめシステムに組み込むという慎重なアプローチを採用したためだ」と説明する。
これらのベストプラクティスを実践しても、AI関連支出がなくなるわけではない。変わるのは、IT部門がその支出を把握するタイミングだ。「私が共有したい教訓は、経費を抑えることではなく、最初から価値を測定することだ。AI活用を始めたばかりの企業やITリーダーには、AIツールにかかる費用よりも、AIツールを使わないことで生じる損失に目を向けるよう助言したい」(コリガン氏)
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