経営陣の「AI導入しろ」にどう返す? 予算を食いつぶす“隠れコスト”の正体AI予算をどう立てるか【前編】

巨大ITベンダーが、AIインフラに巨額の投資を実施している。一方で、企業がAIツールを導入する際に見落としがちなのが運用の手間や電力などの膨大なコストだ。AIに関する自社のIT予算をどう計画すべきなのか。

2026年03月26日 12時00分 公開
[Sean Michael KernerTechTarget]

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 十分な予算も具体的なビジョンもないまま、経営層から「うちもAI(人工知能)を活用しろ」という指示が降りてきて、頭を抱えるのはCIO(最高情報責任者)やIT担当者だ。世間ではAIツールの華々しい成功事例がもてはやされているが、導入・運用の裏側には、従来のシステムとは全く異なる「コストの魔物」が潜んでいる。

 Googleの親会社Alphabetは2026年2月、AIインフラの資金調達のために200億ドルの米ドル建て社債を発行した。これと並行して英ポンド建て社債も発行しており、その中にはAlphabetにとってこれまでで最長の返済期間となる10億ポンドの100年債(2126年満期)も含まれている。

 Alphabetの動きは、ハイパースケーラー(大規模クラウドベンダー)の間に広がりつつある資金調達トレンドの一例に過ぎない。これは、巨額の初期費用を長期間に分散させ、手元の資金繰りに余裕をもたせるために、返済期間の長い借り入れを活用するというものだ。このような資金調達や予算編成の手法は、AIインフラが単年度の予算に収まるソフトウェアの一項目ではなく、工場建設のように気長に回収を待つ資金を必要とする、大規模な設備であることを裏付けている。

 ハイパースケーラーによるこれほどの規模の支出は、自社のIT予算の計画において何を意味するのか。大半の企業はAlphabetのように資金を借り入れたり、Meta Platformsのように巨額の資金を投じたりはできない。それでも取締役会は、AI主導の変革をますます期待するようになっている。

IT大手のAI支出の規模

 調査会社Synergy Research Groupが2025年12月に発表したデータによると、ハイパースケーラーが世界で運営するデータセンターの施設数は2018年初頭から約3倍に膨れ上がった。同時に、四半期ごとの設備投資(CAPEX)も、2022年から2025年で約180%増加し、2025年第3四半期(7〜9月)だけでも1420億ドルに達した。この傾向は今後数年でさらに強まる見通しだ。

 「2027年までに、ハイパースケーラーがAIモデルを稼働させるためのサーバとネットワークだけで1兆ドルが投資されることになる」。調査会社Gartnerで、ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリスト兼リサーチチーフを務めるジョン・ラブロック氏はそう語る。この数字には、データセンターの建設、電力供給の要件、人員配置、データセンターを運営するための運用経費(OPEX)は含まれておらず、ITに対する資本的支出(CAPEX)だけで1兆ドルだという。

 資本の集中度は、IT企業としては以前は考えられなかった水準に達している。一部のハイパースケーラーは、収益の半分以上をCAPEXに充てているとの指摘もあるほどだ。このような比率は、従来のIT企業というよりも、製造業や公益企業の比率に近い。

 「公益企業との比較は適切だ」。コンサルティング企業Ernst & Young Americasのテクノロジー、メディア、通信担当AIリーダーを務めるバムシ・ドゥブリ氏はそう指摘する。この状況は、電力や鉄道が巨額の資本を必要とする社会インフラになり、企業が自社の機械を更新し、労働者のスキルを向上させる必要があった時代と似ている。今日、企業はハードウェア、ソフトウェア、従業員のスキルを最新化しなければならない。

 そもそも、AIインフラ自体が従来のIT支出とは異なる。GPU(グラフィックス処理装置)をつなぎ合わせた「GPUクラスタ」は、従来のコンピューティング機器よりも桁違いの費用がかかる。電力と冷却にかかる費用がハードウェアの費用を上回る可能性があり、技術の更新サイクルも従来のインフラと比べてはるかに短い。

 「企業は今後数年間のインフラとAIモデルを確保するために、限られた資源を奪い合う陣取り合戦に加わっている」と、IT調査会社Info-Tech Research Groupのアドバイザリーフェローを務めるスコット・ビクリー氏は解説する。

Alphabetの社債発行がITリーダーにとって重要な理由

  Alphabetの100年債は、AIインフラが四半期ごとではなく数十年にわたって価値を生み出すことへの期待を反映している。これは、企業が自社のAI投資の期間についてどう考えるべきかを捉え直すきっかけになる。

貸借対照表の自由度

 資金が潤沢な企業でさえ、準備金を取り崩すよりも借り入れを選択している。ITサービス企業EnsonoのCIOを務めるサビオ・ロボ氏は、AlphabetがAIを「自社のシステムの土台になる存在」だと確信していると指摘する。だからこそ、巨額の初期費用で手元の資金を圧迫しないよう、AIインフラを「長期間かけて投資回収していく資産」と見なしているという。

投資家の信認のギャップ

 投資家はハイパースケーラーのAIインフラ構築に向けた100年債への資金提供には前向きなようだ。一方で企業のCIOは、四半期ごとにAI支出の投資対効果(ROI)を証明しなければならない。それでも取締役会は、自社にハイパースケーラーと同等の変革を期待している。このギャップがプレッシャーを生み、数々のITリーダーがその対処に苦慮している。

IT予算に広がるギャップ

 ハイパースケーラーの支出、取締役会の期待、IT予算の現実の間の乖離(かいり)は広がっている。

 コンサルティング企業Deloitte Touche Tohmatsuのマネージングディレクターを務めるジム・ローワン氏は、2026年1月に発表された同社の調査結果に触れた。この調査は2025年8〜9月に実施され、24カ国3235人のビジネスおよびITリーダーが対象になった。その結果によると、調査対象の74%が2年以内に自律型AIを導入する計画だという。一方で、自律型AI向けのガバナンスモデルを用意していると答えたのは21%にとどまった。

 ローワン氏によると、取締役会は常に導入の取り組みから明確なROIの指標を求める。ただし大半の企業はAI導入の初期段階にあるため、特に予算の使い道がAIツールの導入だけに集中している場合、目に見える利益を上げるのは簡単ではないとローワン氏は指摘する。

AI費用が隠れている場所

 ドゥブリ氏はCIOに対して、AIを単なる技術ではなく、エコシステム(相互連携の仕組み)として捉えるべきだと助言する。これはAI関連費用を計算する際、単にシステムの購入費だけではなく、業務プロセスの再設計、データ管理システムの整備、セキュリティやコンプライアンスへの順応、人材育成、ベンダー管理など、あらゆる階層で発生する費用を追跡、把握することを意味する。

 このような費用は、例えば以下の形で現れる。

  • 同じような機能のAIモデルへの重複投資、会社が公認していないAIツールの利用(シャドーAI)、進展を追跡できていない無計画な実験の繰り返しなどへの過剰投資
  • 技術的な要件だけにとどまらず、設計、構築、追跡の仕組みを全社に広げるためのプロセスに対する投資不足

ハイパースケーラーの戦略が企業に通用しない理由

 「企業のCIOは、Alphabetや他のハイパースケーラーのAI獲得の手法を道しるべとして使うべきではない」とビクリー氏はくぎを刺す。企業がハイパースケーラーの手法をまねできないと気付くにつれて、イノベーションへのプレッシャーと財政的な規律の間の緊張が高まる。

 「電力インフラに例えるなら、ハイパースケーラーは『送電網』を構築している」と、調査会社Constellation Researchのバイスプレジデント兼プリンシパルアナリストを務めるチラグ・メータ氏は説明する。「だからこそユーザー企業は、一からAIモデルを開発(発電)するのではなく、提供されたAIモデルという『電力』を効率的かつ安全に活用する『工場』(ビジネスの現場)とワークフローの構築に労力を集中させるべきだ」と同氏は補足する。


 次回は、限られたAI予算をどう配分し、確実な利益を出せばよいのかを解説する。

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