徹底入門:モノのインターネット(IoT)で変わるICTの世界観【第4回】
製造業からフィットネスまで 事例に学ぶIoT活用の実際
IoTのビジネス活用は、海外の先進企業で取り組みが始まったばかり。しかし、既にさまざまな業界・領域で活用が進んでいる。今回は、その先進事例と今後の展望について取り上げる。
前回(IoTを支える技術と業界構造を整理する)は、「モノのインターネット」(Internet of Things:IoT)を支える技術や業界がどのような構造になっているかを解説した。第4回となる今回は、IoTのビジネス活用事例と今後の展望について取り上げる。
1.IoTのビジネス活用、多面的な検討が進む
本格的なIoTの活用は、海外でも先進的な企業が取り組みを始めたばかりだ。IoTを活用したビジネスを立ち上げる際、検討すべき事項は次のように多岐にわたる《※1》。
※1:Deloitte University Press 『SIGNALS for strategists The Internet of Things』
http://cdn.dupress.com/wp-content/uploads/2013/09/DUP510_TheInternetofThings.pdf?99d1b1
- 戦略策定とビジネスモデルの開発
- 情報技術の選択と組み合わせ
- データの管理と分析
- セキュリティとプライバシー
- 新組織や規定の設計
「自社のどのビジネス領域に焦点を当てるか」「IoTをどのようにビジネスに取り込み、収益を上げるか」など戦略を策定し、ビジネスモデルを構築する必要がある。戦略策定・ビジネスモデル開発と密接に関連するのが、情報技術の選択と組み合わせである。個々の技術には長所短所・得手不得手がある。例えば、IoTを活用する業務が基幹事業か成長事業なのかによって、新技術を適用する自由度が変わるだろう。利用する通信方式なども、新技術の選択に影響を与える。
また、IoTの活用により、企業はこれまでよりもはるかに大量のデータを取り扱うことになる上、リアルタイムでのデータ分析の要求も高まってくるだろう。結果として、データ保存と消去に関する方針を見直すことが必要になる。さらに、第2回(データの海に溺れない IoT時代に求められるビッグデータ活用の在り方)で述べたように、外部ネットワークとの接点が増えることに比例して、セキュリティのリスクが増大する。それに伴い、セキュリティとプライバシーの管理方針や規定を見直す必要性が高まるだろう《※1》。
2.これまでの適用例
部分的にではあるものの、既にさまざまな領域でIoTの活用が始まっている。例えば、自動車、ヘルスケアとライフサイエンス、スポーツとフィットネス、スマートビルディング、重工業と製造業、公共インフラなどの分野が挙げられる《※1》。
まずは、製造業についての事例を見てみよう。
ある製造業者において、製品の販売動向をいち早く捉え、生産計画の機動的な見直し、部品調達量の調整、売上計画の策定に利用したいというニーズがあった。しかし、製造業者は販売店に製品を卸し、販売店が消費者に製品を販売する。そのため、これまで直接販売された数量を把握するには、販売店から実際に販売した数量を週単位などでまとめて入手するしか方法がなかった。
そこで製造業者は、もともと品質管理目的で取得していた製品の初回起動時にネットワーク経由で送信される起動時刻と位置(IP)情報のデータを、販売量の代理変数として使えないかと思い付いた。これによって、購買から製品の初期起動までの若干の時間差は生じるものの、タイムリーに実際の販売量に近い数値を得ることができた。さらに、製造業者から販売店に卸した数量と比較することで、販売店での在庫量の見積もり、販売店からの売上数量の報告値の正確性の検証および卸価格の交渉などへの活用にもつながった。
次に、スポーツ/フィットネスの事例について見てみよう。
あるスポーツ用品メーカーは、ランニングを支援するアプリケーションを無料で提供している。スマートフォンに内蔵のGPSと加速度センサーを使用して距離、速度、時間を測り、記録と成果をソーシャルネットワーキングサービス(SNS)で友人と共有することができる。ユーザーは自身の健康のために、ともすれば挫折しがちなランニングを継続したいというインセンティブからこれを利用している。その結果として、メーカーは自社のスポーツ用品の売上拡大を狙っている。
この事例で特に注目すべきは、他社のインフラを活用して、コストが掛からないビジネスモデルとしている点である。スマートフォン内蔵のセンサーを使用するため、利用者は新たな機器や装置を用意する必要がない。この方法なら、企業側も、わざわざ自社専用のセンサーや端末を製造・販売しなくて済む。SNSも同様に他社のインフラである。新しい試みほど、身軽に始めるべきである。
先に述べたようにIoTの醍醐味(だいごみ)は、収益を上げるビジネスモデルを構築するに当たり、さまざまな情報技術をいかに組み合わせるかを考えることである。その環境が今、センサーの低価格化と情報通信技術の進化によって整いつつある。
3.海外における先進的なデータ分析を取り入れた適用例
市場調査や属性・購買履歴データを基にしてターゲット顧客層を設定し、店舗で実施する販売促進のキャンペーン広告を顧客に配信するといった取り組みは、これまでにも行われてきた。
さらに、スマートフォンなどの位置情報データを組み合わせることで、顧客が店舗の近隣500メートルに近づくと、スマートフォンにお買い得情報が自動配信される仕組みもある。しかし、この方法では、商品に興味がない人にも一律に配信してしまい、逆効果を生じる懸念があった。
そこで海外のある通信会社では、顧客の行動パターンを特定し、行動履歴と現在地から将来の行動を予測、不要なキャンペーン配信をしない複合的な分析手法を開発した。まず、顧客の属性や行動履歴から、顧客ごとのワークスタイルを特定した。仕事とプライベートの時間を判別することで、顧客が偶然、仕事中に店舗の前を通った際に、不要な配信を抑制することができた。
また、GPSなどによる現在と過去の位置情報から、将来の移動位置を状態空間モデルという手法を用いて推定し、店舗の近くに顧客が訪れる確率を算出。その確率があるしきい値を超えた場合に広告を配信することで、顧客の購買行動に能動的に働き掛けるといった仕組みを構築した。
先述の事例とは異なり、この事例では分析の面に重点を置いている。タイミングの誤った広告配信は効果が見込めないだけでなく、逆効果にもなりかねない。ここでは分析技術の高度化によって、大量に収集したデータから、目的に対してより効果的な知見を引き出すことに成功している。
IoTにより、大量のデータが爆発的な勢いで生成される。その生データをそのまま使うだけでなく、ビジネス上の目的を明らかにし、分析というフィルターを通して価値を抽出するといったプロセスが今後ますます重要となってくるだろう。
4.今後の展望
IoTの魅力は、戦略に沿ってビジネスモデルを構築し、最適な技術を組み合わせることで、多様な可能性が広がることである。現時点ではまだ、センサーからの生データをそのまま単一企業で使う段階であるが、それだけでも十分に企業のビジネスの変革に有用である。今後は“Analytics of Things”(モノのアナリティクス)《※2》といわれる分析の高度化により、さらに付加価値の高い結果が提供されることになるだろう。将来的には複数の業界を巻き込んだ大きな経済効果が期待される。
※2:Big Data Conference 2014 Spring(2014年4月22、23日開催)におけるデロイトアナリティクス シニアアドバイザー トム・ダベンポートの講演資料「Analytics 3.0」より引用
そのために企業は、戦略策定とビジネスモデルの開発、情報技術の選択と組み合わせ、データの管理と分析、セキュリティとプライバシー、新組織や規定の設計などを多面的に検討した上で再設計していくことが必要となる。
当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない。
神津 友武(こうづ・ともたけ)
有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー。早稲田大学大学院理工学研究科物理学及応用物理学修了。デロイトアナリティクスの研究開発部門をリードし、データ分析を活用したコンサルティング業務に従事。
数原 麻衣(すはら・まい)
有限責任監査法人トーマツ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。日系シンクタンク勤務を経て現職。現在はデロイトアナリティクスのサービス推進およびグローバル企業の監査に従事。
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