徹底入門:モノのインターネット(IoT)で変わるICTの世界観【第3回】
IoTを支える技術と業界構造を整理する
センサー技術や通信技術、情報処理システムなど、モノのインターネット(IoT)を支える技術は多岐にわたる。今回はIoTに関連する技術や業界がどのような構造になっているかを考察する。
前回(関連記事:データの海に溺れない IoT時代に求められるビッグデータ活用の在り方)までは、「モノのインターネット」(Internet of Things:IoT)の概要と価値創造の源泉となり得るアナリティクスについて考察した。今回はIoTを支える技術や業界がどのような構造になっているかを解説する。
これまでの連載
1.M2Mを支える技術と複雑なベンダー構造
M2M分野で取り組みを続けてきた通信事業者
日本における「M2M」(機器間通信)の歴史は長い。固定して設置された機器や移動するモノを対象とした分野では、RFID(無線ICタグ)などの近距離無線通信技術・規格を用いたソリューションの活用事例が多く存在した。店舗や倉庫の在庫管理、備品の出納管理など、現在でも幅広く取り組みが進められている。
また、1990年代における携帯電話網の発達によって、より広いエリアを移動するモノに対するM2Mの取り組みが積極的に行われている。自動販売機の在庫管理ソリューションやテレマティクスといった分野は、早期の活用例といえる。固定回線では、敷設工事など導入のハードルが高いが、移動体通信技術であれば、通信モジュールを機器に組み込むことでM2Mシステムを容易に構築できる。この点から、M2Mにおいては移動体通信システムを活用するようになっている。
センサーネットワークとセンサーデータへの注目
日本政府が2001年に掲げた「e-Japan戦略」や、それに続く「ユビキタスネットワーク」の取り組みとともに、センサーネットワークとそれに関連したさまざまな研究が行われてきた。
昨今、スマートグリッドやM2Mといった市場の成長に伴い、センサーデータに対する注目が高まっている。これまでにもさまざまな用途でセンサーが使われており、そこから発生するデータの活用が期待されている。
近距離通信技術の多様化と環境構築の難しさ
センサーネットワークを構築する際に、近距離無線通信技術を採用する企業は多い。その背景には、通信コストの負荷が挙げられる。例えば、膨大な数に及ぶセンサーの全てを通信事業者のインフラで接続した場合、通信費は非常に高額になるケースがある。
その一方で、近距離無線通信技術にしても、多くの規格や方式が存在し、その中から自社に最適なシステム構成を設計するのは決して容易ではない。
M2Mの基本的なアーキテクチャと複雑な業界構造
M2Mを導入するには、センサーと通信インフラだけでなく、アプリケーションやハードウェア(サーバやストレージ)といったテクノロジーも必要となる。一般的には下記のようなアーキテクチャとなる。
これら分野を取り巻く技術やベンダーは多岐にわたる。一般企業がM2Mに取り組む際には、導入すべき技術や規格の整理、ベンダーや通信事業者の取りまとめに大きな負担が掛かると予想される。
2.技術の進化がもたらすM2MからIoTへの広がり
先述の通り、M2Mに関連する技術は特に新しいものではない。では昨今、IoTとしてあらためてこの分野が注目を集める背景には何があるのだろうか。その要因として挙げられるのが、技術の高度化と導入障壁の低下だ。
通信技術の高度化とグローバル通信環境の整備
通信技術の進歩は著しい。これまで、M2Mは閉じられた環境か広域といってもせいぜい国内にとどまる状況だった。それが最近では、生産拠点の海外移転など世界規模でのビジネスが広がるに伴い、ワンストップで提供できるグローバルの通信回線サービスへのニーズが高まりつつある。
通信キャリア各社もそのニーズに応えるべく、世界規模での回線サービスの整備を進めている。グローバルキャリアとしては、英Vodafoneが「グローバルM2M」に特化したサービスを既に展開している。国内通信キャリアも各国キャリアとの提携を通じ、グローバルで回線を提供するサービスの強化に動いている。
通信規格については、既存の3G回線から次世代通信規格への移行も期待される。それにより、従来のM2M領域では想定されなかった、新たな応用方法が登場する可能性がある。
ビッグデータ活用を支える技術進化
ビッグデータ活用を支える基盤技術の進化も大きな役割を果たしている。従来、大量データをリアルタイムに処理するシステム基盤の構築は、一般企業にとってハードルが高いものだった。だが、ハードウェアやソフトウェアの技術的な進化により、そうした環境を構築しやすくなっている。
ビッグデータの処理基盤としては、米Oracleの「Oracle Exadata Database Machine」や独SAPの「SAP HANA」などが注目を集めている。
非構造化データも分析対象に
従来は基本的に構造化されたデータでないと分析や活用が困難だった。しかし、インメモリ技術や分散処理技術(Apache Hadoopなど)の登場により、音声や画像、動画といった非構造化データにメタデータを付加し、分析対象にすることが可能になってきた。
分析ツールにおいても、非構造化データを取り扱える製品・サービスが米SAS Instituteや米IBM、SAPなど、各社から提供されている。さらには、米Twitterの「ツイート」をはじめとする、ソーシャルデータを分析するマーケティング向け製品・サービスも増えてきている。
クラウドによる水平統合と導入障壁の低下
従来のM2Mでやりとりされるデータは、企業内に閉じた情報のみだった。IoTにおいては、やりとりされるデータが大きく変化し、分散・分離していたデータをクラウドで集中的に管理・処理できるようになる。それによって、活用対象となるデータの量が増大し、個人や企業、国/地域を超えた情報の共有・連携が可能となる。この点が最も重要な変化であるといえる。
M2MやIoTでは、システム投資への負担も導入の大きな障壁となり得る。クラウドであれば、従量課金制で提供されるサービスも多く、その時の状況に合わせて柔軟に利用できる。
3.IoTを支える主要ベンダーの動きと注目技術
上記のように技術の進化によって、大きな成長が見込まれるIoT市場であるが、この市場を取り巻くベンダー各社において、具体的にどのような動きが見られるのかを言及したい。
海外通信キャリアはM2Mへ注力傾向
まずは通信キャリアについて見てみよう。VodafoneのグローバルM2Mについては先述の通りだ。テレマティクスが盛んな米国では、特に市場の動きが活発化している。
その中でも注目なのは、「マルチ端末料金プラン」というサービスの開始だ。従来は機器1つにつき、それぞれ通話やデータのパッケージを買わなければいけなかった。だが、このプランによって「全ての機器のデータ合算」が可能となり、M2Mの普及に寄与している。
欧州では、フランスのOrangeやノルウェーのTelenorなど、各国の通信キャリアでM2Mサービスに注力する動きがみられる。特に、スウェーデンのTelenor Connexionは、Telenorの一部門としてスタートしたが、世界中の通信キャリアと連携し、M2Mサービスでは親会社を凌ぐほどの規模になっている。同社は、その子会社およびパートナー通信キャリアとのローミングなどにより、グローバルで通信サービスを提供している。
M2Mクラウドの展開
国内の主要SIerは、通信インフラのみならず、システム基盤からソフトウェアまで、全てをワンストップで提供しようとしている。NECと富士通、日立製作所の各社は、回線契約までを含めた、クラウドによる水平統合型サービスを展開している。
それに加え、クラウド基盤とネットワークを一体的に提供する「キャリアクラウド」を展開する通信事業者も現れている。今後は、この分野においてグローバル規模でのIoTの活用事例が出てくることに期待したい。
プラットフォーム企業やMVNOによる市場の加速
MVNO(仮想移動体通信事業者)やプラットフォーム事業者の動きにも言及したい。
グローバルでネットワークを確立するには、各国の通信キャリアとの契約が必要となる。さらに実際の運用段階では、各端末のネットワークの死活監視やSIMのアクティビベート、課金の停止など、端末からネットワークまでを含めた管理機能が必要となる。
そうしたM2M向けプラットフォームを提供する代表企業が、Jasper Wirelessである。同社は既に各国の通信キャリアと提携しており、国内のNTTドコモをはじめとして、スペインのTelefonica、オランダのKPN、ロシアのVimpelCom、カナダのRogers、オーストラリアのTelstra、シンガポールのSingTelなどが含まれる。
各通信キャリアとMVNO契約を結び、ソリューションを展開する企業も存在する。米ジョージア州に拠点を置くKORE Telematicsでは、MVNO方式によるM2M向けネットワークとマネージドサービスを提供。米国ではAT&T、カナダではRogersと大口卸契約を結んでおり、車両管理・テレマティクスの分野で大きく成長している、
国内でも、NTTコミュニケーションズや京セラコミュニケーションシステムなどが、MVNOとしてM2Mサービスを展開している。
4.IoTの価値最大化に向けて
このように現在、IoTの利用を促進する環境が充実しつつある。次回以降は実際にIoTを進めた際に、どのような価値を創出していくかについて考察していく。
水上 晃(みずかみ・あきら)
デロイト トーマツコンサルティングTMT(通信・メディア・ハイテク)ユニット所属。大手鉄道会社経営企画部、外資系コンサルティング会社を経てデロイトトーマツコンサルティング株式会社に参画。通信キャリア、ハイテク領域に対して事業戦略立案、情報システム導入戦略と導入支援、IoT・M2M、BYOD、MVNO戦略、クラウド事業戦略など通信・ICT領域でのプロジェクト経験を豊富に有しICTを活用した業界変革・業界融合のテーマを中心にコンサルティング活動を展開。昨今は「JCC(ジャパンクラウドコンソーシアム)M2MビックデータWG」の事務局も務める。
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