「AIで仕事を減らそう」とするほど生産性が悪くなる理由AIによる効率化のわな【後編】

企業はAI技術を用いて、業務効率化や生産性向上に取り組んでいる。しかしある重要な要素を見落とすと、かえって生産性を低下させてしまうこともある。

2025年02月28日 07時00分 公開
[George KailasTechTarget]

関連キーワード

人工知能


 AI(人工知能)技術を導入する企業が増加する中、従業員はこれまで以上に迅速かつ効率的に業務を進められるようになった。しかし、こうした働き方には大きな代償が伴う。AIによる効率化を過度に追求した企業が直面する問題を解説する。

「AIによる効率化」を追求するほど生産性が落ちる理由

 AIが瞬時にタスクを完了できると分かると、企業は人間の労働者にも同等のスピードと成果を求めるようになる。その結果、従業員には過度なプレッシャーがかかり、自由や休息の時間が奪われていく。

 燃え尽き症候群は、今やあらゆる業界で深刻な問題となっている。従業員は限界まで追い込まれ、常に呼び出しに応じなければならず、仕事から完全に離れる時間がなくなっている。その精神的負担は計り知れず、身体的な影響も深刻だ。慢性的なストレスや疲労、さらには人間関係の悪化が常態化しつつある。

 従業員は、こうした代償を払い続ける必要はない。本質的な問題はAIそのものではなく、その使い方にある。解決の鍵は「リーダーシップ」にある。企業は、AIの無限のエネルギーを際限なく活用したいという衝動を抑え、従業員の健康と幸福を守る環境を築くべきだ。

 そのためには、単なる美辞麗句や形式的なウェルネスセミナーでは不十分だ。以下のような抜本的な制度改革が求められる。

  • 業務時間外の対応を厳格に制限する
  • 通知をまとめて送信する仕組みを導入し、常に対応しなければならないという圧力を軽減する
  • AIを「負担を増やす道具」ではなく「負担を減らすツール」として活用する

 管理職は、AIがもたらす効率性をただ追求するのではなく、本質的な問いを立て直すべきだ。「AIをどう使えば、働き方のバランスを取り戻せるのか」という問いこそが、未来の働き方を形作る鍵となる。

 筆者は、FinTech(金融とITの融合)企業ProsperoAIのCEOとして、AI技術の驚異的な可能性を目の当たりにしてきた。AIは金融ツールへのアクセスを飛躍的に向上させ、かつてはウォール街のエリートしか手に入れられなかった洞察を、一般の投資家にも届けられるようになった。同時に、AIは使い方次第で簡単に武器となり得る。だからこそ、慎重なアプローチが求められる。

 AIの活用には、倫理的な境界線を設けるべきだと筆者は考える。AIは単なる利益追求の道具ではなく、企業、従業員、そして社会全体の発展を支える「善き力」であるべきだ。

 今まさに、働き方の未来が決まろうとしている。このままでは、人間が機械のペースに合わせることになり、ワークライフバランスは過去のものとなる。しかし、もし社会全体が一度立ち止まり、方向性を見直すことができれば、別の道を切り開くことも可能だ。

 AIは睡眠を必要としない。しかし、人間には睡眠が必要だ。リーダーたちは「生産性」だけを優先するのではなく、「人間らしさ」を成功の指標に据えるべきだ。AIを適切に活用すれば、人間を消耗させるのではなく、支える職場をつくることができる

 AIを使って時間を奪うのではなく、時間を解放しよう。既に疲弊している従業員をさらに酷使するのではなく、人間を助けるシステムを構築しよう。もしこの考え方を受け入れることができれば、真に理想的な未来を手にすることができるだろう。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国Informa TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

譁ー逹€繝帙Ρ繧、繝医�繝シ繝代�

事例 アステリア株式会社

ノーコードでアプリ開発とデータ連携を実現、9社の事例に学ぶ現場DXの推進術

工場や倉庫などの現場では、人手不足などにより業務負担の増大が懸念されており、業務のデジタル化と業務プロセスの改善が急務となっている。そこでモバイルアプリの作成からデータ連携までをノーコードで実現できる製品が注目されている。

製品資料 ジオテクノロジーズ株式会社

6つのユースケースから学ぶ、「人流データ」の効果的な活用方法

広告や小売、観光振興、まちづくりなど、さまざまな領域で導入が進む「人流データ」。その活用でどのような施策が可能になり、どのような効果が期待できるのか。人流データ活用の6つのユースケースを紹介する。

製品資料 ジオテクノロジーズ株式会社

基礎から解説:「人流データ」の特徴から活用におけるポイントまで

人の動きを可視化した「人流データ」。屋外広告の効果測定や出店計画、まちづくりや観光振興など幅広い領域で活用されている。その特徴を確認しながら、価値のある分析・活用につなげるためのポイントを解説する。

事例 アルテリックス・ジャパン合同会社

地図情報によるデータ分析作業を効率化、ゼンリングループ企業はどう実現した?

多くの企業でデータ活用が模索されているが、データ処理の煩雑さや属人化が課題となっている企業は少なくない。そこで注目したいのが、データ分析ツールの活用で課題を一掃した「ゼンリンマーケティングソリューションズ」の取り組みだ。

製品資料 サイオステクノロジー株式会社

ITインフラの自動化を実現、いま注目のクラウド型マネージドサービスの実力

複雑化を続けるITシステムの運用管理は、企業にとって大きな負担だ。そこで負担を軽減するものとして注目したいのが、クラウド上でさまざまな機能を利用できるマネージドサービスだ。本資料では、その詳細を解説する。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。