データ保管のニーズが増大する中で、ガラスの素材を記録媒体に使用するストレージの研究開発が進んでいる。HDDやテープなど既存のストレージとは異なるその利点とは。
HDDやテープが記録媒体に磁性体を使うのに対して、ガラスの素材を記録媒体に用いるストレージ技術がある。Microsoftが研究開発を進めているもので、実用化すれば同社のクラウドサービス群「Microsoft Azure」での利用が想定されている。SSDやHDD、テープに比べて極めて耐久性に優れることがこのストレージの特徴だが、利点はそれだけではない。
Microsoftはプロジェクト名「Project Silica」の下で、石英ガラス(二酸化ケイ素を主成分とするガラス素材)を記録媒体に用いるストレージの開発を進めている。石英ガラスは、長期間の保管に適した特性を持つ。Microsoftの研究開発部門Microsoft Researchのシニアプリンシパルリサーチマネジャーを務めるリチャード・ブラック氏によると、温度や湿度、電磁場への耐性があるガラスを使用することで、記録媒体の永続性を実現できる。Project Silicaの記録媒体は、少なくとも数千年はデータを保管できるという。
アーカイブ用ストレージとしては「リニアテープオープン」(LTO:Linear Tape-Open)規格のテープが使われる傾向にある。そのテープと比較した場合、石英ガラスが勝るのが耐久性だ。テープは湿度、温度、粒子、電磁場の影響を受けやすい上に、摩耗する。数年ごとに交換してデータをコピーしなければならないとなると、それだけコストはかかり、財務を圧迫する可能性がある。これに対して石英ガラスは「テープほどには電力や温度管理を必要とせず、数年で交換する必要もないのではるかにコストを抑制できる可能性を秘めている」(ブラック氏)という。
だが調査会社The Futurum Groupでアナリストを務めるラス・フェローズ氏によると、石英ガラスを使ったストレージには長期保存の観点で良い部分も悪い部分もある。石英ガラスに永続性があるとしても、データの読み取りに必要な部品に同様の永続性があるかどうかは大いに疑問だとフェローズ氏は指摘する。
フロッピーディスクを例にして考えてみる。フロッピーディスクが一般的なデータ保存手法だったのは、1990年代ごろまでだ。有用なデータがいまだにフロッピーディスクに残っている場合もあるだろう。ただしそのデータを読み取るのは、フロッピーディスクの劣化が進んでいることや読み取るための機器を入手しにくいことを考えると、至難の業。「たとえデータが50年保持されたとしても、データを読み取る方法がなくなってしまえば、そのストレージが永続性に優れているかどうかは問題ではなくなる」(フェローズ氏)
時間の経過と共に新しいドライブにデータを移していくことは、記録媒体からデータを読み取るための機器やシステムも新しくなることを意味する。石英ガラスのような新しいストレージ技術を実際に運用するのであれば、そうした記録媒体以外の観点も持ってデータ保管の計画を立てなければならない。
Project Silicaの石英ガラスは、未使用時は物理的に異なる場所に保管されるか、ネットワークから切断される。その点ではLTOテープの運用と似ている。HDDやSSDは常時ネットワークに接続していることが一般的であることに比べると、石英ガラスやテープのセキュリティは高い。石英ガラスに書き込まれたデータは変更不可であり、放置しておいてもデータが腐敗するリスクはほとんどないと考えられている。
だが石英ガラスのストレージが、データ保管のニーズに広く応えられるかと言えば、そうとは言えない。Project Silicaは、Microsoftのクラウドサービス群「Microsoft Azure」のアーカイブ用ストレージとして設計されたものだ。日常的に頻繁に使用するデータを保管するプライマリーストレージとしては石英ガラスよりも優れた選択肢があるとブラック氏は説明する。とはいえアーカイブは急成長している領域であるため、「Project Silicaが大きな可能性を秘めていることは変わらない」とブラック氏は話す。
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