データ量が増え続ける中で求められているのが、よりコスト効率よくデータを保存できるストレージだ。HDDやSSDのような既存のストレージ技術とは一線を画す、新しい発想のストレージとは。
膨大なデータを保存するためのストレージの重要性がかつてないほど高まっている。AI(人工知能)技術の普及がその傾向に拍車を掛け、HDDやSSD、テープといった既存の主要ストレージ技術だけではデータ保存のニーズに十分に対処できなくなる懸念が強まっている。そこで登場しているのが、新しい発想で開発されたストレージだ。その一つとしてMicrosoftが開発を進めるストレージは、既存のストレージ技術では成し得ない性能を実現する可能性がある。
世界のデータ量が飛躍的に増大している状況は、Microsoftが進めるプロジェクト「Project Silica」の有望性を物語っている。このプロジェクトは、石英ガラス(二酸化ケイ素を主成分とするガラス素材)にデータを保存するストレージの実用化を目指している。
Microsoftは2017年に開催した年次カンファレンス「Microsoft Ignite」で、未来のストレージ技術としてProject Silicaを発表した。この石英ガラスのストレージは、Microsoftのクラウドサービス群「Microsoft Azure」のクラウドストレージの記録媒体となることが期待されている。
Project Silicaでは、データはフェムト秒レーザー(1000兆分の1秒単位で発振される超短パルスレーザー)を用いてガラス板に書き込まれる。データはピクセル(Pixel、デジタル画像の最小単位)の三次元(3D)版である「ボクセル」(Voxel)に高密度で保存される。
ガラス板はライブラリという物理的に収納するための棚で保管され、データを読み取る際は、短時間で高解像度の画像や動画を取得できる「高速顕微鏡」が使われる。ライブラリは、データの保存や取得の際に必要になるロボット以外には電力を必要としない。
現状、一般に普及しているストレージの中では、データ保管のコスト効率と高密度を重視する場合には「リニアテープオープン」(LTO:Linear Tape-Open)規格のテープストレージ(以下、テープ)が使われる傾向にある。テープの出荷容量が近年は右肩上がりに増えていることは、安価にデータを保管できるストレージの需要がそれだけ高まっていることの証左だと言える。
テープはHDDやSSDよりもコスト効率よくデータを保管できるストレージだが、約10年に1度は交換が必要になることや、適温での保管が求められるといった課題がある。保存容量は「LTO-9」の仕様で圧縮時45TBまでは大容量化が進んでいるが、これは従来のストレージの常識の範囲内にとどまっている。
「テープに代わるストレージ技術は存在するが、データの長期保存(アーカイブ)の需要を完全に満たすものではない」。Microsoftの研究開発部門Microsoft Researchのシニアプリンシパルリサーチマネジャーで、Project Silicaのリサーチディレクターを務めるリチャード・ブラック氏はそう語る。
アーカイブ用ストレージのニーズは非常に大きいにもかかわらず、長期にわたって持続可能で費用対効果が十分に高いストレージ技術はいまだに存在しない。これは今後のデータ保管における根本的な問題だとブラック氏は指摘する。
Project Silicaの他に、新興のストレージ技術としてはCerabyteが提供するセラミック素材を基にしたストレージがある。これと同様、Project Silicaの記録媒体は永続性に優れており、「少なくとも数千年は保管できる」と考えられている。
調査会社Forrester Researchのアナリストであるブレント・エリス氏によると、永続性が求められる長期保存用ストレージの市場は、まだ完全には誕生したとは言えない。今後についても、永続性があるストレージの必要性はまだはっきりしない。「これまでの経験から、企業データの保持要件は長くて10~14年で、それならばテープの寿命で十分対応できる」(エリス氏)
企業において、一般的には10~14年よりも長く保存が求められる可能性は恐らくないとエリス氏はみている。だが、以下のような分野ではストレージの永続性が役立つ可能性があると同氏は補足する。
エリス氏によると、アーカイブ用ストレージは、クラウドサービスにおいて急成長しているストレージ領域だ。バックアップと災害復旧(DR)に限らず、「アクティブアーカイブ」でも使われているという。アクティブアーカイブとは、長期保存を目的としながらも、短い待機時間でデータにアクセスできる状態にしておくアーカイブを指す。AI(人工知能)技術のトレーニングにおいても重要な役割を果たす。
後編は、テープなど既存のストレージと比較しながら、石英ガラスのストレージにどのような活用の可能性があるのかを探る。
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