用途はいろいろだが……
Alexa for Businessを導入すべき理由と、導入すべきでない理由
一般消費者の間で人気のAI音声アシスタントデバイスが企業にも進出し始めている。だが、企業は幾つか課題も意識しておかなければならない。
昨今の一般消費者向け電子機器の世界では、AI音声アシスタントデバイスが話題になることが多くなっている。だが、ベンダーは市場シェアと収益を伸ばすために企業にますます目を向けるようになっている。早くから期待はされているが、幾つかの問題が導入の妨げになる可能性がある。
企業におけるAI音声アシスタントの用途
スマートスピーカーとも呼ばれるAI音声アシスタントを企業で活用する機会は幅広く存在する。AI音声アシスタントには企業の追加拡張リソースとしての役割を果たす能力がある。AI音声アシスタントは、会話型テクノロジーとAI対応のクラウドベースの処理能力を利用することで特定のタスクを実行する。逆にいえば、AI音声アシスタントを使わなければ、そうしたタスクは管理アシスタントや、もっと基本的なソフトウェアに割り当てられることになる。
AI音声アシスタントへの注目が増しているのは管理に関するユースケースだ。例えば、会議のスケジューリング、リマインダーの設定、電話会議の支援などがそれに当たる。2017年11月、Amazonは「Alexa for Business」をリリースした。Alexa for Businessは企業のカレンダーシステムや会議システムと連携させることで、会議の出席者が音声を使って自動的に会議を始めたり制御したりすることが可能になる。
AI音声アシスタントを使って従業員が人事部やIT部門などの社内部署と通話できるようにすることを検討する動きもある。これにより、社内でのサポートを円滑化するためだ。Googleは同様の用途を想定して米国内の電話への無料通話サポートを発表している。ただし、企業向けの電話会議をサポートするかどうかは決まっていないようだ。
企業は、検索目的での音声アシスタント利用にも注目している。企業のポータルやWebベースのナレッジマネジメントシステムに接続する代わりに、AI音声アシスタントをこれらのシステムと統合する。それにより、音声を使ってクエリを実行できるようになる。また、会話型操作で企業の情報リソースや企業データを扱えるようにもなる。
企業に必要な開発者エコシステム
AI音声アシスタントの企業向けユースケースは多くの場合カスタマイズされることになる。そのため、Amazon、Google、Microsoftのようなベンダーが、企業で使う社内専用スキルを開発するためのプロセスを簡略化し、分離しようとしていることは驚きではない。こうしたベンダーは、社内の多様なユーザーがアクセスできる企業専用のスキルセットを作ろうとしている。これらのスキルは、企業の従業員以外や競合企業の従業員からは表示することもアクセスすることもできない。また、企業のIT担当者や開発担当者によって管理され、開発されることになるだろう。
同様に、ベンダーはAI音声アシスタントを既存の企業向けソフトウェアやツール内へ統合しようとしている。ERPツールやCRMツールなど、企業内に既に存在するプラットフォームでAI音声アシスタント機能を提供しようとしているのだ。このような形になれば、Webやモバイルのインタフェースを使用して社内アプリにアクセスする必要がなくなる。代わりに、AI音声アシスタントで提供される会話型のインタフェースによって、やりとりを単純化し、企業システムをより活用できるようになる。
企業特有の要件
AI音声アシスタントの企業での導入には、一般消費者向けの用途と幾つかの点で重要な違いがある。そうした違いが、企業環境に市販のデバイスを導入する可能性を狭めている。
一般消費者向け用途においては、ユーザー固有のプロファイルや個人用アカウントをデバイスに関連付けることで各デバイスが個人に対して登録される。一方、企業では社内の幅広い従業員がこれらのデバイスを使用する必要がある。また、固有のライセンスと利用量の要件がある企業のアカウントに関連付けなければならない。特に企業の場合、AI音声アシスタントには階層型のアクセスレベルが必要になる。その中で、一部のユーザーに管理権限を用意することになる。請求が発生するデバイスの使い方は企業ユーザーでは無効化すべきかもしれない。全ての請求を特定ユーザーが承認することで、その請求書は企業アカウントに送られることになる。
さらに、企業ではAI音声アシスタントを、企業データや知識リポジトリ、企業向けカレンダーとメッセージシステム、ID管理インフラと統合することも要求される。企業ユーザーとしては、AI音声アシスタントデバイスを管理するときに追加サポートに頭を悩まされる事態は避けたい。従って、デバイスをネットワーク上で一元的にプロビジョニングしたり、逆にプロビジョニングを解除したりできるようになっている必要がある。同様に、ユーザーを一元管理することも欠かせない。
これらの統合要件はささいなものではない。そのため、企業レベルのサポートを提供しようとするAI音声アシスタントでは、月額のサブスクリプションプランであっても、一般消費者に対しては請求されないような、それ相応のコストがかかると予想される。
企業でのAI音声アシスタント普及を阻む課題
企業におけるAI音声アシスタントと会話型テクノロジーには将来性があるが、普及を阻む大きな課題やハードルも数多く存在する。
テクノロジーの観点から見ると、企業のIT管理者にとっては音声認証の欠如が重要な懸念事項になる。特定のスキルや機能を要求している人物を確実に把握することができないため、個人情報へのアクセスレベルを制御することが難しくなる。
つまり、AI音声アシスタント用に開発されるスキルは、誰でもアクセス可能な公開情報になっていなければならない。どのようなユーザーでも、セキュリティやプライバシーを気にせず使えるようにするためだ。そうなると、こうしたデバイスには価値の低い情報をの取り扱いや、スケジュール設定程度の単純なタスクしか任せられない。2要素認証や音声ベースによるその他の安全な認証方式を導入できるなら、もっと重要な用途でこのテクノロジーを使えるようになるだろう。
企業はAI音声アシスタントデバイスに目を向けながらつつもその姿勢は慎重であり、多くの場合は疑いの目を向けている。企業のセキュリティ担当者なら、常にマイクを有効にして聞き耳を立てているデバイスを不安視するのは当然のことだ。しかも、そこで拾った音声情報が企業のファイアウォールの外部に送信されるとあればなおさらだ。
AI音声アシスタントテクノロジーには多かれ少なかれブラックボックスになっている部分が存在する。そのため、機密の会話やデータ、やりとりが意図せずに、あるいは悪意を持って承認されていない第三者と共有される可能性もゼロではない。例えば、米オレゴン州ポートランド在住のカップルが最近、ある報告をしている。Amazonの「Alexa」デバイスを通じてそのカップルの個人的な会話の一部が、連絡先に登録されている一部の相手に誤って共有されたというのだ。
AI音声アシスタントを使用したアプリケーションが平凡なものであったとしても、企業はそれを高いセキュリティが求められる施設や個人的な空間で使用することは許可すべきでない。使っていないときに電源ケーブルを抜くなど、確実にネットワークから切断できるなら話は別だが、そうやって音声ベースのトリガーを無効にしなければならないなら、それはそれで、こうしたデバイスは役に立たないに等しい。
AI音声アシスタントが最終的に価値を提供するには、企業が信頼するに値する有益なリソースであることが証明されなければならない。ベンダーはAI音声アシスタントの企業エコシステムに進出して優位に立ちたいと考えているなら、重要な統合、アプリケーション開発、プロビジョニング、セキュリティ、プライバシー、信頼問題への対処に重点を置く必要がある。導入が広がり、勢いが増す可能性があるのはそれからだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[LRM株式会社] 「標的型攻撃メール」事例・サンプル集 -
製品資料
[LRM株式会社] セキュリティ教育はなぜ「年間計画」を立てる必要があるのか? -
製品資料
[LRM株式会社] セキュリティの重要性が伝わらない…… 効果がない社員教育から脱却する方法 -
製品資料
[LRM株式会社] 「標的型攻撃メール訓練」導入ガイド 社員の意識を確実に高める仕組みの作り方 -
事例
[株式会社マクニカ] アイカ工業に学ぶ脆弱性対策 情シスが把握できずにいたアセットも正確に把握
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「VMware離れ」は本当か 3000社がVCF 9にかじを切った現実的な理由
-
2
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
3
Oracle巨大ITプロジェクトはなぜつまずいたのか 8年で導入1割、追加で170億ドル
-
4
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
5
Microsoft製品でここまで自動化できる 情シスがやめられる手作業10選
-
6
ISMSの“コンサル丸投げ”が招く数千万円の無駄 NTTドコモビジネスの脱出劇
-
7
Netflixのバックエンドは「ほぼJava」 3000超のアプリを支える開発基盤の裏側
-
8
AI基盤は本当に「オンプレ回帰」する? Broadcomの言い分と企業の本音
-
9
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
10
エンジニアが選考を辞退する本当の理由 7割が隠す“面接の違和感”とは
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
2
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
-
3
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
4
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
7
PostgreSQLの「機能」「性能」「運用」「拡張性」に関する悩みの解消法
-
8
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
9
Macの安全神話は崩壊? 最新の脅威動向から見えた攻撃のトレンドと有効な対策
-
10
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー