“脱Excel”か“活Excel”か
「Excel職人」が生まれる理由――課題を解決するほど仕事が増えるジレンマ
企業活動において、「Microsoft Excel」を使う仕事は「必要な業務」であっても「重要な仕事」とまでは言えない場合があります。このことが、Excel業務に従事する人のモチベーションに大きく影響しています。
ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの言葉に「人間は行動を約束することはできても、感情は約束できない」というものがあります。企業は経営活動を円滑に間違いなく実施するために、就業規則や業務手順書など、さまざまなルールを規定しています。加えて上司の業務指示や顧客との約束など、規則以外にも守るべき約束事が日常的に発生し、従業員は常日頃から約束事のために働いているといっても過言ではありません。こうしたルールや約束について、守る必要がないと考える人はほとんどいないでしょう。
一方で、感情的には人それぞれ、さまざまな思いを持ちます。ルールや約束を守ることは当然であり、守ることが自分の取るべき行動だと考え、ルールを厳格に守ろうとする人もいるでしょうし、面倒だと思いながら仕方なく守ろうとする人もいるでしょう。人間が感情の生き物である以上、こうした多様な感情を抱くのは当然のことです。
ポジティブな感情を持っているのであれば問題ありませんが、従業員がネガティブな感情を抱いたまま仕事をすることは、決して良い状態であるとは言えません。小学生が夏休みの宿題をやりたくないからという理由で、夏休みが終わるギリギリまで宿題に手を付けずにいると、夏休みが終わる頃に慌てて始めたせいで全部の宿題をやり切れなかったり、やれたとしても、いいかげんにしかできなかったりすることがあります。仕事においても同様で、ネガティブな感情が仕事への着手を遅らせたり、仕事の効率を悪化させたりすることにつながります。
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「モチベーションマネジメント」の重要性
仕事に対してこのようなネガティブな感情をなるべく抱かせず、ポジティブな感情を持って仕事に取り組んでもらうように従業員を管理することを「モチベーションマネジメント」といいます。モチベーションは「動機付け」「やる気」と言い換えた方が分かりやすいかもしれません。モチベーションに関してはさまざまな研究がなされており、その中でもモチベーションマネジメントを実施する上で施策を立てやすい理論が、アメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「動機付け・衛生理論」(二要因理論)です。
ハーズバーグの動機付け・衛生理論によると、人間には2種類の欲求があります。1つ目は苦痛を避けようとする動物的な欲求、2つ目は心理的に成長しようとする人間的な欲求です。この2種類のうち苦痛の原因となる要因は、いくら取り除いても満足感を引き出すことにはつながらず、仕事のやる気を引き出すには心理的な欲求を満たす施策を実行する方が効果的だと、ハーズバーグは説明しています。
心理的な欲求には達成感や承認などがあり、例えば企業において重要な仕事を任され、成果を出せば達成感を感じます。その結果、昇進や昇給などの評価が得られれば、承認欲求が満たされることになります。重要な仕事ではないとしても、仕事に対して工夫を施し、その結果、仕事の効率が改善されることになれば、達成感を得ることは可能でしょう。
「Excelで効率化」の達成感だけではやりがいは続かない
「Microsoft Excel」(以下、Excel)を使用する業務の場合、モチベーションを向上させるにはどのような施策が考えられるでしょうか。「Windows」端末と「Microsoft Office」が企業に普及し、1人1台のPCを使用することが当たり前になり始めた頃は、業務中にExcelがフリーズして業務を最初からやり直したり、Excelの機能的な制約によって業務効率が上がらなかったりといったことは、日常茶飯事でした。現在はPC性能も向上し、Excelも多数のバージョンアップを経て、機能的な制約はほとんど解消されました。そうした意味では、Excelを使用した業務における苦痛の原因となる要素は、近年はかなり軽減されたといってよいでしょう。
一方で、心理的な欲求を満たす施策についてはどうでしょうか。Excelを使用する業務は、企業活動において「必要な業務」であることは間違いありません。とはいえ「重要な仕事」であると断言できるかというと、そこまで言い切ることは難しいでしょう。企業において評価される仕事とは、業績に多大な貢献を与えるような顧客の獲得であったり、企業全体に影響を及ぼすようなプロジェクトの成功であったりするからです。
Excelを使用する業務は、このような業務を遂行するために、もちろん必要ではあります。ただし業務において中心的な役割を果たすかというと、そこまでの役割を果たすことはほとんどないでしょう。
そうなると心理的な欲求を満たす方法は、仕事を工夫して仕事の効率を改善する方向に向くことになります。幸か不幸かExcelは、関数やプログラミング言語の「Visual Basic for Applications」(VBA)など、業務を効率化する機能が豊富に用意されています。これらの機能を活用し、効率化をし続けることで、ある程度、達成感を得ることは可能です。
では、この達成感のみで、仕事にやりがいを見いだし続けることは可能でしょうか。残念ながら、いつかはやりがいを失ってしまうと言わざるを得ません。なぜなら効率化すればするほど、効率化できる幅は小さくなる一方で、効率化するための作業時間は増える一方だからです。そうなると、仕事の達成感以上にExcelの技術向上を目的とする「Excel職人」と呼ばれるような人も現れてきます。
Excelの業務を効率化できるということは、業務の理解と改善すべきポイントを正しく理解しているということでもあります。Excel以外の効率化業務などにも積極的に参加させることで、心理的な欲求を満足させるような取り組みを実施することが、モチベーションマネジメントの観点からも必要となってくるでしょう。
このコラムについて
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。
このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介します。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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“脱Excel”か“活Excel”か
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」(以下、Excel)。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介していきます。
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