プライベートクラウドソリューション最前線【第1回】
企業内クラウド環境を迅速に構築可能なIBMのプライベートクラウドソリューション
日本IBMが提供する企業向けクラウドソリューション「Smart Business」は、ニーズの高い6つの適用分野を主軸にサービス・製品を配置。ターンキー製品である「IBM CloudBurst」はプライベートクラウドの迅速な立ち上げを可能とする。
ユーザーは目的とするITサービスを素早く手に入れ、提供側は要求されたITサービスを迅速に実現する――。従来も「オートノミック」「グリッド」「オンデマンド」「戦略的アウトソーシング」などのキーワードで「ITサービスデリバリの工業化」を目指してきた日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)にとって、クラウドコンピューティングもその延長線上にある。
その日本IBMが今までのクラウド環境導入実践ノウハウと大規模な市場調査・分析に基づき築き上げたソリューション体系が「Smart Business」である。「LotusLive」をはじめとする各種のパブリッククラウドサービスである「IBM Smart Business on the IBM Cloud」、企業のプライベートクラウド構築を支援するサービスの「Smart Business Services」、クラウド環境を迅速に立ち上げ可能なアプライアンス型製品の「Smart Business Systems」に分類される。
Smart Business Systemsの中核である「IBM CloudBurst」は、IaaS(Infrastructure as a Service)に必要となるハードウェア、ソフトウェアを42Uラックに集積。これ1台を自社のデータセンターに導入するだけで、即座にセルフサービスベースのIaaSを社内展開できる。プライベートクラウドの手始めとして最適なターンキー製品となっている。
クラウドは工業化の遅れたITを変える
「ITサービスのデリバリを工業化する手法」――これがクラウドコンピューティングに対する日本IBMの定義である。
小林誠士氏
日本IBM クラウド事業企画 ソリューション・アーキテクトの小林誠士氏はこう話す。「ほかの産業に比べて、ITの工業化は遅れている。依然、ユーザーが目的のサービスを得るまでに多くの人手と時間を要し、稼働後も運用担当者の努力によって支えられる。その状況を変え得るのがクラウドコンピューティングだ。工業化に欠かせない“標準化”と“自動化”、さらにITならではの“仮想化”により、ITサービスの迅速展開、品質保持、コスト削減を実現したり、新たな価値をもたらす」
そうしたコンセプトに基づく日本IBMの企業向けクラウドソリューションが「Smart Business」である。また、Smart Businessを支えるコンサルティングサービス、データセンターなどのインフラサービス、ハードウェア/ソフトウェアの製品・技術も充実している。下図がSmart Businessのポートフォリオである。
全世界でクラウド利用意向を聞き取り調達
Smart Businessは机上のソリューションではない。まず、日本IBMは2006年ごろから社内でプライベートクラウド環境を構築し、日常業務において活用してきている。例えば、世界8拠点で3000人の研究者を擁するIBM Researchや新技術適用を図る社内コミュニティーの開発プロジェクトがITリソースをセルフサービスで調達するのにクラウド環境が利用される。社内コミュニティーの場合、クラウド利用によりハードウェアコストを年間130万ドルも削減し、15人だった管理者が2人で済むようになったという。
加えて、日本IBMは全世界で企業のCIOやIT担当者、総勢1000人にヒアリングを敢行し、クラウドの利用意向を詳細に分析した。国によりクラウドに期待する効果は違うが(日本ならコスト削減、米国ならイノベーションなど)、期待する適用領域としては、「解析」「コラボレーション」「開発・テスト」「デスクトップ」「コンピューティング」「ストレージ」へのニーズが強かった。さらに、「コラボレーションならパブリック、解析ならプライベートなど使い分けの傾向も出ていたと」いう。
こうした実践ノウハウと綿密な調査・分析が反映されたSmart Businessのポートフォリオは、自社のクラウド戦略を考える上でも参考になるはずだ。小林氏は「日本IBMとしては必ずしもすべての領域でクラウドを利用すべきとは考えていない。適用領域ごと形態としてふさわしいのは従来からあるスタティックなシステムなのか、クラウドなのか、また、クラウドの場合には、パブリックでよいのか、それともプライベートにすべきなのかを考えて、企業システム全体で最適に組み合わせていく必要がある」と指摘する。
大規模かつグローバルなデスクトップクラウド
Smart Businessのプライベートクラウド部分を詳しく見ていこう。まず、サービスのSmart Business Servicesは、日本IBM製品とサードパーティー製品を組み合わせ、個別企業のプライベートクラウド設計・構築を支援するもので、開発テスト環境向けの「Smart Business Test Cloud」、クライアント環境仮想化向けの「Smart Business Desktop Cloud」、BI/大規模情報分析向けの「Smart Analytics Cloud」、アーカイブシステム向けの「Smart Storage Cloud」と、計4つのメニューがある。
既に大規模な採用事例が出ているのが、日本IBMのストレージ、サーバ(BladeCenter/System x)にヴイエムウェア、シトリックス・システムズ・ジャパンなどの仮想化技術を用いて実現する“デスクトップクラウド”である。小林氏は「セキュリティや事業継続、管理コスト削減の観点からデスクトップをクラウド化したいというニーズは強い」という。
例えば、「VMware View」によりVirtual Desktop Infrastructure(VDI)を構築し、PC全体の仮想化を進める三菱東京UFJ銀行(「PCでのOA環境を「仮想デスクトップ」へ。三菱東京UFJ銀行VDIシステムの全容」)、「Citrix XenDesktop」により国内データセンターに構築したVDIを中国の開発拠点から利用するT&D情報システムなどの事例があり、日本IBMらしい大規模、グローバルなデスクトップクラウドを提供している。
42Uラック内で自己完結したクラウド環境
一方、ハードウェアとソフトウェアをパッケージングしたアプライアンス型製品のSmart Business Systemsには、BI/大規模情報分析向けの「Smart Analytics System」、アーカイブシステム向け「Information Archive」、そしてプライベートクラウド環境を迅速に構築することが可能な「IBM CloudBurst」の3製品がある。
日本IBMのストレージ、サーバに分析ソフトウェア(DB2を中核としたデータウェアハウス向けDB管理ソフト「InfoSphere Warehouse」とBIツール「Cognos」)を一体化したSmart Analytics Systemは、処理データ量により5モデルが用意され、各モデルともユーザー数やユーザースペース容量を基準とした3~6つの標準リソース構成を持つ。つまり、用途に合ったスペックのBI/大規模情報分析システムを短時間でクラウド上に構築できる上、拡張性も確保しやすい。同様にInformation Archiveでも拡張性の高いアーカイブシステムを容易にクラウド上に導入できる。
Smart Business Systemsで核となる製品のIBM CloudBurstは、簡単に言えば、プライベートクラウド環境に必要な機能を42Uラックに集約したアプライアンスである。これ1台を自社のデータセンターに設置するだけで、社内ユーザーに対してセルフサービスポータル、サービスカタログに基づくクラウド環境を提供できる。
その主なシステム構成は次のようになっている。ハードウェアとしては、FCストレージに「System Storage DS3400」、クラウド管理用サーバに「System x 3550 M3」、メインサーバに「BladeCenter HS22V」。クラウド運用管理ツールに「Tivoli」、OSに「SUSE Linux」、仮想化環境に「VMware」など。つまり、「42Uラック内でクラウド環境として自己完結している」(小林氏)のだ。さらに、導入・設定、サービスポータルの構成、スキル移転などの“クイック・スタート・サービス”もパックされている。
なお、IBM CloudBurstを自己完結型としたのは、日本IBMのクラウド関連製品に「WebSphere CloudBurst アプライアンス」と呼ばれる製品があり、こちらはWebSphereの仮想アプライアンス(OSとWebSphereを一体的にイメージ化したもの)を別環境のハイパーバイザー上に配信する役割に終始しているからだ。
IBM CloudBurstソフトウェアを仮想アプライアンス化
IBM CloudBurstの利用イメージとしては、サービス展開を管理する「Tivoli Service Automation Manager」の画面から、ユーザーが使用する仮想マシンイメージやその利用期間、ディスク容量などを指定してリソースを要求。管理者が許可を与えれば、リソースがクラウド上に自動プロビジョニングされる。従来のように個別にハードウェアを調達したり、環境構築に手間を掛けたりする必要がない。
Smart BusinessのポートフォリオにおいてIBM CloudBurstの適用分野は開発テストとなっている。実際、SIerの三菱総研DCSなどが利用して成果を挙げている。2009年11月にリリースされた「V1.2」からは課金管理や電力監視の機能が加わり、さらに2010年9月リリースの「V2.1」ではソフトウェアの追加インストールが可能となるなど機能面での拡充が図られたと共に、処理性能も大幅に向上。仮想マシンを同時に100台以上稼働させられるようになった。開発テスト環境のみならず、各種の本番環境としても十分に使えるだろう。「今後は専用のアプリケーション実行環境も搭載する計画」(小林氏)と、将来的にIBM CloudBurstはIaaSからPaaS(Platform as a Service)アプライアンスへ成長していくもようだ。
V2.1からは、Tivoliを中心としたIBM CloudBurstソフトウェアスタックを仮想アプライアンス化した「Service Delivery Manager」が単体提供されている。つまり、これを活用すれば、自社の既存ITリソース上でIBM CloudBurstと同等のプライベートクラウドを実現できるのだ。日本IBMのSmart Businessは今後も矢継ぎ早に新しいソリューションを打ち出してきそうだ。
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