経営判断には正しいデータを
CIOならば「データの質は量でカバーできる」という考えを捨てよ
「質の悪いデータからでもよい分析結果が得られる」という考え方は、ビッグデータ分析には有効かもしれない。しかしCIO(最高情報責任者)であれば、このアプローチをビジネス変革に用いるのは我慢した方がよい。
データ処理に関する古い格言に「ガベージイン・ガベージアウト」(ごみを入れてもごみしか返ってこない)というものがある。この格言は「信頼性の低いデータソースに基づいて作成したレポートからは質の高い情報は生まれない」ということをITリーダーやビジネスリーダーに喚起していた。
最近の新しいキャッチフレーズに「ガベージイン・ゴスペルアウト」(ごみを入れたら聖歌が返ってきた)というものがあるが、これはCIO(最高情報責任者)にとってあまり意味を持たないだろう。この言葉は「たとえ質が低くても、十分な量のデータさえあれば優れたレポート、分析、意思決定を生み出せる」という管理部門やIT部門の信仰を映し出している。つまり大量のデータを用意すれば、その価値の低さは補えるという考え方だ。
「ガベージイン・ゴスペルアウト」のアプローチは、ビッグデータに関するプロジェクトでは当てはまる部分もあるかもしれない。だが業績、顧客対応、財務、コンプライアンス、人事など、業務に関する運用や社内の意思決定を後押しするために用いてもほとんど効果はない。
多数のデータベース、重複するデータ
ビジネス変革にこの「数の力」を応用しようとすると、事態が悪化する恐れがある。つまりビジネスでの適切な意思決定をする場面で、質の高いデータの重要性が高まっている。同様に、今後企業がコスト削減や市場シェアの獲得とは別の面に目を向けるようになると、質の高いデータへのニーズが占める割合も高くなるだろう。構想を見極め、戦略を定め、ビジネスとテクノロジーの進化を決める。こうしたことに必要なデータを入手する能力は、再びビジネスを成功に導く原動力になりつつある。
データに基づく意思決定が成功への鍵となるこの時代になっても、ほぼ全ての企業が、意思決定や企業の成長を後押しする際に、データにまつわる深刻な制約を抱えている。この原因の大部分は、重複したデータを異なる構成で保持する何百ものデータベースを生み出した「ベスト・オブ・ブリード」戦略にある。これはシステム構築の際に同一ベンダーやスイート製品だけを使うのではなく、それぞれの分野で最も優れたハードウェア、ソフトウェアを選択するというものだ。その結果、重複したデータが複数のアプリケーションシステムデータベース間でほぼ同期されることなく存在している。
問題は網のように絡まりあうデータベースだけではない。多くのデータが時代遅れになっている危険性がある。その上、どのデータが正しく、どのデータが最新で、さらにはデータが破損しているかどうかさえ、誰にも分からない。結果として、アプリケーションに簡単な変更を加えるだけの作業が、予測できない結果をもたらす複雑な作業になるという状況を生み出している。あらゆる場所にデータを保持しているが、正しいデータ、重複するデータ、他のデータソースと競合するデータ、正確な情報が入手できる場所についてはほとんど理解されていない。
こうした状況への対処を試みる多くの企業は、どれが信頼できる情報かを判断するため、統計学的手法を用いて膨大なデータを集約し、その集計結果を見るという、量と確率に頼った取り組みを行っている。だが多くの場合、この手法で得られる情報は信頼性が低い。
Fortune 500の影響
ここで、資料として広く使われている統計を2つ引用する。1つは、1955~2016年の60年余りの間に、米経済誌『Fortune』が年1回発表する企業ランキング「Fortune 500」に名を連ねた企業の88%が倒産や統廃合、あるいは業績悪化によりリストから外されたという統計だ。残念なことにこの傾向は加速している。現状の割合だと、2011年に名を連ねていた企業の75%が2027年までに新しい企業に置き換わることになるだろう。
なぜこのような傾向になるのだろうか。こうした大企業の75%が、この16年の間にリーダーシップの欠如を受けて倒産するというのは考えにくい。テクノロジーに追い付けなくなったとも考えられない。確かに、今は亡き企業の一部経営陣が無能だったことや、テクノロジーに対する判断を誤ったと考えられる失敗が幾つかあったことに間違いはない。それでもこの数は圧倒的だ。
かつて強大な力を誇った企業が次々と倒れていく現状について考えてみたい。現代の企業が成功するために必要な資質を考えたとき、2つの特性が見えてくる。1つは「業務上多少の混乱が起きても素早く軌道修正する能力」、もう1つは「社内での電子データの利用」だ。移り変わりの早いデジタル時代で勝ち残る方法はこの2つだけではないが、どちらも最優先に近い特性だ。
上記2つの特性のうち企業に大きな影響を与えているのが、データに関する問題だろう。「ガベージイン・ゴスペルアウト」は、ビジネスの遂行に用いることのできるアプローチではない。不適切なデータは、社内外での不適切な意思決定につながる。これは単純な理屈だ。データを使用して適切に顧客を支援できなかったり、誤りのあるデータを顧客に提示したりすれば、顧客は離れていく。不適切なデータは企業の信用を落とすことは社内業務や従業員の支援でも同様だ。企業が競争力を維持しようと変革に取り組む過程でこうした問題が積み重なった結果、解決の難しいある種の制約が形作られる。
ほとんどの場合、Fortune 500に名を連ねるような大企業は変化の速度が遅く、場合によっては一見すると変化していないように思えることがある。こうした企業では、データの訂正や削除などが不可能だったり、そうした対応に否定的であったりすることも、変化に乏しい一因になっている。
CIOに求められる対応
これから先も自社を存続させ、競争力を高められるようにするために、CIOは、取れる方策を今後も探ることになるだろう。手始めに、CIOは自身に次の疑問を投げかけてみてほしい。
- 疑問の余地があるデータに基づいてビジネスの意思決定が行われていないか
- ビジネスの意思決定はおおむね適切か、それとも改善の余地はあるか
- 企業データベース内の全ての汎用(はんよう)データを、「良」「可」「要検討」で評価するとどうなるか
- システムのデータの精度や、そのデータを利用するレポートを信頼できるか
- データとその品質をコントロールしているか
- データの流れとその変化を把握しているか
- 管理部門と社内外のデータ利用者が、データの精度と可用性に満足しているか
- さまざまなアプリケーションシステムとデータベースの間でデータが同期されているか、データは最新か
- どのソースから得たどのようなデータが適切か、どのデータを信頼できるか
- データの問題が過去および将来に与える影響は何か
こうした質問に1つでも答えられなければ、企業の素早い変化や、柔軟な顧客対応ができない可能性がある。データに関する問題を解決しない限り、データに対する取り組みは予期しない結果をもたらすだろう。顧客とのさまざまなやりとりの中で、誤ったデータを提示することは現実的にはあり得ない。データの誤りを訂正するために電話や電子メールで顧客に対応することも許されることではない。ただ、迅速かつ丁寧に訂正するという姿勢は、企業の競争力を高める差別化要因にはなる。顧客への不適切な対応や顧客の不満は、ソーシャルプラットフォームを通じてあっという間に広がる。
顧客への不適切な対応に関する風評が、企業のデータ訂正と精度確保に投資するきっかけになる可能性はある。だがこうした投資の重要度は低く、不適切なデータに対する取り組みの方が重要度は高い。活動方針は企業によって異なるものの、方針の定義と投資するビジネスケースの策定は、優れた出発点になる。さらにこうしたデータの修正を、ビジネスとIT管理の総合的かつ長期的な方針に含めることも推奨される。
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