IT変革力【第33回】
東証の次期売買システムの決定発表に足りない内部統制視点の説明
東京証券取引所の次期基幹システムの発注先が富士通に決定したそうですが、以前に起こった現行売買システム障害事件で大きく影響を受けた経済界は、その理由説明をどのように受け取っているのでしょうか。
東京証券取引所の次期基幹システム(次世代売買システム)の発注先が富士通に決定したそうです。年末に東証の社長自らが発表しています。新システムの稼動は2009年11月の予定であり、約300億円をかけてオープンシステムとして再構築すると発表されています。
本ITシステムの調達は公募により行われ、外資系企業にも広く声が掛けられていました。
書類審査の結果、2006年の9月頃、5つ程度のグループに絞ったベンダーに対して、「全部で約1500ページのRFP(提案依頼書)を提示し、各社に十分に回答してもらった」(東証西室社長談)という話であり、慎重にも慎重さを重ねて選定作業が行われたと報じられています。
筆者が参考にした記事は以下の通りです。
受注を達成した富士通は、黒川社長直轄のプロジェクトとして遂行することを東証に約束したと伝えられています。そして、新たに専門の事業部組織を設立する計画を提示しています。富士通さん、まずは受注おめでとうございます。
東証の説明は技術論に偏っている
さて、東証の発表によれば、以下のような3つの理由で富士通に決定したそうです。
富士通の提案したシステムが、
- 証券市場という極めて公共性の高いインフラの根幹として、高速性と信頼性を確保できること
- 10年先にも世界最高水準を維持できるほどの先進性があること
- 東証の予算内で構築できること
以上の3点です。
しかし、ジェイコム株式の誤発注問題に代表される2005年に発生した一連の現行売買システム障害事件は、我が国の経済界に大きな影響を与えました。その結果、ジェイコム株誤発注に伴う巨額損失の原因は、東京証券取引所のシステム障害にあったとして、みずほ証券が東証に対し415億円の損害賠償支払いを求める訴訟が既に始まっています。そして、その第1回口頭弁論が2006年12月15日に東京地裁で開始されたタイミングでの、次世代売買システムの発注先発表でした。
そのタイミングで、現行システムの当事者である富士通を選定した理由の説明としては、果たして経済界にとって十分納得性のあるものだったのでしょうか。たとえ、富士通の提案した次世代システムが「証券市場という極めて公共性の高いインフラの根幹として、高速性と信頼性を確保できる」という結論が正しいとしても、障害を多発した現行ITシステムの開発・運用先をそのまま選定したという理由の説明としては、どこか不十分な気がします。
無論、現行システムにおける一連の障害の非が、現行ベンダーも含め、一体、誰にあったのかは、筆者の知るところではありません。それは現在進行中であるジェイコム株式誤発注問題の裁判の中で明らかになることと思います。
では、どういった説明ならば経済界は納得するのでしょうか?
確かに、東京証券取引所は上場企業ではありません。従って、一般投資家がいないわけですから、上場企業ほど厳しい説明責任は求められていません。皮肉っぽく言えば、東京証券取引所はこの点をよく心得ているのかもしれません。
筆者には、今回の東京証券取引所の説明はあまりに技術論に偏っている気がします。次世代の売買システムは、オープンシステムとして富士通のハイエンドサーバー「PRIMEQUEST」で稼働し、CPUにはインテルのItanium2、OSにはLinuxを採用するそうです。確かに、技術論としてはその説明で十分かもしれません。もっとも、オープンシステムでどこまでミッションクリティカルな株式売買業務に対処できるかは、別途技術面からオープンシステムの持つリスク上の説明が必要ですが。
内部統制からの説明をぜひお願いしたい
しかし、将来、東証が上場を本気で検討するならば、「内部統制」の視点からの十分な説明が欲しいと思います。それとも、東京証券取引所は上場企業の「内部統制」を管理する立場にいながら、自らの「内部統制」を重要視してはいないのでしょうか。もしそうならば、それを「紺屋の白袴」と呼びます。それとも単に説明を省略しただけのことなのでしょうか。もしそうならば、株式の世界に身をおく東証の情報感度がなぜか鈍いということになります。
東京証券取引所には、自らのITシステムの調達により、技術論だけでなくJ-SOX法上の「内部統制」面からも、今回の次世代売買システムの選定は真の意味で「高速性と信頼性を確保」し「世界最高水準を維持する先進性」があり、「予算内で構築できる」という追加説明を行っていただきたいと要望します。自らのITシステムの調達により、多くの上場民間企業に模範演技として示していただきたいと思います。ましてや、世間に多大な迷惑をかけた売買業務の次世代システムです。
過去のITシステム障害の責任所在や原因の究明は裁判に任せるとして、未来に向けた説明責任まで慎重になることはないのではと思います。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
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