IT変革力【第32回】
Web2.0型消費者主導の口コミ広告に規制の動きが始まる米国
2006年末に、ついに消費者主導広告(CGCM)に対する規制が動き始めました。ブログやSNSが増え続ける今、消費者主導型の口コミマーケティングは、これからますます増えていくことでしょう。ただ一方で、倫理上の問題が指摘されています。
2006年末に現れた面白い動きの1つは、消費者主導広告(CGCM)に対する規制の動きでしょう。米国のFederal Trade Commission(連邦取引委員会、日本の公正取引委員会に対応する組織)では、「商品の口コミプロモーションにおいてブログなどで口コミを行った消費者に口コミ手数料を支払うタイプのマーケティングを行う企業は、その旨を開示しなければならない」といった議論が始まっています。
さて、Web2.0と呼ばれる大衆が簡単に日記や写真、動画などを投稿できる穏やかな環境(新しい社会環境である「コモンズ」)がネット上に出現し、生活者による投稿数が幾何級数的に増加する時代が到来しています。当然、そこではオープンソースマーケティングなどと呼ばれる消費者主導型の口コミマーケティングが台頭し、企業もそれに手数料を払うなど、積極的に参加し始めています。
しかしついに、口コミマーケティングに対する米国当局の規制の動きが表面化しました。
口コミマーケティング規制問題
これまで、スポンサー付きブログやSNSなど、口コミマーケティング目的のスポンサー付き投稿は、法律上の問題はないが倫理上の問題があると数多くの指摘が行われてきました。
例えば、マイスペースが作るマーケティング用のコミュ二ティは、キャラクターを活用しているものがあります。そこでハンバーガーチェーンが「キャラクターであるキングバーガーの友達の輪に入ろう」というマーケティングを行い、10代の多くの子供たちが参加しました。しかし、これに対しては「子供達をだましてビジネスに取り込むハーメルンの笛吹きだ!」といったトーンでの批判が一部で出ています。また、PPP(PayPerPost)などのサイトでは、参加者が企業から委託を受け、手数料をもらって商品宣伝のブログを書くことが奨励されています。その結果、極端な場合には商品を一度も使ったことがなくても、商品を褒めそやす中身の薄い、同じようなブログが氾濫する傾向が指摘され始めています。
これは、ステルスマーケティングやアンダーグラウンドマーケティングと呼ばれています。分かりやすく言えば、ステルスマーケティングは宣伝の意図を隠して行う、騙しややらせのコマーシャルであり、倫理上問題だというわけです。
この手のステルスマーケティングは日本でも伸びており、プレスブログというサービスなどで同様の指摘がなされていました。先日には、ミスキャンパスたちの書くスポンサー付きブログの番組が公共放送で放映されたところ、取材に協力した女子大生のブログが炎上した件が報じられました。また、ある大手電機メーカーのいろいろなネット宣伝がステルスマーケティングだという批判は、各所から繰り返し指摘されています。
先進的な米国では、これまでもCBSなどの番組で盛んにステルスマーケティングが取り上げられていました。そしてついに、連邦取引委員会による規制の動きが表面化したのです。この結論はいまだ出ていませんが、早速、米国のPPPもブログが広告である点を広く開示する自主規制を導入しました。同じ指摘は米国のマーケティング協会も行っています。広告であることを開示し、消費者が商品やサービスを実際に消費し、その上で率直な意見をブログや動画に投稿するならば、倫理上も問題ないというわけです。
これならば、横綱の朝青龍が携帯電話のテレビコマーシャルに登場しても誰も文句を言わないのと同じことだというわけです。なぜならば、これは宣伝だと明確に分かっているからです。
なぜステルスマーケティングが消費者の強い拒否反応を呼ぶのか
この点はWeb2.0における大衆表現社会の本質論ですので、ちょっと深く考えてみましょう。Web2.0とは上述した穏やかな環境(新しい社会環境である「コモンズ」)がネット上に出現したという考え方です。コモンズとは、中世での英国の農村における入会地や共有地を意味します。皆で放牧を行ったり、村人が共同で木の実を集める場所、村祭りなどを行う共通の広場のことです。お互いが信頼関係で結ばれ、当然、信頼関係を維持する誠実性や倫理観が重要でした。これは、米国の哲学者ハーディンの社会的ジレンマを指摘した有名な論文「共有地の悲劇」に記されています。
ブログやSNSを支えるWeb2.0という大衆表現社会=ネット上のコモンズは、この信頼関係を維持する誠実性や倫理観によって成り立っています。脆いネットの社会環境においては、誠実性や倫理観の遵守は非常に大切です。
ですから、ステルスマーケティングのような消費者主導の口コミ広告が、誠実性や倫理観に抵触する(反する)対応をするや否や、参加者から大きな拒否反応が出てくるのは当然な結果と考えられます。
だましややらせなどで企業が誠意を見せない場合、それに乗っかって稼ごうとする一部のブログや動画の投稿者、SNSの投稿者に対しては強烈な反発が出てきています。この規制の動きはいずれ米国で規制の対象とされ、早晩、日本にもやってくるでしょう。
Web2.0という大衆表現社会=ネット上のコモンズでのマーケティングを、本質論から理解しましょう。
(野村総合研究所 社会ITマネジメントコンサルティング部 上席研究員 山崎秀夫)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー