EDIは流通業全体のインフラを目指せ【第6回】
「問題解決型IT活用」を実現する情報化時代の経営の在り方
定型業務の効率化・コスト削減ばかりに目を向けたIT活用は情報システム部門を硬直化させてしまう。経営者、CIO、情報システム部門、ユーザー部門の連携なくして戦略的IT活用は実現できないだろう。
経営とは、「ヒト・モノ・カネ」という経営資源を有機的に組み合わせ、加工、移動、交換して利益を得ようという企業活動である。いつの間にかこれら以外に「情報」も経営資源として見なされるようになったが、「ヒト・モノ・カネ」は使えば減るもの、「情報」は使っても減らないことが、両者の相違点である。そこでわたしは、「情報」とは経営資源を上手に動かすための信号、いわゆる「ヒト・モノ・カネを制御するもの」ととらえている。この情報を処理・伝達・記録するのがITである。
定型業務と非定型業務では、生産性追求の方法が異なる
企業活動は、いつも決まった手順で繰り返し行われる定型業務と、手順が決まっていない非定型業務の2つに大きく分けられる。このうち、受発注や給与計算などといった定型業務は、結果が常に一定でなければならない。受注出荷システムなら正確な売上伝票が、給与計算システムなら正確な給与明細書が発行されればよいわけである。
従って、定型業務の生産性を上げるためには、いかに少ない人手と資源で、いかに時間を短縮しながら同じ結果を出すかという、経営資源(ヒト・モノ・カネ+時間)の削減が行われる。式に表すと、「定型業務の生産性=一定の成果÷より少ない経営資源」(分子は一定、分母を減らす)となる。その際の具体的な手法として有効なのが、本コラムのタイトルになっているEDI(Electronic Data Interchange)だ。例えばメーカーが受注業務にEDIを導入すると、これまで受注部門に負荷を掛けていた受注伝票の入力作業が大幅に省力化されるため、全国各地にあった受注センターを1カ所にまとめることも可能になる。一方、卸売業でも発注作業の効率化に加え、仕入情報をメーカーからデータで受信することができるので、入力作業が不要になり、やはり生産性は向上する。
ちなみに、定型業務を行うシステムは基幹系(あるいは勘定系、業務系)と呼ばれ、システム導入歴の長い企業では大型汎用コンピュータシステム(ホストコンピュータ)で処理されることが多い。
一方、マーケティングや企画、分析といった結果が一定ではない非定型業務は、経営資源を一定量だけ投入し、より良い結果を求めていく。例えば、広告宣伝計画においては、一定の人員と予算を投入し、決められた期限内により効果のあるプランを考案する。定型業務のように人員や予算の削減、時間短縮を考える必要はない。式にすると、「非定型業務の生産性=より多くの成果÷一定の経営資源」(分子は増大、分母は一定)となり、定型業務とは違う情報系システムを使って、PCで処理されていることが多い。
CIOこそが企業経営の肝
このように、定型業務と非定型業務では、業務の目的や生産性向上のベクトルが異なるにもかかわらず、多くの企業では、定型業務の生産性追求ばかりに目が向いているのが実情ではないだろうか。
コンピュータを使ったらどれだけ人員削減ができるか、コストをどれだけ下げられるかなど、IT導入から約30年経った今でも、相変わらず経営資源の削減ばかりを追求し、結果として革新力を失ってはいないだろうか。このような状況では、新たな価値を生み出すことはもちろん、経営上の問題解決を図ることもままならない。
さらに、基幹系はレガシーマシン、情報系はオープン系PCと、別々に動いている企業が多いことも問題だとわたしは考えている。人に例えると「思考や論理をつかさどる左脳が十分に発達しないまま、五感をつかさどる右脳が劇的な進歩を遂げた状態で論理的に考えようとしている人」というのは言い過ぎだろうか。このような状況で、最適な結論をスピーディーに導き出すことができるかは疑問である。この点を改善すべく、基幹系をオープン化すれば、これまでボトルネックとなっていた左脳の処理能力が右脳と同等レベルへ引き上げられ、組織としての問題解決力も一段と向上するはずである(※)。
※例えば、夜間のバッチ終了を待たずともリアルタイムで売上実績を把握できるようになれば、欠品による機会損失防止策や在庫過剰にならないような調整を早い段階で実施できる。
なぜ、このようなことになってしまったのか? それは、経営の立場でITの重要性や役割を理解し、ITを使いこなす能力を持ち、的確な選択を行う役員=CIO(Chief Information Officer)を、日本の流通を支える企業トップの多くが育ててこなかったからだとわたしは考えている。
確かに情報システム部門を統括する人員は名目上存在するものの、ほとんどの企業は、コンピュータのことは社内の情報システム部門に丸投げしてきた。さらに、コンピュータを一定の結果を出すための自動化機械と見なし、「省力化・迅速化・ミスの防止」といった効果のみを求め、ひたすらコストダウンを追求した。その結果、時代に応じた高度なスキルを持つシステムエンジニアの育成や調査研究を後回しにするケースは決して少なくなかった。
次第に保守的になっていった情報システム部門は、従来手掛けてきた受注、出荷、在庫管理、請求書作成のような、自分たちが守備範囲とする業務以外はまったく関知しなくなってしまう事例も出てきた。そうこうする間に、ITはより高度な技術を必要とするオープン系へと進化していった。
時代の進化に対応できる情報システム部門が積極的に新たな課題へと取り組む一方、時流に取り残されてしまった情報システム部門は、新技術に対応する能力もスキルもないので、取りあえず古いシステムをだましだまし運用するしかない。だから、別部門が何か新しいことを始めようとすると、「受注業務に支障を来たす」「今月の請求書が出なくなる」などの口実を並べ立てて、真っ先に反対する。いわゆる、社内の抵抗勢力になってしまうのである。
「コンピュータは経費削減のためのツールであり、経営に直接かかわるものではない」というのは昔の考えだ。ITが進化した現在、コンピュータができることは飛躍的に進歩し、問題解決に活用できる可能性は格段に高まった。このことを理解し、ITの新たな流れ、どのように使いこなしていくのかを柔軟に発想できるCIOが必要なのである。
IT環境の整備と経営者の意識改革が不可欠
CIOの重要性が高まる一方で、ITの進化や消費者ニーズの多様化といった環境変化により、非定型業務の代表格といえるマーケティングの手法も劇的に変化した。インターネットや携帯電話を使った市場調査を例に挙げると、調査自体が容易になっただけでなく、コストは著しく低下し、調査スピードも以前よりはるかにアップした。そのため、これまで市場調査を行ったことのない中小企業でも調査が可能になった。
こうした環境変化の中で、どのようなマーケティング戦略が求められるのか? 米国の経営学者であり、現代マーケティングの第一人者でもあるフィリップ・コトラーは、「標的とする市場を効果的に細分化するための評価基準」として、以下の5つを挙げている(※)。
- 測定可能性(市場の中で自社が対象とするセグメントの規模、購買力、特性が測定できる)
- 利益確保可能性(対象セグメントが十分な規模と収益性を有する、同質的な消費者の集団である)
- 接近可能性(対象セグメントに効果的に到達し、製品やサービスを提供できる)
- 差別化可能性(対象セグメントが明確に区別でき、かつマーケティング活動に対する反応も異なる)
- 実行可能性(対象セグメントを引き付けて製品とサービスを提供するために、効果的なプログラムが設計できる)
例えば、地域を細かく分けて(測定可能性)、ある地域に特化した情報を把握できるかどうか(接近可能性、差別化可能性)。その地域に合わせたキャンペーンを(利益確保可能性)、限定的に打てるかどうか(実行可能性)。また、「40代以上の女性で、ヘアカラーをいつも使っている」(測定可能性)というような細かい情報を把握し(接近可能性、差別化可能性)、そこにメッセージを到達させることができるかどうか(利益確保可能性、実行可能性)、といったことが大事になる。
こうした市場の細分化と情報伝達のためにITを使い、アプローチすべき顧客セグメントを競争相手より先に探すことが重要になるだろう。ITリテラシーを持った営業担当者がいれば、地域ごとの消費者特性に合わせたマーケティングも可能になる。
マンマシンインタフェースが高度に進歩し、コンピュータに人間的価値判断をいくらでも盛り込めるようになってきた現在、ITを企業活動に生かすためには、企業が自社を取り巻く環境を理解し、問題解決が図れるようなIT環境を整備すべきである。そのためには、経営者自身もITの重要性や役割を十分理解し、ITリテラシーを身に付けなければならないだろう。情報化時代の経営は、経営者とCIO、情報システム部門、ユーザー部門の連携が不可欠と思える。
※参考文献:『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』フィリップ・コトラー、ケビン・レーン・ケラー著(発行:ピアソン・エデュケーション)
玉生弘昌
株式会社プラネット 代表取締役社長兼執行役員社長
1968年にライオン油脂(現在のライオン)入社後、マーケティング部、総合管理部、システム開発部勤務を経て、1985年にプラネットの常務取締役に就任。1993年より現職。社団法人流通問題研究協会 副会長、事業創造大学院大学 客員教授。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
4
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
-
5
本当に安いPCで十分か? “すぐ重くなる”を防ぐノートPC選びの絶対条件
-
6
Claudeの不可視透かしに批判殺到 著作権消失や誤判定に潜む企業リスク
-
7
100億円の「Linux更新」を回避 みずほ銀行が選んだ“おきて破り”のRHEL延命策
-
8
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
9
LLMの「過学習」、正しく説明している文章はどれ?
-
10
レガシー基幹システムをSAPに統合 山善が突き止めた「標準化と個別最適」の境界線
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー