EDIは流通業全体のインフラを目指せ【第3回】
流通BMSが進展した後のSCM理想像とメーカー・卸・小売の役割
小売・卸間の標準EDIの早期実現に向け、これまでさまざま述べてきた。本稿では標準化されたEDIのメリットを説明するとともに、流通BMSが進展した後のメーカー、卸、小売の役割の変化について述べたい。
EDIを業界インフラとして活用──流通BMS進展後の理想
EDI(Electronic Data Interchange)が標準化されることで各企業が得られる1次メリットは、受発注業務の「省力化」「迅速化」「伝票レス化」「ミス防止」を実現できることである。2次メリットとしては、取引している企業同士が話し合い、EDIを前提としたECR(Efficient Consumer Response:効率的な消費者対応)などの戦略的連携へと進展できることが挙げられる。具体的には、販売実績に基づいて必要在庫数量を算出し、自動的に補充するCRP(Continuous Replenishment Program:連続補充方式)や、小売業と取引先が協力して販売計画を立案・予測し、それに基づいて商品の補充を行うCPFR(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment:製販協働計画予測補充)が可能になるということである。これらにより、商品の補充計画がより正確になり、工場も安定稼働するなど、川上から川下に至るサプライチェーンの効率化が期待できる。
3次メリットは、自社内に蓄積されたデータを分析することで、マーケティングやマーチャンダイジング、カテゴリーマネジメントなど、さまざまな分野の問題解決や創造的プランニングへ応用できることだ。要は、受発注や伝票処理、請求回収などの定型業務はコンピュータに任せ、人間はもっと創造的な仕事に力を注ぐべきということで、これこそがIT本来の活用術だと考える。
以上が個々の企業が享受できるメリットだが、EDIによってn対nのネットワークができれば、業界インフラとしてサプライチェーン全体の機能アップにつながっていく。まさに流通業が目指すべきSCM(Supply Chain Management)の理想像といえるだろう。
データベースの整備・活用も重要
EDI標準化を考えるときに無視できないのが、データベースの整備である。業務系システムで使うデータには、トランザクションデータとマスターデータの2つがある。トランザクションデータとは、発注データや仕入れデータなど、日々発生する取引のデータ(非公開データ)を指す。EDIでやりとりされるのはこのデータで、当該企業以外には秘匿されるべきデータである。
一方、マスターデータは、商品マスターや取引先マスターなど、固定情報が中心のデータをいう。こちらはそれぞれ公開されたデータなので、それらを集積しデータベースとして共有化することができる。商品コードや商品名、サイズ、重量など、各商品の商品情報を一元管理する商品データベースは、EDIをはじめ、物流、マーケティングなど業界共通の財産として幅広く利用できる。流通業界では早くからここに着目し、商品マスターデータの整備を進めてきた。
棚割りシステムが広く使われるようになってきた昨今では、とりわけ商品画像の活用が進んでいる。新商品の発売に先立って、新商品を陳列棚のどこに置くか、そのためにどの商品を棚から外すかをシミュレーションする際に、商品画像は不可欠だからだ。このほか、新製品カタログやチラシ、企画書にも利用できるなど、商品画像の活用範囲はどんどん広がっている。近年、小売業の新たな流通チャンネルとして浸透しつつあるネットスーパーやドロップシッピングでも、画像付きの商品データベースは活用できる。
ちなみに、ネットスーパーとは、“店舗にある商品”をWebサイトで受注し、消費者の自宅に宅配するサービスである。ドロップシッピングとは、“店舗では扱っていない商品”を消費者がWebサイトで注文すると、メーカーや卸から直接発送される宅配サービスのことである。ネットスーパーに関しては、既に大手スーパーマーケットやコンビニエンスストアが参入するなど、高齢化社会への対応を含めて今後の広がりが期待されるビジネス形態となっている。
メーカー・卸・小売の役割と今後の戦略
これからのSCMは、コモディティー化した商品とそうでない商品とに分けて考える必要がある。コモディティー化した商品については、店頭に在庫がなくなったら自動的に補充されていくようなサプライチェーンを作ることが望ましい。
一方、コモディティー化していない商品については、少量・多品種での供給が求められる。個々のニーズが多様化した現在は、個性のない画一的な商品では満足しない消費者が増えてきている。シャンプー1つ取ってもそれが分かる。以前は家族で1種類のシャンプーを使うことが当たり前だったが、現在は家族1人ひとりが自分の好みに合ったシャンプーを選ぶようになった。ダメージケア、スタイリング、地肌ケア……というように、商品のセグメント化が進んでいるわけである。
こうした消費者ニーズの変化をくみ取り、メーカー、卸、小売それぞれが効果的なマーケティング戦略を展開していかなければならない。では、具体的にはどうすべきか?
メーカーは需要創造に注力
既存商品の需要が飽和している現在、メーカーはまだ消費者が気付いていない、ニーズを喚起するような商品を提案し、新たな需要を生み出していくこと、いわゆる「需要創造」が求められている。何年か前に登場し、話題を呼んだ部屋干し用洗濯洗剤はその1例である。洗濯物を部屋に干さざるを得ない単身者や共働き世帯は増えた。しかし、日光を浴びない洗濯物には嫌なにおいが付く。この問題を解決したのが部屋干し用洗濯洗剤だった。最近ヒットしている衣類・布製品用消臭剤なども、需要創造型の商品といえるだろう。
このように、消費者の生活シーンを分析し、そこで発生するさまざまな問題を解決するような商品を作り出すことが、今後のメーカーに一層求められる役割である。
卸売業ならではの品ぞろえ・物流機能
卸売業は多数のメーカーと取引しているため、多様な商品を調達できる。しかも、それらをまとめて効率的に配送するというスキルを持っている。特に日本の卸売業が素晴らしいところは、多頻度バラ納品サービスができることだ。メーカーから届いた段ボールを開封し、商品をバラして、小売店が必要な量だけ納品することができるため、小売店は余分な在庫を持たなくて済む。
さらに、各メーカーの商品情報にも詳しいことから、小売業が今まで取り扱っていなかった新たなメーカーの商品を提案することもできる。そういう意味でも卸売業の存在意義は大きい。今後もこれらの機能を生かし、小売業の役に立つサービスやソリューションを提供してほしい。
小売業は消費者の特性を把握してFSPを実践
消費生活を支える基盤を提供する小売業には、消費者ニーズの把握がより一層求められる。そのためには、POSデータでいつ、何が、幾つ売れたかを把握するだけでなく、顧客ID付きPOSデータやポイントカードなどの分析により、顧客の特性を把握することも大事だ。というのは、ここで得られた情報を基に顧客を分類し、自店への貢献度に応じて付加サービスを提供することで、優良客の維持・拡大を図るFSP(Frequent Shoppers Program)につなげることができるからだ。前述したインターネットによる販売チャンネルも、消費者の特性を把握するには有効な手段といえる。
より良い商品を効率よく安定的に世の中に送り出していくためにも、メーカー、卸、小売それぞれが標準化された業界インフラを使い、流通システム全体を効率化することが必要である。
筆者紹介
玉生弘昌
株式会社プラネット 代表取締役社長兼執行役員社長
1968年にライオン油脂(現在のライオン)入社後、マーケティング部、総合管理部、システム開発部勤務を経て、1985年にプラネットの常務取締役に就任。1993年より現職。社団法人流通問題研究協会 副会長、日本チェーンドラッグストア協会 EDI推進委員会 顧問会議 座長。
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