【事例】P&G、世界最大級のシェアードサービスセンターから学ぶ構築のポイントSAPアプリケーションを活用

ERPをグローバルで利用する企業で構築が増えているシェアードサービスセンター。P&GはSAPを活用した世界最大級のシェアードサービスセンターを構築した。その元担当者が構築のポイントを説明する。

2013年01月15日 08時00分 公開
[垣内郁栄,TechTargetジャパン]

 300以上の商品ブランドを世界180カ国で販売、12万7000人の社員を抱える米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は世界最大の一般消費財メーカーだ。「パンパース」「ファブリーズ」などの商品になじみがある方も多いだろう。そのP&Gは世界最大級のグローバルシェアードサービスセンター「グローバルビジネスサービス」(GBS)を運用している。GBSはどのように設立され、運用されているのか。同社の元幹部でGBSを担当していたティム・ビーエル氏が、SAPジャパンが主催したセミナーでシェアードサービスセンター構築のポイントを説明した。

プロフィット、コストセンターを明確に

元P&Gディレクターのティム・ビーエル氏 元P&Gディレクターのティム・ビーエル氏

 P&Gはシェアードサービスセンターの利用を1999年に開始した。同社では90年代後半から世界各国での事業が急拡大。各拠点の重要性が増したことを受け、各拠点にITや会計、人事の担当者を配置し、それぞれのやり方によるオペレーションを認めてきた。ほとんどの国でSAPのアプリケーションを使っていたものの、「勘定科目が異なってもOKだった」(ビーエル氏)。

 しかし次第に拠点に運用を任せるやり方の弊害が出てきた。拠点の自主性を認めることで拠点のビジネスは迅速になるが、P&G全体でみると重複する業務が多く、本社に提出されるリポートなどの品質などもバラバラ。また各拠点の経営陣はバックオフィス業務に時間を取られ、商品戦略などビジネスを成長させる決定に時間を割くことが難しくなっていた。「パンパースを製造するためのコストを各国で比較するだけでも膨大な時間がかかっていた」(ビーエル氏)

最初にビジネスユニットを再編

 この課題を解決するためにバックオフィス業務を統合するシェアードサービスセンターの設立を決めた。しかし、P&Gがまず手を付けたのは事業の再編だった。「ビューティ・グルーミング」「ヘルス」「ハウスホールドケア」と3つのグローバルビジネスユニットに事業を再編し、それぞれに研究開発や生産、マーケティングなどの機能を持たせた。この3つのビジネスユニットは世界の各拠点を横断的に統合する組織で、各拠点の協力を阻害する地理的な壁をできるだけ取り除くことを目指した。

 「この3つのビジネスユニットがプロフィットセンターで、それ以外はコストセンター」(ビーエル氏)。GBSは、コストセンターと位置付けられるバックオフィス業務を統合し、全社的な効率化やコスト削減を果たすことが目的だ。具体的にはIT、会計、人事、購買、施設管理の各業務を統合した。プロフィットセンター、コストセンターを明確に分けることで、シェアードサービスセンター構築の目的が明確になった。「ビジネスユニットをコア業務に集中させることが目的だった」(ビーエル氏)

P&Gの事業構造。GBSはコストセンターの位置付けで全社の事業をサポートする

3段階でシェアードサービスセンターを拡張

 GBSの設立は3段階に分けることができる。1999年の設立当初はまだITや会計、人事など、それぞれの業務別にシェアードサービスセンターを立ち上げただけで統合されていなかった。その後、各シェアードサービスセンターが持つ機能を拡充して、複数事業のバックオフィス業務をサポートできるようにした。そして3段階目では最終段階としてグローバルで1つのシェアードサービス組織として運用できるようにした。

急激な変化を避けて人の問題を解決

 シェアードサービスセンターの構築で難しいのは、バックオフィス業務にもともと関わっていたスタッフの扱いだ。最終的には1つのシェアードサービスセンターに関わることになるが、そのためには就業地域の変更やトレーニングなどが必要で時間がかかる。P&Gは統合へのプロセスを3段階にすることで急激な変化を避け、スムーズにGBSに移行できた。

 GBSは現在、P&Gの全地域、全部門をサポートする。そのサービス数は170以上に及ぶ。ビーエル氏は「1つのERPBI(ビジネスインテリジェンス)によって企業全体の標準化、統合、整合をサポートする。重要なのはエンドツーエンドで業務プロセスをコントロールすることだ」とシェアードサービスセンターを支えるITシステムを説明した。

85%以上の業務は標準化が可能

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