英国の放送局BBCは、従業員向けシステムの開発に「SAP BTP」を導入した。導入の狙いやその成果は。
英国の国営放送局BBCは、人材管理システムの刷新を進めている。そこで重要な役割を果たしているのが、SAPのアプリケーション開発基盤「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)だ。
BBCでシステムエンジニアリングマネジャーを務めるゲーリー・ミッジリー氏によると、BBCは視聴者向けのシステムに先端技術を採用する一方で、従業員向けの業務アプリケーションにはSAPのERPである「SAP ERP Central Component」(ECC)を利用していた。
ミッジリー氏は2016年、「SAP ERP Human Capital Management」(SAP HCM)アプリケーションの管理者としてBBCに入社した。当時、同社では標準的なECCから、SAPのアプリケーション群「SAP Fiori」(Fiori)への移行計画が進んでいた。Fioriはセルフサービスやモバイルアプリケーションが利用可能なタイル型のUI(ユーザーインタフェース)が特徴だ。
しかし、この移行は容易ではなかった。SAPと連携しながら、カスタマイズされたSAP HCMアプリケーションを排除し、標準化を進め、HCMをベースにした業務プロセスをFioriに適応させるまでに数年かかった。ここでの目標は、業務プロセスを効率化し、Fioriアプリケーションを開発することだ。
「Fioriアプリケーションの実行環境である『SAP Fiori Launch Pad』や標準アプリケーションなど、利用可能な選択肢を検討した。現在稼働しているようなカスタムアプリケーションの構築も検討していた」とミッジリー氏は述べている。
一部のアプリケーションは、従業員の休暇や欠勤申請といった内部の人事プロセス向けに開発した。また紛争地域から報道する記者などの従業員が健康管理や危機回避に役立つ支援を受けられるよう、情報提供を目的としたウェルビーイングアプリケーションも開発した。
より体系的な開発環境を実現するために、ミッジリー氏は2020年から、SAPの「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)の使用を開始した。SAP BTPはデータの管理や分析、人工知能(AI)機能搭載したPaaS(Platform as a Service)だ。同氏は「以前の開発は基本的に無秩序で、混沌としており、構造化されていなかった」と説明する。「開発プロセスの一部をSAP BTPに移行したことで、開発管理が容易になった、さらに概念実証(PoC)を通して、開発中のアプリケーションについてより賢明な判断を下せる開発環境を構築できた」(同氏)
ミッジリー氏によると、SAP BTPは新機能の追加やソフトウェアの更新が続けられている。BBCのSAP HCM開発チームは、SAP BTPに組み込まれた技術をさらに活用するための検討を続けている。「当社はSAP BTPを小規模に利用するだけでなく、より利用規模が大きいソフトウェアの開発を見据えて、各部門でSAP BTPをどのように活用できるかを検討している」と彼は説明した。
SAP製品管理ツールを手掛けるBluestonexの「BTP Monitor」は、SAP BTPアプリケーションの管理やモニタリングができるツールだ。ミッジリー氏のチームはこのツールを利用し、従業員のSAP BTPアプリケーションの利用状況を分析した。その結果、最も使用頻度が高いのは休暇、欠勤申請のアプリケーションだった。月曜日と火曜日は勤務時間変更などの処理量がピークを迎え、金曜日は支払い処理アプリケーションが特に活発に利用されることも分かった。
「いつ誰が何をしているかというトレンド分析がうまくいき、24時間365日稼働する当社の事業内容をより深く理解できるようになった」とミッジリー氏は述べる。「大半の業務は9時から17時の間に実行されるが、グローバルの視点で見れば、24時間いつでも従業員が活動していることになる。週末にアプリを利用する従業員もいるため、業務時間外に処理が完了していない場合のサポート体制を整えている」
ミッジリー氏のチームはBTP Monitorのトレンド分析機能を活用して、アプリケーションの利用状況をより深く理解できるようにしている。例えば分析によって、従業員がある支払処理を金曜日まで待って実行する傾向があることが判明したため、アプリケーションの入力フォームと業務プロセスを改善した。具体的には、1つのフォームで複数の支払い処理を可能にするよう変更した。ミッジリー氏は次のように話す。「従業員が金曜日まで全ての作業を保留にして、金曜日に20個の入力フォームを処理していた状態から、3、4個のフォームに入力するだけで済むようにした。アプリケーションの使用状況を理解することで、業務プロセスが改善できる」
BBCはBTP Monitorを使い、従業員がアプリケーションを使用している場所(デスクトップ、モバイル、タブレット)や、アプリケーションの動作環境も追跡している。
ミッジリー氏の開発チームは、業務アプリケーションをモバイル端末で利用可能にすることに力を入れている。同氏によると、どのアプリケーションがどの動作環境で使用されているかを把握することが、開発方針を決めるときに重要な役割を果たしているという。例えばモバイル端末での使用が少ないアプリケーションは、複雑になりがちなモバイル版の開発を省略し、デスクトップアプリケーションの開発に集中させている。
「アプリケーションの使用状況のモニタリングには、『監視社会的だ』という批判の声があるかもしれない。しかしより良いアプリケーションを生み出すための意思決定に必要なプロセスだ」と、ミッジリー氏は説明する。
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