Smarter Retailing Forumインタビュー:セイコーエプソン編
米国主導でPOS標準化が進む現状を変えたい──日米間で奮闘するセイコーエプソン
Smarter Retailing Forum参加企業の中で、唯一全米小売業協会のIT標準化団体の幹事企業に名を連ねるセイコーエプソン。常に米国主導でPOS標準化が進む現状にあって、日本の発言権を高めるために奮闘を続けている。
日本と海外の橋渡し役を引き受けてきたセイコーエプソン
日本を含む世界の流通業界において、2011年はPOSシステムの変革の年になるのではないだろうか。次世代のPOS仕様策定に、日本のSmarter Retailing Forum(SRF)の活動が主導的役割を果たしているということは、前回の「『注意すべきは国内POSのガラパゴス化』──世界のPOS発展を導く日本発の標準化提案」でも紹介したが、米国の流通業界団体と密接な強力関係を築き、日本の発言力を高めるために奮闘してきたのが、SRFのステアリングコミッティの1社であるセイコーエプソンである。
家庭用インクジェットプリンタ「カラリオ」や液晶プロジェクターなど、情報機器メーカーとして知られるセイコーエプソンは、1942年、長野県諏訪市にメカニカルウオッチの組立・部品製造を行う大和工業として創業。その後1959年に第二精工舎諏訪工場と合体、社名を諏訪精工舎とし新しいスタートを切る。そして1964年開催の東京オリンピック向け公式計時装置として卓上小型水晶時計「セイコー クリスタルクロノメーター」や計測結果を印刷する「プリンティングタイマー」を開発。それが1968年発売の世界初の小型軽量デジタルプリンタ「EP-101」に結実し、折しも電卓の普及に伴う印刷需要によって累計出荷台数144万台を記録する大ヒットとなった。そのEP(Electric Printer)の子どもたち(SON)となる製品群を世に送り出したいとの思いから、1975年に「EPSON」ブランドを制定。以来、多くのEPSONブランド製品が誕生、現在に至っている。
セイコーエプソンのプリンタは海外でのシェアも高く、ベストセラーブランドを数多く持っている。中でも業務用小型プリンタ「TMシリーズ」は世界シェアで約40%を占め、「TM-T88 Vシリーズ」はサーマルプリンタのデファクトスタンダードとなっている。堅牢性、信頼性、互換性の他、部品の永続的な供給体制も評価されている理由だという。
常に米国主導で標準化が進む現状
そうした海外での知名度や影響力を生かし、セイコーエプソンはSRFのOPOS技術協議会(OPOS-J)(※1)の国際部会長(海外派遣団長)を務め、日本と海外の橋渡し役を引き受けている。また、OPOS-Jの下部組織である次世代POS研究会(※2)のビジネスシナリオ分科会および技術検証分科会にも所属して精力的な活動を行ってきた。そのキーパーソンとなっているのが、セイコーエプソン ビジネスシステム事業部 BS企画設計部 主査 古幡 整(ただし)氏だ。
(※1)OPOS技術協議会:SRFで標準技術策定活動を行う技術協議会の1つ。オープンで多様なPOS端末の実現とPOSアプリケーション開発の生産性向上を目指す。米国および欧州のOPOSワーキンググループ、全米小売業協会(NRF)の ARTS-UPOSと密接に連携を保ちながら活動を展開し、日本市場独特のPOS周辺装置仕様の国際統一仕様への反映、策定仕様の普及などを行っている。
(※2)次世代POS研究会:XMLやWebサービスの他、ARTS、UPOS、OPOS、POS logスキーマなどの業界標準技術・仕様を活用した次世代POS仕様と実装手法研究を行う OPOS・.NET 流通システム協議会内の下部組織。国際仕様を策定しているARTS-UPOSで検討中のWS-POS仕様を研究しフィードバックも行っている。
OPOS技術協議会や次世代POS研究会をはじめとするSRFの協議会・研究会については、本連載の第1回「『さらなるユーザー企業の参加が重要』──Smarter Retailing Forumとマイクロソフトの流通IT標準化活動」を参照してほしい。
「日本の標準化活動の成果を米国のNRF(National Retail Federation:全米小売業協会)やARTS(the Association for Retail Technology Standards)に報告するとともに、米国での動向を収集して日本にもたらすという役割を担ってきました。そうした活動から見えてきたのは、ITへの理解の深さや、先進的な技術の深掘りに関して、米国は日本のはるか上を行っているということです。日本もスピード感を持って追従してはいるものの、常に米国主導で標準化が進んでいました」と古幡氏はいう。
米国・ワシントンDCに本部を置くNRFは、米国の大手リテーラーを中心に約2500社が加盟する世界最大の小売・流通業者の団体で、小売業発展のための業界関係者に向けた教育プログラムの開発や広報活動などを行っている。また、流通業界にかかわるIT技術標準化を進めるARTSをその傘下に置く。
ARTSには、Wal‐MartやTargetなどの大手リテーラーから派遣されたメンバーと、IBMやMicrosoft、Oracle、セイコーエプソンなどの流通システムベンダーから派遣されたメンバーが集まる。そして、大手リテーラーの意向で標準化の要求が示され、ベンダーがそれに沿って仕様を作り、リテーラーとベンダーが評価し合い標準を作り上げていくという構図が形作られている。
ARTSの主なコミッティ(小委員会)には、XMLのスキーマとメッセージセットを標準化し小売業向けアプリケーションに統合するための「ARTS XML」、650のテーブルを含む4500以上のデータ要素を定義する「ARTS Standard Relational Data Model」、ベンダー独自のプラットフォームに依存しない中立のインタフェースフレームワークを提供する「Unified POS」(UPOS)、そして小売業者を支援するための標準的なRFPライブラリを開発する「Standard RFP’s」の4つが存在する。そして、セイコーエプソンはUPOSのメンバーでもある。
UPOS 2.0とWS-POS 1.1の目指す技術は同じ
古幡氏によると、ARTSに近年大きな変化が見られたという。1つは、UPOSの老朽化におけるメジャーバージョンアップの動きだ。UPOSバージョン1が登場してはや10数年。毎年アップデートを繰り返し、現在はバージョン1.13となっているが、技術の進歩に対して古さは否めず、バージョン2への検討は始まっているという。
そしてもう1つの変化は、UPOSの中に次世代のWeb Service POS Initiative(WS-POS)が生まれたことだ。Webサービスは、さまざまなプラットフォーム上で動作する異なるソフトウェア同士が相互運用するための標準的な手段を提供するものだ。実装においてはHTTPをトランスポートとして、SOAPと呼ばれるXML形式で情報をやりとりするためのプロトコルを用い、Web Services Description Language(WSDL)という言語で定義する。ARTSで定めたXMLをPOSシステムにどうやって取り入れるかといった標準化策定が、WS-POSの使命となる。
そのWS-POS初となるバージョン1.1の仕様の大半は日本のOPOS-Jが作り上げ、資料は全て提出されており、後は承認を待つばかりだという。
古幡氏は、「UPOS 2.0もWS-POS 1.1も、目指す技術はWebサービスとXMLによる標準であることに意見は一致しています。しかし、UPOSは既存のアプリケーションを生かす形でのWebサービス化を目指しているのに対し、WS-POSは全く新しいアプリケーションをWebサービスで作り上げようとしているところに大きな違いがあります」と説明する。
WS-POSがもたらす日本の流通業へのメリット
XMLとWebサービス化により、POSの将来像に大きな変化があると考えられている。その1つが、Webブラウザさえあればシステムが動くメリットを生かせることだ。WS-POSを前提としたシステムでは、従来のPC型POS端末とバックエンドシステムとの一体を前提とした形から、プリンタやバーコードスキャナーの共有、Kiosk端末との連係、一般のWebサービスとの連係など、柔軟なシステム構成が可能になる。
「クラウド側にデータを置き、店舗にPOS端末本体がなくても決済処理は可能になることから、POSの最大の課題だったHDDの障害やバックアップへの投資、POSシステムの冗長化などから解放され、従来とは異なった付加価値をリテールサービスに与える可能性を秘めています」
もう1つの変化としては、ベンダーが用意するPOS専用端末ではなく、iPhoneやiPadなどのコンシューマー機器からインターネット経由でPOSシステムへのアクセスが可能になることだ。顧客が自分のiPhoneで決済可能な環境を作ることができれば、店内にPOS端末は不要になりスペースの有効利用ができる他、決済処理の迅速化も図られる。
「こうした変化は、特に日本の流通業に大きなメリットがあります。これまで流通系システムは大手システムベンダーに任せて構築していたため、自ずとベンダー都合に沿ったシステム選定・構築となり、ベンダーロックインの傾向が見られました。しかし今後は、端末とシステムとアプリケーションを自由に組み合わせて、自社のビジネスに最適なPOSシステムの構築が可能になるでしょう」と古幡氏は指摘する。
日本が作り上げた世界標準を披露
2011年1月9日~12日(現地時間)に米国ニューヨークで開催される「NRF 100th Annual Convention & EXPO」では、日本からも古幡氏らSRFの関係者が参加し、WS-POS v1.1の発表とデモを行う。iPhoneやiPadを使った場所を取らないリモート型のPOSシステムや、クレジットカード決済を対象とした混雑緩和のためのラインバスター型POSシステムといった概念が披露される見込みだ。
その後、日本で3月に開催される「リテールテックJAPAN 2011」でも発表することで、WS-POS v1.1を日本国内に展開することになるという。
常に米国と日本の間で調整の矢面に古幡氏が立ち、従来は米国の決定を日本に伝えることが主だったが、今回は逆に日本からの提案を積極的に発信しているところがうれしく感じているという古幡氏。「その新たな技術トレンドを日本のPOS流通にどのように組み込んでいくか。具体的に検討する段階に入ってきました」
日本のPOS業界が手本とすべきはARTSの姿勢
そして今後、日本のPOS業界が目指すべき方向性について、古幡氏はARTSの標準化の姿勢を手本にすべきではないかと提案する。
「米国では、リテーラーや流通企業が目指す方向性・リクエストに対して、デバイスベンダーが業界を挙げてソリューションを提供できる体制作りを行っています。情報を公開して透明性を高めているので、全体を見据えた中で改善の方針を探ることができます。日本も業界としてその方向に向かうべきでしょう」
そこで重要なのは「世界標準」だという古幡氏。製品やサービスが標準に準拠しているならば、ユーザーは気兼ねなく製品やサービスを選択でき、ベンダー側のビジネスチャンスにもつながり、Win-Winの関係になっていくと期待を述べてくれた。
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