企業向けシステムを構築するパブリッククラウド
エンタープライズクラウド開花予想 ~クラウドEXPO観戦記(前編)
大盛況に終わった2011年春のクラウドEXPO。クラウドベンダーの動向やユーザー企業のクラウドへの意識は、2010年と比べてどう変化したのか。また、今後の動きも予想する。
クラウドコンピューティング業界最大のイベントが2011年も盛況のうちに幕を閉じた。2011年5月11日~13日に東京ビッグサイトで開催された「第2回 クラウド・コンピューティングEXPO【春】」(以下、クラウドEXPO)は、初年度の2010年を大幅に上回る180社以上の出展があるなど、クラウドの「盛り上がり」を十分に感じさせるものであった。筆者は、出展者と来場者の両方の立場として、2年連続でフルに参加する機会を得た。会場で感じたことや学んだことを記しながら、今後のクラウド業界の動向を占ってみたい。
なお、本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」はこれまでに、パブリッククラウドを使った企業向けシステム構築について解説してきた。この記事も「企業向けシステムとして利用できるパブリッククラウド」に重点を置いて筆を進める。
実は「クラウドではないもの」も多い
NIST(米国国立標準技術研究所)などがクラウドの定義(参考:「エンタープライズクラウドを構成する4つの利用モデル」)を試みているが、依然として日本のビジネスの現場では「クラウド」の定義や解釈が多種多様である。2010年は、出展されているソリューションの中で、「それはどこがクラウドなのですか?」と思わず聞きたくなるものが多数見受けられた。どちらかというと明らかにクラウドと分かるものより、明らかにそうでないものの方が圧倒的に多かった記憶がある。2011年は、そのような展示はさすがに減ったが、それでも依然として「どう見てもクラウドとは思えない」ソリューションが少なからず残っていたのも事実だ。例えばオンプレミス型の業務アプリケーションや各種デバイスなどである。説明員の方も正直で、ツッコミを入れると、無理にクラウドだと言い張る方はほとんどおられなかった。クラウドという、集客力の大きいイベントならではの一種の「にぎわい」と見ておくべきなのだろう。
災害対策関連がめじろ押しだが、ハッキリしたものは少ない
2011年3月の東日本大震災の影響か、ディザスタリカバリ(DR)対応をうたったソリューションも目立った。例えば遠隔ファイルサーバや、スマートフォンなどを使ったモバイル/在宅業務システムなどが提案されていた。あえて意地悪く言わせてもらえれば、これらはDRの中核をなすソリューションではなく、DR「にも」使える周辺ソリューションにすぎない。確かにDRの中核部分は、ユーザー企業の状況によって一品一様であり、単純にメニュー化やサービス化するのは困難だろうとは思うが、今、ITによる災害対策関連でのユーザーのニーズは明らかに自社のDRをどうするか、というコアな課題の解決である。実際、弊社のブースにも同様の相談が多く持ち込まれていた。また、本「クラウドEXPO観戦記」の後編で掲載するAmazon Web Services(AWS)やインターネットイニシアティブ(IIJ)は、DRシステムの構築に関連する講演が大盛況だった。展示の方にも、もう少し踏み込んだソリューション提案があるのではないかと期待していたのだが、この観点では見るべきものが少ない印象で、やや残念であった。
「勉強」から「実務」へとステージを上げた訪問者
前述のように、筆者は2年連続で出展側に立ち、お客さまと接してきた。主な役割は、ブース内の商談スペースで、個別のお客さまのご相談に応じることであるが、2011年は2010年と比べてお客さまの雰囲気が大きく違っていた。2010年のお客さまは、
- ユーザー部門(業務部門)の方が中心
- クラウドに関する勉強や情報収集が目的
- IT管理部門に依存せずにクラウド利用で業務の自由度を上げたい、という希望がある
- 時期的には、半年~1年かけて勉強ないし検討する
という方が多かったように思われる。一方2011年は、
- IT管理部門の方が中心
- 実際に社内システムの有力な選択肢としてクラウドを検討している
- 新たにIT資産を保有したくない、TCO(Total Cost of Ownership)を下げたい、DRサイトを構築したいなどの希望がある
- できれば2011年の夏までにクラウド導入のめどを付けたい
という、具体的な相談が主流であった。
明らかにこの1年でクラウドへのユーザーの理解は進んでおり、クラウド利用が企業システムの中核として現実解となりつつあることが感じられた。
本格的なアプリケーションはまだ少ない
企業システムにおいてクラウドを即戦力として使うことを考えると、アプリケーションをクラウド型で提供するSaaS(Software as a Service)に注目すべきなのではないだろうか。筆者はこの観点からSaaSソリューションを重点的に見て回った。ところが、展示されているものの大半は、IaaS(Infrastructure as a Service)関連ないし周辺ソリューションであり、SaaSは展示自体が少ないように見受けられた。展示されていたSaaSやアプリケーションの多くも、内情を取材してみると次のいずれかであるようだ。
(1)通常はアプリケーションをオンプレミス型で提供しているが(ライセンス販売)、クラウドに乗せることも可能とするもの
(2)アプリケーションをSaaSで提供しているが、ユーザーは中堅・中小企業に限定しており、大企業向けにはオンプレミスで導入することを前提としているもの
(3)どのような企業規模でもクラウドで利用できるアプリケーションだが、中核業務をカバーするものではないもの(メールやポータル、社内コミュニティー管理など)
一定以上の規模の企業向けに業務アプリケーションをSaaSで提供すると明確にしているブースは弊社を含め1、2社しか見当たらない状況だった。2012年度以降はエンタープライズの中核業務用アプリケーションを展示するベンダーが増えてくることは予想に難くなく、クラウドで得られるユーザー企業の利便性はますます高まると推察される。
以上が2011年のクラウドEXPOの総合的なインプレッションである。なお本稿で記したことは筆者の主観と取材に基づいており、事実と異なる点があれば筆者の責によるものであることを念のためにお断りしておく。
「クラウドEXPO観戦記」の後編(編注:後編は2011年5月30日掲載予定)では、本連載「企業向けシステムを構築するパブリッククラウド」で過去に取り上げたクラウドベンダーを中心に、主要なブースの概況を紹介するのでお楽しみに。
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