CIOの知恵袋:SAP ERP運用編
導入したSAP ERPから効果を最大限引き出す、その仕組みは?
コストを掛けて導入したSAP ERPの効果をどう享受するのか。そのためには改善効果を評価し、効果を引き出すための仕組み作りが必要となる。
これまで「CIOの知恵袋:SAP ERP」では、SAP ERP導入を成功させるヒントについて紹介してきたが、SAPシステムは導入したからといって即効果が出るものではなく、効果を引き出すための仕組み作りが必要である。つまり、改善効果を評価する枠組みを定義し、継続的な評価を行い、それを改善活動へ活用することが大切になるのだ。
SAPシステム導入効果の設定
システムの導入効果は、プロジェクト前半の計画フェーズで定義され、その後プロジェクトは要件定義・設計・構築の各フェーズへと進んでいく。ところが稼働直前・直後になると、プロジェクトメンバーは稼働させることに注力し、当初掲げたプロジェクトの目標は忘れられてしまうことが多い。
プロジェクトリーダーは、プロジェクトとしてどのように効果を出すかという観点で、プロジェクト要所での継続的な効果の確認が求められる。本稿では、SAPシステムの導入効果を引き出すポイントを整理していきたい。
※なお、企画フェーズにおける導入効果設定の観点・事例については、「SAP ERPの導入効果を示すには」を参考
効果測定のための仕組み作り
SAP ERP導入後に効果を引き出すには、稼働前に効果測定対象の業務プロセス、数値から評価対象の指標(KPI:Key Performance Indicator)を決めた上で、稼働後に継続的なKPIの測定を行う。そしてKPIの状況から現状の問題点を分析し、改善活動につなげていくことが求められる。効果測定のための仕組み作りには、3つのポイントが存在する。
(1)標準プロセス/KPIの設定
効果測定をしていくに当たり、各業務プロセスのユーザーと標準プロセスを定義し、標準プロセスで目標とする基準を合意することが重要となる。ユーザーと合意した標準プロセスは、「SAP Solution Manager」「ARIS Business Architect for SAP」などの業務プロセス管理ツールを使うことで、全社での共有や要件変更時の管理が容易になる。
標準プロセスをユーザーと合意した後、評価対象のKPIと目標とする基準を設定し、ユーザーと継続的に確認を行うことで、システムの改善点を抽出することが可能となる。
(2)SAPシステムにおけるデータ収集
SAP ERPは入力されたデータが自動的にデータベースに収集される。例えば、ユーザーが伝票を登録した場合、ユーザーが入力した伝票上の項目に加えて、伝票登録を行ったユーザーのIDや登録日時などが自動的に収集される。また、伝票変更時には変更項目・内容などが自動的に収集される。
(3)分析ツールの導入
収集した膨大なデータから問題を特定し、原因を追及していくには、「ARIS Business Optimizer」のような分析ツールの導入も有用である。分析ツールを利用することで、標準プロセス上の目標達成に対するボトルネックとなっている部門・取引種類の特定、またプロセス間の比較やシミュレーションといったより高度な分析が可能になる。
遅延原因をオペレーション、システムの両面から分析
次に効果測定の進め方についての事例を紹介する。
会計領域 月次決算処理日数
グループ会社の会計業務・システムの統合を目的としたプロジェクトの事例で、SAP ERP導入後の月次決算の標準スケジュールを作成した。稼働開始後に月次決算所要日数を測定し、遅延したプロセス・部門の特定を行った。遅延した原因をユーザーオペレーションとシステムの観点で分析し、翌月以降の改善点の抽出・対応案の作成を実施した。
このプロジェクトでは、生産現場から上がってくる製造原価を経理部門で収集・加工するプロセスに問題があることが判明した。改善案として、製造原価のマニュアル計算のプロセスについて見直しを行い、製造原価の自動計算および不正データの可視化を可能にした。また、不正データについては、分析ツールを活用してSAP ERPのデータベーステーブルから伝票入力部門、ユーザー、日時、取引種類などの情報を取得・分析した。そして生産現場における実績日時の入力間違い、取引種別の選択間違いなどの問題を洗い出し、オペレーションルールの見直しを行った。
結果、改善実施後の月次決算では、製造原価収集・加工プロセスの所要時間を大幅に削減し、月次決算全体のスケジュールを短縮することができた。
SCM領域 部門間の伝票入力プロセス
顧客への納期順守率改善を目的としたプロジェクトの事例。システム導入後の各部門での伝票処理プロセスの改善効果を測定するため、月当たりの伝票処理件数・各プロセスの所要時間などをKPIとして定義し、これらの実績データの収集を行った。前年度同月データを基にあらかじめ伝票処理件数の目標値を設定しておき、この目標数と実績値と比較するなど、さまざまな角度から分析を行い、ボトルネックになっているプロセスの特定、原因となっているシステム課題、ユーザーオペレーション課題の抽出を行った。
このプロジェクトでは、受注から出荷までの入力タイミングを分析していくと、本社と製造子会社の間で受注・発注データの連携に問題があることが判明した。製造子会社の出荷状況が本社側で把握できておらず、本社側での荷ぞろえ、出荷作業の遅延を招いていた。
改善案として、SAP ERPの標準データ連携ツールを利用して自動的に受発注データの同期を行う仕組みと、各伝票の処理ステータスを両社から伝票フローとして確認できる仕組みを構築した。また、本社と製造子会社での日次・月次での伝票処理フローおよび伝票入力期限のタイムラインの整理を行い、伝票ステータスの把握方法、オペレーションルールについて追加のユーザートレーニングを実施した。これらのシステム改善、業務改善により、従来深夜までかかっていた出荷確認作業を定時までに完了することが可能になった。
SCM領域 製品原価見積もり
グローバルでの製品原価見積もりプロセスの再構築を目的としたプロジェクトについての事例。SAP ERPの原価積み上げ機能を利用し、原材料から完成品まで積み上げた見積原価と実績値の比較分析を行った。原価センターリポートを利用して、複数拠点・部門を横ぐしでコスト比較し、さらにグローバル拠点の原価の予実を横並びで比較していく中で、各拠点の実績収集プロセス、ルールの認識ズレが判明した。そのため、原価見積時の原材料の使用予定数量に関する考え方、製造実績を収集する工程単位の決め方などの見積もり基準の見直しを行い、グローバルの各拠点へ展開した。原価見積もりプロセスを見直したことで、生産領域の予算精度向上、拠点間での原価比較による生産拠点見直しにつなげることができた。
継続的な効果創出のためには
定期的に効果を測定した上で達成状況を把握・分析し、業務プロセス、システムの問題点、改善点を洗い出すことで、継続的な改善につなげることが可能となる。継続的な改善には、ユーザーを巻き込んだPDCAサイクルの実践、経営層へのタイムリーな報告がポイントとなる。
(1)継続的なPDCAサイクルの実践
効果測定・分析結果を基にユーザーとの定期的なコミュニケーションを実施し、共同で改善案作成を行う。ユーザーと一体になったコミュニケーションを繰り返していく中で、新たな改善機会を抽出し、対応策を実施していくことで、継続的に効果を出していくことが可能になる。
(2)経営層へのタイムリーな報告
達成状況や改善案を経営層に対してもタイムリーに共有していくことが重要である。経営層への報告をタイムリーに行うことで、経営層からの経営視点でのフィードバックをもらい、目標の見直しや改善策に活用することが可能になる。また、経営層への報告を行うことで、プロジェクトメンバーに緊張感を持たせ、目標として掲げた効果に対してのコミットをより強固にすることができる。
三浦知行
アクセンチュア株式会社
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ シニア・マネジャー
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