失敗して分かった「データを確実に収益につなげる方法」
大阪ガスの経験に学ぶ「データ活用、3つの勘違い」
分析支援ツール/サービスが年々充実していながらデータをビジネスの成果につなげられない理由は何なのか? 大阪ガスの分析専門組織の事例から、見落としがちなデータ活用の鉄則を学ぶ。
ビッグデータのトレンドに乗って、BI(ビジネスインテリジェンス)や分析支援サービスが複数のベンダーから提供されている。だが、分析を行うための手段が充実していながら、データ活用の成功事例はまだ多いとはいえない。特に企業のデータ活用を阻んでいるのが「データをどう生かせばいいか分からない」「どうすればビジネスの成果につなげられるのか分からない」という問題だ。
この問いに対する1つの回答といえるのが、2013年5月27日、28日に東京・品川で開催された「ガートナー ビジネス・インテリジェンス&情報活用サミット 2013」で紹介された大阪ガスの事例だ。同社は分析の専門組織、「ビジネスアナリシスセンター」を組織し、10年以上にわたって多数の分析結果をビジネスの成果に還元してきたという。本稿では、大阪ガス 情報通信部 ビジネスアナリシスセンター所長 河本 薫氏の講演「分析力を武器とするIT部門になるには?」から、分析を組織に根付かせ、効果を引き出すための鉄則を紹介する。
分析専門組織を立ち上げても、無償対応では便利屋になってしまう
大阪ガス 情報通信部 ビジネスアナリシスセンターは9人のスタッフで構成。年間に30以上の分析プロジェクトを担当している。データ分析というとマーケティング部門や製造部門などでの活用が想起されるが、同センターは財務部門、企画部門なども含め、グループを含めた大阪ガスの全組織を対象に分析ソリューションを提供しているという。
特徴は、部門として独立採算制を取り、有償でソリューションを提供していること。社外の分析コンサルティング会社と変わらない立ち位置で責任感、緊張感を持って業務を展開しているという。河本氏は同センターについて次のように解説する。
「有償でソリューションを提供していることには狙いがある。分析専門組織というと『ビジネス部門から依頼を受けて分析を始める』と思われがちだが、われわれも当初はそのスタイルで業務を行っていた。しかし無償かつ受け身のスタンスでは、ビジネス部門のスタッフが自分でできるような分析を際限なく依頼される“便利屋さん”になりがちだった。そこでわれわれから施策を提案し、予算が付いたら実施するスタイルに変えた。受け身ではなく、分析力を生かしてビジネス部門に刺さり込んでいくスタイルに変えてからうまく回るようになった」
実績も豊富で、これまでに100以上のソリューションをビジネス部門に提供してきた。その一例が、ガス漏れが発生した際、現場に出向く緊急車両の配置効率化だ。大阪ガスが持っている過去10年分の出動実績に加え、自動車会社がGPSを使って集めている、幹線道路だけではなく一般道も含めた大量の道路情報データなどを集約。こうした社内外のデータを基に、「どの拠点に、何台ずつ車両を配置すれば、最も短時間でガス漏れに対応できるか」、さまざまなシミュレーションを行い、もっとも効率的な車両配置を導き出したという。
ガス給湯器のメンテナンス作業を効率化した事例もある。過去10年分の修理データ400万件を分析し、各機器における使用年数ごとの交換部品の傾向を把握。これを基に、修理受け付け時に入力された情報と、過去400万件のデータから携行すべき上位5つの部品をピックアップ。併せて在庫情報も表示することで部品調達の迅速化をサポートする「修理傾向部品予測システム」を開発した。従来、故障が発生すると部品調達のため、その日は給湯器が使えなかったが、これによって迅速な修理が可能になり、顧客満足度と業務効率を共に向上できたという。
分析ツールを生かせない、データ分析の3つの勘違い
では同社では、どのようにしてこうした有効な分析ソリューションを実現できるようになったのだろうか? 特に「分析手法を勉強したが、組織で役立てられない」「高いお金を出して、データベースや分析基盤を導入したが活用できない」「分析結果はあるが意思決定に使えない」といった悩みを持つ企業は多い。河本氏は「かつてはわれわれも同じ悩みを抱えていた。それはデータ分析に対する3つの勘違いを犯していたことが大きな原因だった」と振り返る。
「分析はデータ量や手法にこそ価値がある」は大きな勘違い
1つ目はデータ分析の価値を「データ量」や「分析手法」などに置いていたこと。河本氏は「データは素材、分析手法は料理法。そして企業はおいしい料理を求めている。つまりデータ分析の価値はビジネスや意思決定への貢献度に尽きる。高度な分析手法やデータの量に価値を感じるのは危険。価値を正しく認識することが大切だ」と解説する。実際、河本氏らもビジネスの成果に直結しない分析結果をビジネス部門に提示したところ、いかに高度な分析結果でも受け入れてもらえなかった苦い体験があるという。
「分析力さえあればいい」は間違い
2つ目は「分析力さえあればいい」という勘違いを犯さないこと。「当初はまず分析すべき問題があり、それを解くために分析設計をし、必要なデータを集めて数値計算をし、その結果を解釈することが重要と考えていた。しかしそれではビジネスを変えることはできなかった。まず分析問題以前にビジネス課題があり、どのデータを使ってどのような分析を行えば、その課題を解決できるのかという『分析(すべき)問題の発見』がある。さらに分析結果を出したら、それを解釈して意思決定に役立つ知識に変える。ここまでやって初めてビジネスの役に立つ」
ビジネスアナリシスセンターも、かつては「ビジネス課題から分析問題を発見するプロセス」と、「得られた知識を意思決定につなげるプロセス」が抜け落ちており、分析だけに特化した業務を行っていたが、これが誤りだったという。「ビジネスから分析すべき問題を抽出し、分析結果をビジネスにつなげる部分は、あくまでも分析者の役割だ」と河本氏は強調する。
また、例えばコスト削減策など他部門との摩擦が生じやすい案件もある。そうした点にも配慮し、人事異動でキーパーソンが異動したり、組織が変動する時期を見計らって施策を展開するなど「どのタイミングで、どの人間に、どのように施策を伝えるか」といった戦術も大切だという。
勘と経験と度胸を軽視することなかれ
3つ目は勘と経験と度胸を軽視しないこと。「従来は私もこれらによる意思決定は主観的で透明性がなく、データ分析に基づく意思決定は客観的で透明性があると思っていた。勘(Kan)と経験(Keiken)と度胸(Dokyo)――“KKD”をデータ分析で置き換えようと思っていたが、そう思っていた間は何もうまくいかなかった」
これには2つの理由がある。1つはKKDを見下すような姿勢で臨んでも、KKDで会社を支えてきた実績がある現場の人は絶対に理解を示してくれないため。「いかに優れた分析ソリューションを提供しても絶対に現場の方は使ってくれない」。2つ目は「データ分析はKKDより必ずしも優れているものではない」ためだ。
「10年以上やってきてそういう結論に至った。さまざまなシーンにデータ分析を適用してきたがKKDには太刀打ちできないシチュエーションもたくさんあった。例えば突発的な状況での意思決定など、人ならではのフィーリングが求められるようなシーンだ。これらは二者択一のものではなく相補的な関係にある。KKDを大切にしながらデータ分析ならではの客観性、透明性を生かす“データ分析&KKD”が正しい在り方だ」
分析だけしているバックオフィス型の分析者はいらない
では、以上3つのポイントを実践する上で、分析者には日ごろどのような在り方が求められるのだろうか。河本氏はその回答として、「問題を見つける力、解く力、(分析ソリューションを)使わせる力の3つの力を持ち、ビジネス部門と積極的にコミュニケーションを取る“フォワード型の分析者”だ」と解説する。同氏はその一例として先に紹介した「修理傾向部品予測システム」による給湯器のメンテナンス効率化事例を挙げる。
「そもそもこのソリューションは、現場のメンテナンススタッフから依頼されものではなかった。ビジネスアナリシスセンターの一員がメンテナンススタッフとの日ごろのコミュニケーションの中で、修理部品の調達に時間がかかるという問題をたまたま聞いていたことが端緒になった。一方で、彼はビジネスアナリシスセンターの業務の中で、会社が顧客の使用器具データや、過去の修理記録データを保有していることを知った。その結果、課題とデータが結び付いてソリューションをひらめいた。すなわち、現場とのコミュニケーションの中で分析すべき問題を発見した」
だが、分析結果を基に必要な修理部品を予測するツールを作っても、まだハードルはあった。現場のスタッフには長年の業務に裏打ちされたKKDに対する自信がある。頭ではデータ分析の有効性を理解していても、なかなか認めてくれなかったのだという。
「そこで、そうした中でもデータ分析に理解を示してくれた協力的なスタッフだけを集めて先行的に利用してもらった。その結果、いい結果が出たため、彼らを通じてソリューションに対する共感を広めてもらった上で、あらためて全社的にアナウンスした。いわばメンテナンススタッフに“心で理解してもらう”よう努めた」
それだけではない。ツールの有用性は理解されても「忙しいのにこんな難しいツールは使いたくないよ」という声も多かった。そこで現場スタッフが使っていた業務システムの画面上に、予測結果を自動的に表示するようにした。河本氏は「ユーザーに負担を強いるようなシステムはまず使ってもらえない」と強調する。
「何もしなくてもいいレベルに仕上げて初めて、このツールは全社展開されて大きな効果を生んだ。分析力だけではなく、コミュニケーションの中で分析すべき問題を発見する力と、意思決定に知識を役立ててもらうための使わせる力が非常に重要だ。オフィスにこもって分析だけをしているバックオフィス型の分析者ではビジネスを変えることはできない」
真に有効な分析をするためには
そうしたフォワード型分析者をそろえていても、分析にはまだ大きな落とし穴があるという。それは「ビジネス課題に基づき、分析すべき問題を発見する」最初の段階でつまずいてしまうケースだ。
「最初の問題設定を誤ると、いかに高度な分析をしても『そんなことは最初から分かっていたよ』などといわれてしまう。これを避けるためには、問題設定の際に『その問題を分析すると本当にサクセスストーリーが描けるのか、できるだけリアルに思い描いてみること』が大切だ」
正しい問題設定を行うためには以下の4つの壁があるという。
- 分析に必要なデータが本当に集まるか、という「データの壁」
- 分析をして期待通りの成果が得られるかどうか、という「分析の壁」
- 期待通りの成果が得られても、それがKKDに基づく意思決定に勝る結果を生み出せるのか、という「KKDの壁」
- 分析に掛かるコストを上回るだけの効果を生み出せるかどうか、という「費用対効果の壁」
「このうち『分析の壁』はやってみないと分からないが、それ以外はやる前から推測できる。自社やビジネスの知識が浅い若手のデータアナリストにはなかなか難しいことでもあるが、これらを熟慮してから分析を始めることが失敗しないための鉄則といえる」
分析専門組織には人材の多様性が大切
この他、河野氏はいわゆるデータサイエンティストの人材不足が懸念されていることを受けて、「フォワード型分析者に必要な素養」として、論理的思考力、ビジネスの現場とのコミュニケーション力、発想力の3つが重要だとまとめる。
「データ分析には仮設を考える力が不可欠になる。例えば数値解析でいい結果が出て、それに基づいたソリューションをビジネス部門に提案しても、もっと良い方法はないかとリクエストされる場合もある。では、どう改善するか、といった具合に試行錯誤を繰り返す必要がある。この推進力になるのはやはりコミュニケーション力と発想力。論理思考力も、現在は分析ツールが発達して分析自体はより手軽になっているため、ツールを使いこなして分析結果の意味を解釈できれば十分といえる」
育成の重要性も挙げる。特に重要なのは、「ビジネスのミッションと分析のミッションは何なのか」を認識させ、失敗したり役に立たなかったりすれば損失が出る「ビジネス」であることを諭すことだという。こうすることで「責任というプレッシャーがないいわゆる“大学生ノリ”の作業を防げる」。ビジネスの現場を学ばせることも大切だという。ビジネスアナリシスセンターでも、若手スタッフを給湯器のメンテナンス作業やガス漏れ緊急対応業務に同行させるなどして現場を学ばせている。
「有効な分析を行うためには、ビジネスの知見が不可欠。この意味で、分析組織を作る際も分析が得意な人間だけでは機能しない。例えば営業出身で分析スキルはないが、業務経験や社内ネットワークが充実しているビジネスサイドの人材をアサインするのも良い方法。後はビジネスの知見と分析力を生かして、どうすれば現場に刺さり込めるかを考え、地道にやっていくことが大切だ」
河本氏は最後にこのように述べ、「フォワード型のスタンスを保ち、ビジネス部門へのよりよい提案と、経営層への定期的な成果報告を継続的に続けていれば、必ず社内の共感と存在価値を獲得できる」と、データ活用に悩む多くの企業の背中を押した。
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